Yoko Hurdy

自分の中に、たしかにあるけど上手く言葉にならないものを表現しようとすると、詩という形が…

Yoko Hurdy

自分の中に、たしかにあるけど上手く言葉にならないものを表現しようとすると、詩という形がしっくりきます。

最近の記事

詩 『音をあつめて』

不安定に宙を漂い クルクルと巻き上げられたと思えば フワリと四方に解け  右へ 左へ 一時何かしら形を成したかと おずおずと手を伸ばせば シュワと解けて  指の間から流れ溶けてゆく 焦点を結ばぬまま 浮遊する音粒を ただなす術もなく じっと見つめるこの時間に 何の意味があるのだろうか 時に囚われぬ彼らは ただその一瞬の内に 完全に充足し 飽くことがない 世界はどこまでも瑞々しく あらゆる瞬間は ゆるやかで 刹那的で 突発的だ はじき出された私が 唯一つ望むの

    • この世のもの

      産まれたばかりの赤ん坊は まだこの世の者ではないんだよ そう教えてくれたのは 祖母だった いっておいでと 励ます声と  早くおいでと 呼ぶ声と 暗い川を一人下る 優しい花籠に守られながら すっぽりと胸に抱かれ 頬ずりされて 湯につかり 乳を飲む コロンコロンと鈴の音を響かせながら ギーコギーコと櫂をこぎ ゆっくりと此岸に近づいて 幼い掌を愛でられ 柔い足裏を撫で擦られ 愛おしむ声をかけられながら 赤ん坊の中の この世のものは ぼんやりと輪郭を表してくる いつ

      • 詩 『魔術師』 (タロットⅠ)

        突如虚空に現れた 始まりの一点 無限の可能性の海から生まれた ひとつの意志よ いよいよお前はこの地上に降り立ち その創造の一歩を踏み出した お前はその片足を宇宙に残したまま もう片方の足で 濃密な大地を踏みしめる それゆえ この宇宙にちらばる 万物のエッセンスを自在に操り、束ね  この地上に あらゆるものを生ぜしめるのだ お前の心に描かれる世界は すぐさま魔法のように 姿を現すだろう ただ一つだけ 覚えておくがいい お前はまるで神のように 愛、喜び、豊かさ、光を創

        • 詩 『VOID』

          合図は突然に交わされて それに先立つものはなく それに続くものもなく 完全な孤独のうちに 限りない純粋さをたずさえて ポトリと生み落とされる すべてを生み出し すべてを飲み込んで 限りない純粋と 限りない混沌は 自由であるものとして 充足するものとして 孤独であることが 純粋であることが 愛の条件である 孤独に跪き 孤独の内にくつろげ すべては孤独であり どこまでも自由だ 自由である孤独たちは  なんら因果もなく それゆえ ただひとつである

        詩 『音をあつめて』

          詩 『鐘を打つ』

          鐘を打つ この祝福された ひと粒の いのちを手にした その瞬間から 静かに 絶え間なく 低く 深く 熱く 激しく 軽やかに 淡々と 柔らかく 煮えたぎり 大地と風と 睦み合い  響き合う欠片を求め 胸の奥深くから放たれる 鐘の音は 四方八方を震わせて  波紋を描き 放射されてゆく 波は微細な粒となり すべての事物を 突き抜けて あなたの固く閉ざされた その最奥まで達するほどに 聴こえなくなって尚 静かな爆風は 永遠に世界を震わせる 私はここにいる 私は愛し

          詩 『鐘を打つ』

          詩 『 愚者』 (タロット0) 

          意気揚々と道を進んで行く男 その行き先を知る者はいない なぜなら彼自身にもわからないのだから 人々の目に 一本の道しか見えず ただそれを進むしかないと 思われるときでさえ 彼の眼はそのすべての瞬間に 無数の道を見出し 一瞬にして別の道に飛び移ることができる なぜなら彼の前に道があるのではなく ただ彼の歩みのみが 道を作るのだから 皆、彼のことを愚者と呼ぶ 人々の目には 彼が子供っぽく それゆえ 何も成すことのできない人間に映るかもしれない 思慮に欠け その未熟さ

          詩 『 愚者』 (タロット0) 

          ー詩ー 『祈りの形』

          大気がまだ荒らされる前の 密やかな約束の時間 粒子は徐々に 光を吸い込んで ゆっくりと色を蓄えてゆく 骨ばった 長くしなやかな祖母の手が 今日もシャラシャラと数珠を転がす 少女のように 胸に合わされた両掌と 焦点を結ばぬまま 空で唱える異国の呪文は まるで秘めごとを隠す合図のように 周囲に次元のベールを引き降ろし うしろから抱き付きたい私の衝動を 静かに押しとどめる 極と極に在りながら 二つでひとつ 手は同時に生まれ  組み合わされ  叩き合わされ  触れ合い

          ー詩ー 『祈りの形』

          ー詩ー 『彼は誰時』

          夜明けにはまだ早い この汽水域を  生を持って往来するのは 境目を扱う僧侶のみか  太古より幾万夜を経巡りながら はたしてそれは何度 目撃されたのだろう ましてその秘密を知る者など 黄昏時の夢を孕み  その誕生を一人請け負うこと 幾万夜 草木も眠る闇中に横たわり 一息ごと耐えて育くまん されどこの永遠の試練は ひとえにその誕生の奇跡と 永遠の愛を持って 贖われるのみ そしてまさに今 胎動は加速し 重さを消しながら 命は徐々に増してゆく 漆黒の闇に漏れ始めた光は

          ー詩ー 『彼は誰時』

          ー詩ー 『源母』

          母を求めて鳴く娘(こ)らの 声が今宵も放たれる 夜空の星にぶつかって 四方八方砕け散る 幾重に重なる呼び声は あちらこちらを彷徨い飛んで 暗い宇宙へ消えてゆく 母よ、母よ、どうか娘らの 声をみとめて、聞きとめたまえ あわれと思い、聞きとめたまえ

          ー詩ー 『源母』

          ー詩ー 『水』

          女である私の水は ユラユラとよく揺れて 今日も宇宙の声に呼応する 私の水は 漆黒の彼方に産まれた星の 微かな産声さえ聞き洩らさぬまま おずおずと差し出される あの人の愛を 深く抱いていつくしむ 私の水は 七日目の蝉の 安堵のため息を聞きながら 落ち葉の重なりにさえ 豊かに応えるだろう 私の水は 陽光に光る波打ち際の泡のように コロコロとさざなみ笑い 深海の揺りかごの如く 異形のものたちをユラユラとあやし 惑星を掻き混ぜる海流となって 初心(うぶ)な命を生

          ー詩ー 『水』

          ー詩ー 『執着』

          私が引き止めたものは  押しなべて腐敗を始め 甘くさわやかな香りは いつしかプツプツと発酵を開始し ゆっくりと酸味を帯びてくる やわらかく握れば 楽しげに握り返してきた 初心(うぶ)な手は いつしか潤いを失くし 凝固したまま融け合わず 時間はもったりと纏わりつき 一足ごとに 鈍重さを増してゆく その遅れを取り戻すかのように 徐々に鼓動は速まって 虫一匹鳴かぬ晩ですら  私を眠らせてはくれない そうして震える心臓が限界を捉え いよいよ破裂しそうになった その瞬間

          ー詩ー 『執着』

          ー詩ー 『身体』

          その感触を味わうこともなく ただ物を動かすためだけに使ってきたこの指に おぼつかない子猫の頭を 撫でさせてあげよう 無意識に慣れた私の指はまだ そのうぶ毛の震えるのを 感じることができるだろうか ただ移動するためだけに使ってきたこの足を その窮屈な靴から解放し ひんやりとした土の上に 下ろしてあげよう 硬くなった私の足はまだ 我が子を育もうとする大地の思いを 感じ取ることができるだろうか 人と我が身の闇と醜さばかりを 見てきてしまったこの両目に 今度は世界の光と

          ー詩ー 『身体』

          ー 詩 ー 『宇宙の夢』

          それはおそらく 愚かな羽虫の翅が ブッとひと震えしたほどの あるいは、風に乗って一瞬耳をかすめた 少女のハミングのように ほんの微かなものだったにちがいない。 だがそのわずかな震えは 永遠と思われた完璧な均衡を 決定的に破壊してしまった。 あり得ないと思われた その裂け目から 濁流のごとく ほとばしり出た喜びは うねり、逆巻き、駆け上り 恍惚をもって委ねられた。 それはすべての合図だった。 「時」は生まれ落ちたその瞬間 我が身の強大な力に酔いしれただろう。

          ー 詩 ー 『宇宙の夢』

          はじめまして

          はじめまして。 Yoko Hurdy (ヨウコ・ハーディ)と申します。 21年に仕事を辞め 東京の田舎に引っ越したのを機に 植物と自転車(ポタリング)を愛でながら 夫と二人、のんびり暮らしております。 幼少期からしゃべるのが下手で それがコンプレックスでした。 しかも、本当に感じたことを 話そうとすればするほど 空回りして上手く言葉にならない 不器用な子どもで どうやら私の世界は、匂いや感触 温度やリズムや感情 さらには時間や五感をも超えた なにかしらの気配(霊

          はじめまして