不安定に宙を漂い クルクルと巻き上げられたと思えば フワリと四方に解け 右へ 左へ 一時何かしら形を成したかと おずおずと手を伸ばせば シュワと解けて 指の間…
産まれたばかりの赤ん坊は まだこの世の者ではないんだよ そう教えてくれたのは 祖母だった いっておいでと 励ます声と 早くおいでと 呼ぶ声と 暗い川を一人下る …
突如虚空に現れた 始まりの一点 無限の可能性の海から生まれた ひとつの意志よ いよいよお前はこの地上に降り立ち その創造の一歩を踏み出した お前はその片足を宇宙に…
合図は突然に交わされて それに先立つものはなく それに続くものもなく 完全な孤独のうちに 限りない純粋さをたずさえて ポトリと生み落とされる すべてを生み出し すべ…
鐘を打つ この祝福された ひと粒の いのちを手にした その瞬間から 静かに 絶え間なく 低く 深く 熱く 激しく 軽やかに 淡々と 柔らかく 煮えたぎり 大地と風…
意気揚々と道を進んで行く男 その行き先を知る者はいない なぜなら彼自身にもわからないのだから 人々の目に 一本の道しか見えず ただそれを進むしかないと 思われると…
大気がまだ荒らされる前の 密やかな約束の時間 粒子は徐々に 光を吸い込んで ゆっくりと色を蓄えてゆく 骨ばった 長くしなやかな祖母の手が 今日もシャラシャラと数珠…
夜明けにはまだ早い この汽水域を 生を持って往来するのは 境目を扱う僧侶のみか 太古より幾万夜を経巡りながら はたしてそれは何度 目撃されたのだろう ましてそ…
母を求めて鳴く娘(こ)らの 声が今宵も放たれる 夜空の星にぶつかって 四方八方砕け散る 幾重に重なる呼び声は あちらこちらを彷徨い飛んで 暗い宇宙へ消えてゆく 母…
女である私の水は ユラユラとよく揺れて 今日も宇宙の声に呼応する 私の水は 漆黒の彼方に産まれた星の 微かな産声さえ聞き洩らさぬまま おずおずと差し出される あの…
私が引き止めたものは 押しなべて腐敗を始め 甘くさわやかな香りは いつしかプツプツと発酵を開始し ゆっくりと酸味を帯びてくる やわらかく握れば 楽しげに握り返して…
その感触を味わうこともなく ただ物を動かすためだけに使ってきたこの指に おぼつかない子猫の頭を 撫でさせてあげよう 無意識に慣れた私の指はまだ そのうぶ毛の震える…
それはおそらく 愚かな羽虫の翅が ブッとひと震えしたほどの あるいは、風に乗って一瞬耳をかすめた 少女のハミングのように ほんの微かなものだったにちがいない。 だ…
はじめまして。 Yoko Hurdy (ヨウコ・ハーディ)と申します。 21年に仕事を辞め 東京の田舎に引っ越したのを機に 植物と自転車(ポタリング)を愛でながら 夫と二人、…
Yoko Hurdy
2023年5月2日 16:18
不安定に宙を漂いクルクルと巻き上げられたと思えばフワリと四方に解け 右へ 左へ一時何かしら形を成したかとおずおずと手を伸ばせばシュワと解けて 指の間から流れ溶けてゆく焦点を結ばぬまま 浮遊する音粒をただなす術もなく じっと見つめるこの時間に何の意味があるのだろうか時に囚われぬ彼らはただその一瞬の内に 完全に充足し飽くことがない世界はどこまでも瑞々しくあ
2023年2月26日 15:42
産まれたばかりの赤ん坊はまだこの世の者ではないんだよそう教えてくれたのは 祖母だったいっておいでと 励ます声と 早くおいでと 呼ぶ声と暗い川を一人下る優しい花籠に守られながらすっぽりと胸に抱かれ頬ずりされて湯につかり乳を飲むコロンコロンと鈴の音を響かせながらギーコギーコと櫂をこぎゆっくりと此岸に近づいて幼い掌を愛でられ柔い足裏を撫で擦られ愛おしむ声をか
2023年2月15日 21:04
突如虚空に現れた 始まりの一点無限の可能性の海から生まれた ひとつの意志よいよいよお前はこの地上に降り立ちその創造の一歩を踏み出したお前はその片足を宇宙に残したままもう片方の足で 濃密な大地を踏みしめるそれゆえ この宇宙にちらばる万物のエッセンスを自在に操り、束ね この地上に あらゆるものを生ぜしめるのだお前の心に描かれる世界はすぐさま魔法のように 姿を現すだろうた
2023年2月8日 12:45
合図は突然に交わされてそれに先立つものはなくそれに続くものもなく完全な孤独のうちに限りない純粋さをたずさえてポトリと生み落とされるすべてを生み出しすべてを飲み込んで限りない純粋と限りない混沌は自由であるものとして充足するものとして孤独であることが純粋であることが愛の条件である孤独に跪き孤独の内にくつろげすべては孤独でありどこまでも自由だ自由
2023年2月6日 20:51
鐘を打つこの祝福された ひと粒のいのちを手にした その瞬間から静かに 絶え間なく低く 深く 熱く 激しく軽やかに 淡々と 柔らかく 煮えたぎり大地と風と 睦み合い 響き合う欠片を求め胸の奥深くから放たれる 鐘の音は四方八方を震わせて 波紋を描き 放射されてゆく波は微細な粒となりすべての事物を 突き抜けてあなたの固く閉ざされたその最奥まで達するほどに聴こ
2021年8月12日 13:50
意気揚々と道を進んで行く男その行き先を知る者はいないなぜなら彼自身にもわからないのだから人々の目に 一本の道しか見えずただそれを進むしかないと 思われるときでさえ彼の眼はそのすべての瞬間に 無数の道を見出し一瞬にして別の道に飛び移ることができるなぜなら彼の前に道があるのではなくただ彼の歩みのみが 道を作るのだから皆、彼のことを愚者と呼ぶ人々の目には 彼が子供っぽく
2021年8月2日 19:13
大気がまだ荒らされる前の密やかな約束の時間粒子は徐々に 光を吸い込んでゆっくりと色を蓄えてゆく骨ばった 長くしなやかな祖母の手が今日もシャラシャラと数珠を転がす少女のように 胸に合わされた両掌と焦点を結ばぬまま 空で唱える異国の呪文はまるで秘めごとを隠す合図のように周囲に次元のベールを引き降ろしうしろから抱き付きたい私の衝動を静かに押しとどめる極と極に在りながら
2021年7月21日 11:08
夜明けにはまだ早い この汽水域を 生を持って往来するのは境目を扱う僧侶のみか 太古より幾万夜を経巡りながらはたしてそれは何度 目撃されたのだろうましてその秘密を知る者など黄昏時の夢を孕み その誕生を一人請け負うこと幾万夜草木も眠る闇中に横たわり一息ごと耐えて育くまんされどこの永遠の試練はひとえにその誕生の奇跡と永遠の愛を持って 贖われるのみそしてまさに今 胎
2021年7月17日 22:59
母を求めて鳴く娘(こ)らの声が今宵も放たれる夜空の星にぶつかって四方八方砕け散る幾重に重なる呼び声はあちらこちらを彷徨い飛んで暗い宇宙へ消えてゆく母よ、母よ、どうか娘らの声をみとめて、聞きとめたまえあわれと思い、聞きとめたまえ
2021年7月11日 19:29
女である私の水はユラユラとよく揺れて今日も宇宙の声に呼応する私の水は漆黒の彼方に産まれた星の微かな産声さえ聞き洩らさぬままおずおずと差し出されるあの人の愛を深く抱いていつくしむ私の水は七日目の蝉の安堵のため息を聞きながら落ち葉の重なりにさえ豊かに応えるだろう私の水は陽光に光る波打ち際の泡のようにコロコロとさざなみ笑い深海の揺りかごの如く異形の
2021年7月4日 12:57
私が引き止めたものは 押しなべて腐敗を始め甘くさわやかな香りはいつしかプツプツと発酵を開始しゆっくりと酸味を帯びてくるやわらかく握れば楽しげに握り返してきた 初心(うぶ)な手はいつしか潤いを失くし 凝固したまま融け合わず時間はもったりと纏わりつき一足ごとに 鈍重さを増してゆくその遅れを取り戻すかのように徐々に鼓動は速まって虫一匹鳴かぬ晩ですら 私を眠らせてはく
2021年6月27日 16:41
その感触を味わうこともなくただ物を動かすためだけに使ってきたこの指におぼつかない子猫の頭を撫でさせてあげよう無意識に慣れた私の指はまだそのうぶ毛の震えるのを感じることができるだろうかただ移動するためだけに使ってきたこの足をその窮屈な靴から解放しひんやりとした土の上に下ろしてあげよう硬くなった私の足はまだ我が子を育もうとする大地の思いを感じ取ることができるだろうか
2021年6月21日 12:53
それはおそらく愚かな羽虫の翅がブッとひと震えしたほどのあるいは、風に乗って一瞬耳をかすめた少女のハミングのようにほんの微かなものだったにちがいない。だがそのわずかな震えは永遠と思われた完璧な均衡を決定的に破壊してしまった。あり得ないと思われたその裂け目から濁流のごとくほとばしり出た喜びはうねり、逆巻き、駆け上り恍惚をもって委ねられた。それはすべての合図
2021年6月19日 12:38
はじめまして。Yoko Hurdy (ヨウコ・ハーディ)と申します。21年に仕事を辞め東京の田舎に引っ越したのを機に植物と自転車(ポタリング)を愛でながら夫と二人、のんびり暮らしております。幼少期からしゃべるのが下手でそれがコンプレックスでした。しかも、本当に感じたことを話そうとすればするほど空回りして上手く言葉にならない不器用な子どもでどうやら私の世界は、匂い