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#SF小説が好き

SF小説への愛や、好きな作品・作家を語ってください!

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エクストラクト

 砂塵の向こうに霞む街が見える。  男は立ち止まっているとずぶずぶとブーツが沈んでいく流砂の流れに抗うようにして、一歩一歩街の方へと向かって行く。 (また蜃気楼じゃないだろうな)  空を見上げると、太陽すらも砂塵に翳っている。そこに雲がかかっているものだから、正午近い時間だというのに、辺りは夕刻のように薄暗かった。  以前こんな天候の中街を見つけたとき、遠くから見えた街は砂塵の黒と茶色の色彩の中にあっても、彩り豊かな街並みに見えたのだが、近づいてみて男は愕然とした。街は砂に埋

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【小説】天国へのmail address 第一章・優君との出逢い

出逢い お天道様がまどろみから覚めて伸びをする。東の空から薄明かりが浮かび上がると夜空で躍り廻っていた星達の輝きを、魔術のように消していく。 朝顔のつるに溜まった夜露が、ぽたりと地面に落ちる音が一日の始まりを告げる。 朝日ケ丘公園のベンチには老人がスマホを片手に座っていた。 橘克巳(達ばなかつみ)はこの夏で定年を迎えた。会社からは延長の話もあったが体調不良を理由に退職の道を選んだのだ。事実、橘の体調は決して良いと言える状態ではなくなっていのだ。 主治医からは健康維持のため

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【小説】天国へのmail address 最終章『黄泉の国』とは

エピローグ  朝日ヶ丘公園のベンチで橘と優輔は優輔のスマホでその動画を見ていた。匿名のスピーカーが次々とライブ配信を広げて動画は完全に炎上していた。 「お父さんとお母さん、お兄さんも強いね」優輔が言った。 「パパとママじゃないの?」橘は優輔の頭をなでながら笑っていた。優輔もちょっと照れながら笑った。 「モンゲーで遊びたいな」 「向こうに行ったらモンゲーやり放題だよ。海外でしか捕まえられないレアのモンスターが一杯いるよ」橘は自分のスマホでモンゲーを開くと集めたモンスターを登

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宇多田ヒカル(初のベストアルバム) ✕ 小川哲(SF小説・直木賞作家)の対談

1998年末に発売された宇多田ヒカルのファーストアルバム『First Love』は、多くの人がCDを買い求めた(MOHも購入した)。 ベストアルバムはとっくに発売されたと思っていたら、デビューから25年を経て初のベストアルバムがリリースされた。 アルバムタイトルは『SCIENCE FICTION』 それを記念してなのか、SFマガジンに対談が掲載されている。 アルバムの発売日が4月10日、SFマガジン6月号の発売日が4月25日。 早川書房からのアプローチだと思うが、面白い

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聖者の揺り籠(前編)

 エリス・如月は殺すな。生け捕りにしろ。  教官は命令の最後にそう付け加えた。それを聞いて教官の教えに人一倍素直に従ってきたグレンは初めて疑問を抱いた。  エリス・如月は世界を混沌に陥れ、破壊と死の風をもたらした魔女だとされている。ならば、これ以上世界に悪を成さないように速やかなる死を与えるべきでは。万一仕損じでもしたら、厄介なことになる。グレンは正直者だったために挙手をし、その旨を教官に直接ぶつけた。  教官は火のように顔を赤くして、グレンの頬を激しく打った。「愚か者が。貴

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先週末日記(プール/松の花)/先週のスキのお礼/週明けの空

先月末のコロナ罹患から3週間経ち、プール通いが復活した。 週末のプール(週末日記のメイン)その日のコースは空いておりマイペースでゆっくりと。 疲れを感じる前にプールから上がる。 先月、買い替えた水泳用具の使い心地は上々。 今まで使っていたものはパーツが固くなっていたようだ。 松の花 開花時期(4〜5月)松の花を意識して見たことがあるだろうか? 私は知らなかった。 拡大してみる。 先週のスキのお礼いつも記事をご覧頂き、ありがとうございます😊 個展予告とスキのお礼

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自分の小説が今まで読まれた頁数を確認してみた 『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

今まで書いた小説で、Kindle出版した物語は1つだけ。 とはいうものの、長編なので全10冊。   Amazonから久し振りに、振込み通知のメールが来た。 売上は全て Kindle Unlimited。 今まであまり気にもしなかったが、どれくらい読まれたのかを確認してみた。 (全記録を見る方法を初めて知った)   同じ小説が無料で読める「小説家になろう」のアクセス数(購読数)は、桁違いに多い。   「小説家になろう」へ連載を始めたのは2019年末から。 KDPと期間は異

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チェリーブロッサム・ブリザード

 その店には生き物であれば、何でも揃っていた。蜘蛛でも、トカゲでも、猫でも虎でも。そして、人間であろうとも。ただし、すべては現身に過ぎなかった。  現身とは、本物そっくりに制作された人形である。ただし高度な機械技術で根幹を制作されており、動きは本物と遜色ない。精度の高い人工知能も搭載されているため、その動物らしく振舞うこともできる。猫であれば猫らしく。虎であれば虎らしく。そして人間であれば、人間らしく。  店の中に一人で踏み込んだ刑事、蛍は店の棚にずらっと並んだ現身を横目に、

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アイ、シオン

 ある日ぱたりと小説が書けなくなった。  山荘に籠って、食事の時に妻と会話する以外、人と接していないのだから、それも当然かもしれなかった。人間一人の頭で考えつくことなんて、たかが知れている。いわんや僕の頭をや、だ。  そこで悩みに悩みぬいた挙句、Amazonで「AIストーリー生成体験装置」なる巨大な、八畳の僕の書斎の大部分を占領するような機械をぽちっと購入して、この山奥に届くのを待った。その間、僕の小説は一行も進まなかった。危機に瀕して銃を出した主人公が、黒幕が愛する女だった

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聖者の揺り籠(後編)

■前編はこちらから■後編 母が死んだとき、世界はまだ混沌に包まれてはいなかった。  葬儀は大人が取り仕切っていたから、グレンはほとんど覚えていない。覚えているのは、ただ泣きじゃくって母の棺にとりついていたことと、もしかしたら父が来てくれるかもしれないという期待だけだった。  グレンが物心ついたとき、既に父は家にいなかった。母からは父は偉い身分なので忙しいのだとずっと聞かされていた。でも、どれだけ忙しかろうとも、母の葬儀に顔を出さないはずはない、とグレンは信じていて、それを周り

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【追悼:山本弘さん】ぼくが世界でいちばん好きでいちばん嫌いな作家、山本弘とは何者だったのか。(第二回:小説作品編前編)

【『サイバーナイト』の思い出】 この記事は、亡くなった作家の山本弘さんを追悼した記事の第二弾である。  しかし、第一弾とはほぼ独立した内容になっているので、ここから読んでいただいてもかまわない。  それでも気になる方は前回の記事も読んでみてほしい。かなり長いけれど、そこそこ好評だったようだ。  前回は山本さんのネットでの一面を取り上げて、それで気力が尽きて終わってしまったので、今回はかれの小説作品を取り上げよう。  前回も書いたが、ぼくはかれの長編作品はほとんど読んで

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Philip K. Dick::トータル・リコール ディック短篇傑作選【Memorandum, Reading impressions】

3冊目の感想文に時間が掛かってしまったので(途中で読むのを止めていた)4冊目以降は、読み停まる前に記事にしようと思う。 この本は随分前に文庫で読み、Kindleでも読み直した記憶がある。 何度か読んでいるので、今回の読書は記憶の確認であり追憶。 「トータル・リコール」の原題は "We Can Remember It for You Wholesale" 邦題は『追憶売ります』 「トータル・リコール」 We Can Remember It for You Wholesa

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高校時代④ 保健室登校

GW明けの朝、私は家にあった向精神薬や睡眠薬を過剰服用し、そのまま不登校になった。 私は、このときまで驕りがあった。 自分は、家庭環境が悪い中、それなりに頑張ってきた。 中学時代に少し不登校になっても、なんとか学校に通えるようになったし、環境が悪くても、酒もタバコもやっていない。犯罪も犯してない。不良じゃない。高校受験で本気で勉強したら偏差値だってぐっと上がった。 私はちゃんとやれている、と思い込んでいた。 そして、これから人生は好転していくはず、と思っていたのだ。 言って

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天使の隠れ家

 当たり前に明日がくる。そう信じて、いや、きっとそんなこと考えもせず、僕は眠りについた。そして目覚めたら、明日はきた。きたけれど、その明日で僕は、すべての記憶を失っていた。  ベッドから起き上がってまず感じたのは、記憶の有無じゃない。これが自分の体なのか、という自意識の歪み。他人の器の中にするりと入り込んでしまったような羞恥と、申し訳なさ。それが僕の意識を支配していた。  慌てて立ち上がり、鏡を探して、バスルームはどっちだ、ということが分からない。手当たり次第に扉を開けて鏡の

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平和を願うテロリスト

桜舞う躍動の季節。 草木は生い茂り、水の流れが耳を刺激する。 太陽の陽が大地を照らす。 俺には家族がいる。 愛する妻と子どもたち。 豊かな生活とはいえないが、小さな幸せを抱きしめる日々を過ごしていた。 美人の妻と無邪気な子どもたちに囲まれて暮らすのが夢だった。 そう、あの日がくるまでは。 食料を調達するために出稼ぎに出た俺は、 隣町の知り合いの家に宿を借りることにした。 昔ばなしが弾み、時間が過ぎるのを忘れ、深夜まで話し込んでしまった。 翌朝、食材の買い出しをして、足

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SF短編集2冊の感想

少し前に読んだ作品の感想を2件、まとめた記事です どちらもジャンルとしてはSFに相当する作品なのですが、SFってこんな作品もあるんだ、こんな切り口のSFもあったのか、と、意外性を感じ取れる作品集ですので、普段SFというものを読みつけてない方へも、どっぷりSF沼に漬かっている方へもおすすめしてみたい作品となっております 高山羽根子/うどん キツネつきの タイトルにきつねが入っているので読んでみた作品です 創元SF文庫というレーベルのこともあり、SFを読むつもりで飲み始めた

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『野菜大王』と『文具大王』最終章

ネロがくれたもの  放課後、防災無線が地域の方々へ児童の下校見守りをお願いしていた。康太も普段の道を下校していた。前にはサッカー部の先輩が女子に囲まれて歩いている。先輩はエースストライカーで勉強も学年でトップクラス、康太とは比べ物にならないヒーローだ。網に入ったサッカーボールを左の肩から下げて、右手でペン回しをしながら歩く姿は格好が良い。そんな平和な風景に、突然春風が襲い掛かった。クルクルと先輩の右手で回っていたシャープペンシルが風にあおられ地面に落ちてしまった。コロコロ転

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『野菜大王』と『文具大王』第7章・さよならネロ

前章までのあらすじ 食べ物を粗末に扱い不思議に星に囚われてきた康太はカンボジアの少年ネロと知り合う。ファームでピーマンを育てながら二人の友情が深まった時別れの時がやって来た。 さよならネロ プシュ―という音と共にドアが上に向かって開いた。それはまるで康太が普段使っている筆箱その物が大きくなり、窓が付いているようであった。 「康太は一両目に、ネロは二両目に乗車しなさい」鉛筆の化け物が指示をした。言われるままに康太とネロはそれぞれの車両に乗り込んだが、車内は自由に行き来出来る

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うっかり海外文学の日本語訳を写経した結果

 3月半ばから小説写経を試みている。小説写経というもの、基本的には文章力を上げたり、使える語彙を増やしたり、作家のテクニックを盗む目的が強いので、大概は文章力に定評のある日本人作家を選ぶものだと思う。  私は何を思ったのか海外作家でやってしまった。今日はそういう話だ。 小説写経の基本情報小説写経とは何か  読んで字のごとく、小説をそのまま写しとるトレーニングのことだ。トレーニングではなくて、作品に特別な思い入れがあって試みる場合もある。今まで、『聖書(が小説かどうかは置

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『野菜大王』と『文具大王』第5章・台風襲来

前章までのあらすじ 裁判にかけられ有罪となった康太は、ファームの師匠パプリカーンと出会った。厳しい農作業に耐える康太に比べてネロは成れたものだ。パプリカーンはネロに遣り過ぎたと教える。康太の為にならぬと言うのだ。日々ピーマンを育てる康太とネロの絆が深まる中、農作物にとって最大の敵がやって来る。 台風襲来  きっかけは、住所の交換であった。お互いの住所を交換したが紙に書かれた言葉は互いに読む事は出来なかったのだ。「康太! 僕に日本語を教えてくれないか」  ネロの希望で康太は

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