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ライティングスクール課題集

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記事一覧

薬屋の生活と意見

薬屋の生活と意見

わたしは薬剤師の資格を持っている。

国家試験に合格してすぐに、ドラックストアで働いた。学生時代にアルバイトをしていたので、仕事内容はわかっていた。何より、朝あまり早く出勤しなくていいのがよくて、「遅番」という魔法の言葉が大好きだった。帰りがちょっとぐらい遅くたって、朝ゆっくりできるなら幸せだ。おかげで満員電車に縁のない生活を送ることができていた。

3年の月日が経過した。その間、3か所の店舗

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緊張と喝采のはざまで

緊張と喝采のはざまで

"さあ、本番だ"

コンサート開演前。僕はステージ袖で待機しながら、みんなと他愛もない話をするほんの数分間が好きだった。緊張とリラックスの境目がよく分からない数分間。一方、お客さんとステージに乗る僕たちとの境目はまだはっきりしている。開演を待つお客さんはというと、どんな演奏が聴けるのだろうか?という期待感を持っている人もいれば、全く興味がないのに何かの縁でここに居る人もいるだろう。そんな絵の具のよ

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黒猫ものがたり

黒猫ものがたり

アタシはここ最近の記憶がない。ご飯も誰かが用意してくれていた気がするけど、ある日突然食べる術を失った。けれど、大きな手でアタシの頭をわしゃわしゃ撫でてもらった温かい記憶だけは残っていた。またあの温かい手の感触に包まれたいなぁ…。アタシは何かを求めて住宅街のマンションの吹き抜け広場に毎晩通うようになっていた。

ここには色んな猫たちが集まっていた。野良猫の道を歩むもの、飼い猫として自分の家を持つもの

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詩が遺してくれたもの

詩が遺してくれたもの

とある休日、カフェでコーヒーを飲んでいたわたしの耳に女性2人のこんな会話がとびこんできた。

「仕事なにやってるの?」

「施設で働いてるよ。そんなに忙しくないし悪くないよ」「でもー、高齢者マジ無理。話し相手とか無理」

・・・聞こえてきたのは、なにか気持ちがモヤッとするやり取りだった。モヤモヤの理由はよくわからないけど。

施設といっても色々あって、心身ともに健康に近い高齢者が集うところもあれば

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記憶のパズルを解きながら未来を考えてみた

記憶のパズルを解きながら未来を考えてみた

ワタシは「ご自身の記憶の中で一番心を動かされた経験」という問いに答えを出せずにいた。だって生きていたら色んな経験を積み重ねるじゃないですか。小さなことも大きなことも今のワタシが出来上がるのに必要な原材料じゃないですか。どうやって優先順位をつけたらいいかな?記憶や想い出というものは、頭の中で潮の満ち引きみたいに消えたり、現れたりするし、海水で少しずつ削られる石ころみたいに少しずつ形が変わって、見方や

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遠くの、誰かの声

遠くの、誰かの声

ワンルームに、時報が響く。

皆さんこんばんはぁ!
さあ、今日もやってまいりました、私DJヒビィがお送りするラジオ番組「響け!ハーモニーナイト☆」の時間でーす!

派手な音楽と同時に、やたらとトーンの高い男の声が、静かで雑然とした部屋に場違いに響いた。
毎週同じ曜日・同じ時間に聞いているラジオ番組は、特にお気に入りというわけでも無く、この部屋に引っ越してきた頃からずっと、何となく寝る前に聴くことが

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ゴミ箱と優しさ。

あなたが一番心を動かされた経験は?

心を動かされた、、かー。心を動かされる経験って、どんどん流れて行くんよね。
その時は動かされても、時間が経つと、忙しい日々の中に消えて行く感じ。
でも風化せずに残っている記憶は、ある。数えられるくらいやけど、いっぱい。

何を持って心を動かされたというんやろう。そうやね、僕の場合やと、自分の行動を変えるきっかけになった瞬間が、一番心を動かされたというのにふさわ

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恋人に肩の毛をあげた話

恋人に肩の毛をあげた話

泣いたのは3度だけ物心がついてから、人前で涙を流したことは3度しかない。

元来感情の起伏が少ない質(たち)だったし、何より他人の前で感情を見せることは恥ずかしいという感覚がどこかにあったのだと思う。今もそうだ。

3回の涙は、どれもネガティブな出来事の中で流れたものだったので、あまり他人に話したことはない。例えば最初の涙は人の死に関わるものだった。3度目の涙は、別れに関するものだった。

それ

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『救われない』ってわかってるからこそ、『救い』を切望する私たちについて。

『救われない』ってわかってるからこそ、『救い』を切望する私たちについて。

「やあ、最近元気?」2014年3月末日、総武各駅停車が徐行運転をするほど風が吹き荒れる日曜日の18時。JR御茶ノ水駅前のHUBの、スピーカー直下のテーブル席にて。 私は3か月と8日ぶりに会う青年に向かって声を放つ。そして、日用品がたっぷり入るほど大きいヴィヴィアンウエストウッドのトートバッグの中に手を突っ込み、アメリカンスピリット1㎎のオレンジの箱と蛍光緑のライターを探りだす。

「元気じゃない

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台所の哺乳瓶

台所の哺乳瓶

一度失った信用を取り戻すのは容易ではない。

信用を構築するのは大変なことで、しかし、それはほんの些細なことで壊れてしまう。ビジネスの話ではよく聞く話だ。私たちビジネスパーソンは信用に足る人物になるべく、日々精進すべき。商売を始めたての私は張り切っていた。

裏で呼び鈴が鳴っている。陽二が乳を欲しがっているのだ。そろそろ来る頃だ、と私も思っていた。だけど、ちょうどピザの注文が入って、手が離せない。

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春はあたたかで苦しい。

春はあたたかで苦しい。

子供の頃の春といったら新学期、クラス替えの季節。元来人見知りだったワタシにとって、新しい友達や担任の先生との関係を築く作業というのは無駄な緊張を伴うものだった。中学、高校は部活というシェルターがあったので教室での緊張を忘れることができていた。どこかめんどくさい性格な割に、大きな決断をするときにあまり迷わないワタシは、あっさり東京の大学を選ぶこととなる。当時、地元の新聞には県内の受験生がどこの大学に

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ライティングスクールに入った話

今年に入って毎日noteの投稿を続けている。3月に入っても続いているから、私としては、がんばっている。

飲み会を終電で帰って、日付が変わるまでの30分で書いたこともある。仮に、私が1日投稿を休んだところで

「Yukiさん、今日投稿してないねー」

と、気付いてくれる人もいるかも知れないが、だからと言って責められるわけでもないし、クレームが付くわけでもない。ペナルティが課されるわけでもない。誰か

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東京お遍路①資生堂パーラーで雨宮まみのミートクロケットを食べる。

東京お遍路①資生堂パーラーで雨宮まみのミートクロケットを食べる。



旦那さんの出張にかこつけて、親に赤ちゃんを預けて東京に出かけることにしました。

久々の東京。久々の一人だけで過ごす時間。

一週間前くらいから心が浮き足立って、赤ちゃんが泣いても全然イライラしません。

授乳の時間になるごとに、スマホ片手に行きたい場所やイベントを何度も何度も調べて、頭の中で予定を組み立てます。

美術館に映画館。おいしいもの、買いたいもの。
東京には新しくて美しくてきらびや

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”書く私”を育てるクリエイティブ・ライティングスクール、始まります。

”書く私”を育てるクリエイティブ・ライティングスクール、始まります。

自分一人で「書く力」を育てるのには限界がある。優れた書き手の育成にはプラスのフィードバックが不可欠。ならば大勢でやってしまおう!
月2回の課題提出と、みっちりフィードバック&客観視のワークを通じて、表現者としての足腰を鍛えます。

利益度外視で丁寧に見る予定なので募集人数は少なめです。わりとスパルタです(笑)でも、書きたいことがある人、表現力を伸ばしたい人にとっては最高の環境だと思いますので、もし

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