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ー詩ー 『身体』


その感触を味わうこともなく
ただ物を動かすためだけに使ってきたこの指に

おぼつかない子猫の頭を
撫でさせてあげよう

無意識に慣れた私の指はまだ
そのうぶ毛の震えるのを
感じることができるだろうか



ただ移動するためだけに使ってきたこの足を
その窮屈な靴から解放し

ひんやりとした土の上に
下ろしてあげよう

硬くなった私の足はまだ
我が子を育もうとする大地の思いを
感じ取ることができるだろうか



人と我が身の闇と醜さばかりを
見てきてしまったこの両目に

今度は世界の光と美しさを
見せてあげよう

暗闇に慣れてしまった私の目にも
まだあの人の中の、予想外のみずみずしさを
認めることができるだろうか



冷たく鋭い言葉ばかり
吐かせてしまったこの舌に

優しく軽やかな言葉を
語らせてあげよう

擦れてしまった私の舌は
まだ子供のように無邪気に
愛を伝えられるだろうか



茨のトゲの、痛み無きようにと
感じることを放棄したこの身体を

硬い鎧から解放し
たっぷりと呼吸を行き渡らせよう

そうして、柔らかくなった私の身体を
あの人の腕に
ゆったりと預けてみたい




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