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短編小説 『汚れた水』

世の中のやつらは今日も平気な顔で汚れた水を飲んでやがる。ばか共め。


あんなもんを飲み続けてると内臓はボロボロ、脳みそは縮こまり、廃人まっしぐらなのは目に見えている。

俺は水分を取るためにミネラルウォーターを飲んだ。
透明で清らかな水が血液の一部となり、その心地よさに俺の身体は喜びで震えた。


さて、夕飯でも買いに行こうか。

男の一人暮らし、料理はほとんどしない。
スーパーの惣菜を少し買えば、それで十分だ。


焼き鳥、ハムカツ、カキフライ。
餃子、春巻き、肉団子。
惣菜は選び放題だ。
俺の身体は、うまい食べ物を目の前にして、身震いした。


悩んで選んだのは、焼き鳥の詰め合わせだ。
もも、ねぎま、砂肝、軟骨、レバー、皮の串が、それぞれ入っている。
砂肝と軟骨は塩でそれ以外はタレだ。

レジに並ぼうとしたが、ふと何かを買い忘れているような気がして、店内を一周することにした。


なんだろう、俺は何を買い忘れている?


気づけば俺の足は、俺を「汚れた水」の売り場に連れてきていた。
缶や瓶に入れられている汚れた水は、すぐに適温で飲めるよう、キリリと冷やされている。

俺は咄嗟に売り場から目を背けた。


おいおい、俺は汚れた水なんて飲まない人間だろ。

手先が震えてくる。

ふん、この震えは汚れた水に対しての嫌悪感からくるやつさ。決して飲みたいわけじゃない。


早くこの売り場を立ち去れ!
自分の体に命令し、早足でレジに向かった。

カゴの中に入っている焼き鳥の盛り合わせを食べる姿を想像する。


うまいっ!
くっと、缶に入った汚れた水を喉に流し込む。
っか〜〜!!最高!



手先が震える。肘から先の腕全体が震える。頭の中は汚れた水でいっぱいになった。

キュッ、と靴音を鳴らして、レジの前で回れ右をする。競歩並みの早歩きで「汚れた水」売り場に戻る。

そしてカゴの中に、琥珀色や透明や炭酸入りの汚れた水を次々と入れていく。時間制限ありの詰め放題かと思うくらいの勢いである。


会計を済ませ、家に戻った、という記憶が朧げだが、レシートがあるからきちんと支払ったんだろう。
とにかく早く飲みたい。


家に着くなり、缶のプルタブを開け琥珀色の汚れた水をぐいっと飲み干した。

っか〜〜!!!


身体の震えが止まった。
うまい!!うまい!うまい、、、。


飲んでしまった。


「汚れた水作戦」も徒労に終わった。

自分があまりにも情けなく、涙で視界が滲んできた。
それでも、飲むのを止めることはできない。

壊れたロボットのように、俺は食べては飲み、食べては飲みを繰り返した。


ああ、同じ過ちを何度繰り返しただろう。

今日もまた、泥のような夜が俺を飲み込み、
ヘドロのような朝が俺にまとわりつく。



こんな俺を、誰かが助けてくれる事はあるのだろうか、、、。


俺は、どうすればいい?
おれは、どうすればいい、、、??

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