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詩 『 愚者』 (タロット0) 


意気揚々と道を進んで行く男

その行き先を知る者はいない
なぜなら彼自身にもわからないのだから

人々の目に 一本の道しか見えず
ただそれを進むしかないと 思われるときでさえ

彼の眼はそのすべての瞬間に 無数の道を見出し
一瞬にして別の道に飛び移ることができる

なぜなら彼の前に道があるのではなく
ただ彼の歩みのみが 道を作るのだから


皆、彼のことを愚者と呼ぶ

人々の目には 彼が子供っぽく
それゆえ 何も成すことのできない人間に映るかもしれない

思慮に欠け その未熟さゆえに
ただ盲目的に破滅に向かっているのだと

しかしそんな人々の嘲笑ですら
彼にとっては小鳥のさえずりと変わらない

それどころか 失敗による痛みや喪失さえも
彼の歩みを妨げることなどできまい

なぜなら体験
それこそが彼の喜びなのだから


彼はすべてのルール、因習から解放された者
完全なる自由を手に入れた者

彼をつき動かすのはただ
初々しい衝動と 無限に溢れ出す好奇心だけである

彼は、人としての閉ざされた精神を打ち捨て
それを丸ごと宇宙に差出し 
宇宙と一体となることで 
すべてを可能にするのだ

だからこそ 
誰も彼を定義することはできない

人々が理性によって 言葉によって 
理解によって切り刻む生命の力を
彼はただそのものとして生きるのだ

まさに彼こそ 宇宙の愛し子


彼をあざ笑った者はいずれ
心の底から彼を求めることになるだろう

彼とともに行く者は
もしかしたら大きな痛手を負うかもしれない

しかし、彼とともに歩まぬものは 
魂の望みを何一つ
手に入れることはできないのだから


さぁ、今こそ讃えよ

愚者の自由を 盲目を
尽きることのない衝動を!


《  タロットシリーズ 0 愚者  》

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