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短編小説 『土の中』

ああ、

分かんねえ、分かんねえ、分かんねえと、
地面に頭を擦り付けてたら、

いつの間にか
土の中に
ずんずん ずんずん ずんずん
潜り込んでいた。



ミミズ、モグラ、木の根っこ。
土の中も案外、騒がしい。




それでもずんずん進んで行った。
なぜならやっぱり分からなかったから。



地層
地層
地層



地層


地層



地層、、、、、。









不意に





静かで冷たい場所にきた。



ひんやりしていて心地良い。






??






土の僅かな隙間から、
青白い光が微かに漏れている。




人差し指でつついてみた。





ぼろろっ


と、土の壁が崩れ、ドーム型の空間が現れた。




それほど大きくない土中のドームの中心に、



大きな大きな
蝉の若者が
体を丸めて寝息を立てている。




彼の身体は蓄光石のようにぼんやりと、しかし確かに光を帯びている。



どくん、どくん



と、鼓動が聞こえる。




この蝉の若者は、おそらく、
とてつもなく長い年月を
この土の中で眠り続けていたんだろう。



そしてこの先も、
どれくらい長い間、
眠り続けるのか
分からない。





いつか来る地上での一週間、
目一杯鳴くために、
眠って、眠って、眠り続けているのだ。



地上に出るタイミングは
他の誰にも分からない。


自分自身にも
分からない。




そうか、それで、いいのか。




僕は
今は
土の中で
眠っていてもいいのだ。    



このまま、死んでしまうかもしれない。
いつまで経っても地上には出られないのかもしれない。



それでも、
それでいいのだ。




僕は、
蝉の若者の隣で背中を丸めてうずくまり、
眠ることにした。




今の僕には、

土の中で眠ることが

一番の正解なのである。


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