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手塚治虫が選んだ海外SF作品ベスト10

今回は「手塚治虫が選んだ海外SFベスト10」をご紹介いたします。
手塚治虫と言えばSF、SFと言えば手塚治虫というように
手塚治虫が日本のSF業界に与えた影響は計り知れないものがあります。
そんな手塚治虫がどんなSF作品に影響を受けてきたのか
今回はご本人が語るSF小説ベスト10を
ご紹介いたしますのでぜひ最後までご覧になってみてください。





今回は「手塚治虫漫画全集のエッセイ集」7巻を参考に進めます。

本書には手塚先生が
影響を受けた作品、
影響されたポイント
影響されて描いた作品
が記載されております。
タイトルにベスト10とありますがコメントには「作品のベストか否かはともかく創作活動の上で衝撃的な影響を与えたもの」とありますので
ランキングというより順不同の10作と考えた方がよさそうですね。
というわけで、早速見ていきます。

①「山椒魚戦争」 カレル・チャペック

●影響されたポイント 優れた風刺精神 
◎影響されて描いた作品 「ロック冒険記」

これはもう鉄板中の鉄板、キングオブ鉄板のカレルチャペック、手塚先生の大好物でめちゃくちゃ影響を受けたSF作家です。
この作品は山椒魚が人間を追い詰めるストーリーでこれに影響された作品は「ロック冒険記」だけに留まらず「鳥人大系」「人間ども集まれ」も本作の影響下にあります。
「私にはっきりSFマンガの指針をあたえてくれたのである。」と語るように
手塚先生のSFの世界観にはまちがいなくチャペックから見て取れます。

「ロック冒険記」を発表した1952年の日本にはまだ「SF」という言葉すらなく「当時の読者にはほとんど理解されなかった」と漏らしておられるようにその発想はかなりトリッキーなものでした。
しかし一部の読者にはカルチャーショックを与えるインパクトを残し、現代の日本のSF文化が花開いていく訳であります。
「山椒魚戦争」以外の作品では、ご存じ「RUR」
「ロボット」という単語が世界で初めて登場した戯曲。
ロボットと言えばアトムを筆頭に手塚マンガにはたくさんのロボットが出てきて…、とにかく話し出すと止まらなくなるのでこの辺にしておきますが
カレル・チャペックは手塚先生に相当な影響を与えた作家です
ちなみにチャペックの「虫の生活」は「人間昆虫記」に影響与えています。


②「火星年代記」 レイ・ブラッドベリ

●影響されたポイント オムニバスドラマの傑作 
◎影響されて描いた作品 「鳥人大系」

SF業界では定番中の定番作。
「鳥人大系」は他にも映画「猿の惑星」
クリフォード・D・シマックの「都市」の影響も受けています。

このように手塚先生は一つの作品からではなく複数の作品の影響をミキシングする事を得意としていてその他の作品でもこのような事例が多く見られます。
ちなみに「鳥人大系」は先ほどのチャペックの「山椒魚戦争」の影響も受けています。「火星年代記」は火星人と人間との対立を描いているので「キャプテンKEN」あたりもその影響下にありますね。
ブラッドベリの他の作品でいえば短編「万華鏡」は、宇宙船が事故で破壊されて宇宙空間へ放り出された乗組員たちの話なのでもうお分かりですね。
はい、「火の鳥」宇宙編です。


③「月世界最初の人間」 H・G・ウェルズ

●影響されたポイント 描写のすばらしさ 
◎影響されて描いた作品 「ロストワールド」

言わずもがな「SFの巨人」H・G・ウェルズ、
ご多分に漏れず手塚先生も影響受けています。
実は驚くべきことに影響されて描いた「ロストワールド」発表は1948年
そしてウェルズ「月世界最初の人間」は1901年発行なのですが日本語訳が発売されたのが1951年なのであります。
つまり翻訳前の状態を読んで正しく理解し影響受けていたことが分かります。しかもこの時なんとまだ若干20歳の大学生ですからやはりすでに天才の片鱗が垣間見れますね。恐るべし手塚治虫。


④「火星のオデッセイ」スタンリィ・G・ワインボウム

●影響されたポイント 奇想天外ギャグ 
◎影響されて描いた作品 「荒野の七ひき」

ワインボウムのSF処女作ながら絶賛された不朽の名作
あのアシモフをして「完璧なキャンベル型SF小説だ」と言わしめたエポックメイキング的な傑作です。
「荒野の七ひき」は短編なんですけどモロにというかそのまんまですね。
火星に不時着して異星人と相互理解できないという展開は手塚マンガに打ってつけの題材。
影響されたポイントが奇想天外ギャグっていうのが良く分かりませんが…


⑤「アルジャーノンに花束を」 ダニエル・キイス

●影響されたポイント ロマン 
◎影響されて描いた作品「ヤジとボク」

日本でも話題になりましたのでご存じの方も多いと思います。
知的障害者を描いた作品で、知能とはただ頭が良いということを指すのではなく共感する心や、愛情を受けたり与えたりする能力がないと不完全ですよという内容で非常に手塚作品っぽいニュアンスがあるんですが以外にもダニエルキイスに影響を受けたと言われているのはこの作品だけなんですよね。

ダニエルキイスって障害者を扱ったものが多いの他の手塚作品にも影響ありそうですがありません。
多重人格ものの「24人のビリーミリガン」とか障害を抱えたテーマが多くブラックジャックっぽいところもあるにはあるんですがダニエル・キイスは本作のみとなっています。


⑥「発狂した宇宙」 フレドリック・ブラウン

●影響されたポイント サスペンスドラマの見本 
◎影響されて描いた作品「火の鳥」

はい。これパラレルワールドテーマの見本のような作品なんですけど
正直「火の鳥」がこれのどの部分に影響を受けたのかな?
というところはあります(笑)
平行世界を描いたところが影響なのはちょっと理解できますけどサスペンスドラマの見本と言われてもちょっと接点が見えません。

超自然的またはオカルト的要素なんでしょうか。。。
フレドリック・ブラウンがそういう作家と言えばそういう気もしますが
じゃあ「発狂した宇宙」じゃなくても良くね。って感じですかね。
まぁ手塚先生が言うんですからそうなんでしょう。

ちなみにストヴィンスキーのバレエ「火の鳥」とか
1955年発表のロシアの童話原作の「せむしの仔馬」という作品の
脇役の火の鳥が「火の鳥」のルーツであると先生が公言しているので知っているんですがこの作品のどこに影響を感じたのかは、なかなかのサスペンスであります。


⑦「盗まれた街」 ジャック・フィニィ

●影響されたポイント 不気味さと怖さ 
◎影響されて描いた作品「マグマ大使」

1955年に発表されたSF小説でハリウッドでも映画化され4~5回リメイクされるほどの人気を誇るSF小説の古典と呼ばれる名作中の名作であります。
『ボディ・スナッチャーズ』とか『インベージョン』というタイトルでリメイクされておりますので見たことある方も多いのではないでしょうか。

夫が妻を、子が親を、友人が友人を偽物だと思いはじめ
何が何だか分からない現象が起きるんですけど、それはすべて人間そっくりに変身していた謎の生命体であり宇宙からの侵略者だったというお話。
これ「マグマ大使」より「グランドール」の方が近いですね。

短編では「7日の恐怖」や「人間牧場」とか「赤の他人」でも展開される得体の知れない存在に襲われる怖さ、静寂のホラー、存在意義をも問われる世界観、確かにこれは不気味さと怖さを兼ね備えたSF小説です。見事に影響受けてますね。


⑧「モロー博士の島」 H・G・ウェルズ

●影響されたポイント 動物変身の面白さ 
◎影響されて描いた作品「地球対戦」

今回2度目のH・G・ウェルズ
獣を改造し、新しい人間を創造するホラーSFの傑作であり、この時すでに
現代の遺伝子改造を予見するかのような革新的なストーリーは間違いなく手塚先生の大好物です。
動物変身の面白さに影響を受けたと書いてありますがなぜその作品が「地球対戦」なんでしょう???むむむ…。
「地球対戦」って1957年に雑誌『おもしろブック』に連載された近未来SF戦争ストーリーで恐怖政治とそこで弾圧される人々の姿を描いているんですけどコレ、手塚先生、及び編集者さんの写植ミスなんじゃなかろうかとずっと思っています(笑)
ボクのような凡人には本作との接点への理解が及ばないので知っておられる方、誰かご教授くださいませ。
それこそメタモルフォーゼ。「ザムザ復活」とかなら分かるんですけどね。


⑨「トンネル」 ベルンハルト・ケラーマン

●影響されたポイント 大河ドラマツルギー 
◎影響されて描いた作品「地底国の怪人」

1913年ドイツで刊行された国際的ベストセラー小説であり、かのヒトラーも読んでいたと言われる名作。
手塚治虫と言えばこれ一択と呼んでも差し支えないくらいのゴリ推し作品。なんせ翻訳本の帯にも手塚先生の名前出ちゃってるくらい本作との関連性は深いです。
ゲーテの「ファウスト」ならびにドストエフスキーの「罪と罰」
そしてこの「トンネル」と児童文学でもない文学作品を漫画化したい思いが手塚先生の中には常にあり積極的に世界文学作品を漫画化していました。

ファウストは生涯に3回、そしてこのトンネルは生涯に「地底国の怪人」「アバンチュール21」と2回もリメイクしているくらい大好きな作品であり影響を受け散らかした作品であります。
今回ご紹介した作品群の中では読みやすいと思いますので興味がある方は是非読んでみてください。


⑩「輪廻の蛇」 ロバート・A・ハインライン

●影響されたポイント タイムパラドックスの面白さ 
◎影響されて描いた作品 「キャプテンKEN」

アイザック・アシモフ、アーサー・C・クラークと並んで、世界SF界のビッグスリーと呼ばれるハインライン
SF界の長老、そしてSFを大衆化させた功労者でもあります。
これはその中でも超有名作で「プリディスティネーション」というタイトルで映画化もされているのでご存じの方も多いのではないでしょうか。
このタイムパラドクス系は「キャプテンKEN」を筆頭に「ガラスの城の記憶」「火の鳥望郷編」などその他、SF短編、など数多くの作品で影響を受け散らかしているくらいの大好物。

手塚治虫の時間軸をうねらせる展開はもはやおなじみの得意分野でありますから本作からはかなりの影響を受けたと言っても決して過言ではありません。手塚治虫と言えばタイムパラドクスと呼ばれるくらい影響受けた作品ですから本作の手塚治虫に与えた影響は計り知れないものがありますね。


はいという訳で「手塚治虫が選んだ海外SFベスト10」見て参りました。
如何でしたでしょうか。
いづれの作品も今見ても色褪せないものばかりです。
それはテーマが普遍的であり時代に関係なく楽しめる作品である証拠です。
手塚治虫に影響を与えた至極のラインナップ
これを機会に是非チェックしてみてはいかがでしょうか


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