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【難解】正解者わずか2名の衝撃作!手塚治虫が放つSFパラドクス!「キャプテンKEN」

今回は謎解き要素が話題になった本格的SF作品「キャプテンKEN」をお送りいたします。

本作は連載中に「キャプテンKENの正体は誰だ?」という謎を
懸賞付きで応募した結果、4万通以上の応募があったそうですが
なんと正解者がたった2名しかいなかったという超難解なギミックが仕込まれたSF超大作であります。

今回はそんな当時の子供たちを惑わせた曰く作をご紹介いたしますので
ぜひ現代のみなさんもその謎解きの妙を体験してみてください


それでは本編行ってみましょう

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本作は1960年から1961年に
雑誌「週刊少年サンデー」に連載されたSF作品であります。

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あらすじは
未来の火星が舞台です。
火星に侵略した地球人は火星人たちを虐待、殺害、強制収容所で過酷労働させたりして完全植民地とし、火星人と地球人は仲の悪い間柄でありました。

そんなある日、
地球人のマモル少年の家に地球から親戚の女の子・水上 (みなかみ けん)ケンがやって来るということでマモルはケンを迎えに行くと、
その道中で先住民である火星人に襲われます。
そこへキャプテンケンと名乗るスゴ腕のガンマン少年が突如現れ
マモル少年は助けられます。
キャプテンケンは襲ってきた火星人も憎まず
地球人も助け、どっちの味方なのか分かりません。

しかも驚くべきことに
このキャプテンケンと名乗る少年と
地球からやってきた親戚の女の子水上ケンがソックリだったんです。

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同一人物ではないかと間違うほどソックリで
キャプテンケンとは一体何者なのか?
地球人?
はたまた火星人?
地球人と火星人の因縁の争いはどの関係してくるのか?

謎を呼ぶストーリーの結末はいかに?
というのが本編のあらすじであります。


本作は
火星の開拓時代を舞台としたウエスタン調の異色SF活劇となっております。

数々のSF活劇をテーマにしている手塚先生ですが
この設定はなかなかにトリッキーです(笑)

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おそらく連載当時「西部劇」が流行っていたのと
火星開拓をアメリカの西部開拓時代のネイティブアメリカンとなぞらえて
SFでありながら西部劇の設定をそのまんま乗っけたんでしょうけど
読んでいると現代劇なのかSFなのか西部劇なのか
訳わかんなくなってきます(笑)
当時の子供たちも混乱しなかったんでしょうかね。

あとがきで

「火星が舞台であるSFものというために読者はかなりとまどって
「0マン」ほどの反響は得られませんでした」

とコメントされているんでやっぱり読者は混乱されたようなんですが…

そこじゃないんですよね(笑)


舞台が火星だったから戸惑ったんじゃなくて「西部劇」が混乱の原因だと
ボクは思うんですけどね。
「SF」に西部劇設定を加えたからややこしくなった原因だと思うんですけど…これはみなさんどうだったんでしょ。

藤子先生の「まんが道」でも西部劇の映画見て興奮するシーンが描かれているので当時の西部劇人気って熱を帯びるものがあったんだと思います。

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「まんが道」のあの興奮の鼻息ハンパじゃないですもんね。
だからって火星に西部劇って設定はやっぱり違和感が凄いんですけど皆さんは如何なもんでしょ。。。


そしてこの時期の手塚作品って
こういう侵略戦争の設定がすごい多いです。
「地底国の怪人」「ロック冒険記」に始まり「0マン」くらいまで
結構な作品で侵略の対立構造のマンガ描いています。
手塚先生も本作で「火星対地球」みたいな侵略戦争を描きたかったのは
当時の社会情勢が侵略戦争や民族解放といった背景があったことも影響あるでしょうし

なにより戦争に負けた日本がアメリカの侵略統治を受けていた影響が
手塚先生には強く残っちゃっているんですよね
手塚先生は多感な少年時代にモロにこれを喰らっているので
その影響は後の作品にもしっかり表れています。

この「キャプテンKen」も表向きは火星開拓者なので西部劇という建て付けですけど潜在的には野蛮なアメリカ人に侵略された日本の構図そのものですよね。

KENの鉢巻きには露骨に日の丸が描かれていますし
地球人という設定なのに「日本人」という言葉が出てきます。
手塚先生が意図したものなのか分かりませんが
日本が平和を訴えかける立ち位置を示しているようにも見えますよね。

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ネタバレの部分になっちゃうんですけど
クライマックスの直接的原因は放射能による後遺症が原因ですから
間接的に核兵器の悲劇、悲惨さを訴えかける構図にもなっています。

「子供向け」とはいえこの辺りが手塚漫画が
他の漫画と違う何かを兼ね備えていた特徴と言えます。



そして何と言っても本作最大の特徴と言えば
「キャプテン・ケンの正体は誰か? 」という懸賞が行われたことでしょう。

正解者には「手塚先生のサイン入り色紙と新刊の漫画本があたる」というもので、実に4万通もの応募があったそうです。
当時の「週刊少年サンデー」の発行部数が約30万部くらいですから4万通といえば相当な応募数があったことが伺えます。

1960年初頭ですからそこまでエンタメなんてものもないですし
恐らく当時の子供たちは「誰だ!誰だ!」なんて学校で噂になっていたんでしょうね。

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そんな話題を振りまいた読者応募でありましたが


正解者は…なんと


たったの2名だったそうです。


しかもこの2名には正解したにも関わらず手塚プロは
懸賞品を送ってないんですね(笑)
これには手塚先生も「申し訳ない」と気をとがめていたそうなんですが
後にこのうちの1名が虫プロダクションに入社して
一流のアニメーターになるという巡り合わせが起きております。

だから先生はこの方を見るたびに
毎回申し訳ない気持ちになっていたそうで…。


ここでちょっと(注釈)を入れておきますが
掲載誌の「週刊少年サンデー」には当選者3名と掲載されており
ウィキペディアを見ると4名とも記載されております。
しかし手塚先生自身2名と言っており、全集にも2名と描かれております。
じゃあ一体「どれが本当なの」ということですが
どうやら4名のうち3名が同一人物、もしくは近親者であり
実際は2名だったということが手塚プロの公式見解となっておりますので
ここでは2名として紹介させていただきました。


さぁ注目の「キャプテン・ケンの正体 」でありますが
ここからは(ネタバレ)になりますので聞きたくない方はここでご退場くださいませ。

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さぁその正体でありますが
当時の読者、約90%の人は、キャプテン・ケンと水上ケンは同一人物だという回答だったそうです。
実際本編でも意図的に入れ替わっているように描かれているので
同一人物だと思い込んでもしょうがないと思います。

では一体その正体は何だったのか?

実は、キャプテンケンとは…


「タイムマシンに乗って20年後の未来からやってきた
水上ケンの息子だった」 

という訳です。

なぜ未来からやって来たのかと言うと
火星での戦争で被爆したお母さんが20年後の未来に傷害が発症するんです
それを防ぐために過去に戻ってきたという設定なのです。

タイムマシンに乗って過去に戻った未来人が
大切な人を守るというまさにターミネーターのようなストーリーですが
これが1961年ではほとんどの人が理解できない発想だったわけなんです。

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今じゃ散々こすり倒された当たり前のような展開でありますが
当時は想像もできない。想像すら難しい…

おそらく
黒電話の世の中でスマホの存在を想像できないのと一緒のような
感覚だったんじゃないでしょうか・


でも連載中に実は「タイムマシン」の大ヒントが隠されていたんです。
連載15回話目にデブンという悪党がキャプテンケンを捕まえ
心を読み取る装置を使ってキャプテンケンの頭の中を探るシーンがあるんですけど、そこで未来からやって来たことを暗示させるシーンがあるんです。
ですが…これは単行本化の際に分かりやすいという理由でカットされちゃっています。

ですから単行本から読んだ人には難しい難題だったかもしれませんが
連載中の読者はそれを見ているはずなんで
もう少し正解者がいても可笑しくなかったんですけど
それでも理解できなかったのはやはりそれが当時の背景なんでしょうね。

ちなみに
最後の辺りの展開はジョンコナーがどうのこうのって言うターミネーターを彷彿させるコマに見えますからやはり手塚先生の先見性には驚かされます。



そして本作にはモデルとなる作品があります。

手塚先生は1959年ロバート・A・ハインライン原作の
究極のタイムパラドックス小説「輪廻の蛇」に影響を受けて描いたと語っておられます。

ハインラインと言えば「SF界の長老」とも呼ばれ
アイザック・アシモフ、アーサー・クラークと並ぶSF界のビッグスリーの一人です。

この「輪廻の蛇」は超短編で30~40ページくらいしかないので
非常に読みやすいのですが
一回読んだだけでは理解が難しい円環ものなんですね。

タイムトラベルによるパラドクスが醍醐味なんですけど
ボクの理解力が乏しさも原因ではありますが
パラドクスすぎてちょっと頭おかしくなる設定でパンクしそうになります。

手塚先生が影響を受けたと公言しているように秀逸なパラドクス小説ではあるのですが、むしろタイムパラドクスよりも
未来から来た自分と妊娠したり
時空を超えた性行為とか両性具有描写もあるんで
輪廻転生のSF版ともいえる生命観、倫理観の方が影響受けたんじゃないかと思えるくらい手塚先生のドストライクな短編です。

さすがにこの設定は本編では採用されておりませんが
「火の鳥望郷編」とか「ガラスの城の記録」などでは
時空を超えた性行為が炸裂しておりますので間違いなく
この辺りも影響を受けていたと言えるでしょう。

救いのなさ加減も手塚作品っぽいですから
手塚SFを語る上でこのハインラインの存在抜きには語れないほど
手塚治虫にとって重要な人物であります。

ハインラインだけじゃなく、アシモフもそうですけどこのSFビッグ3の影響は計り知れないほど手塚先生は受けているので他の作品でも随所に見ることができます。
この辺りはまた別の機会にでもご紹介していきましょう。


ちなみにこの「輪廻の蛇」は映画化もされており
2014年イーサン・ホーク主演で『プリデスティネーション』というタイトルで公開されております。
興味のある方はぜひご覧になってみてください。


という訳で「キャプテンKEN」お届けいたしました。

時代背景から見えてくる漫画の変遷とともに今回はお届けいたしました。
如何でしたでしょうか。
まだまだ成熟されていない漫画文化の中で
手塚先生が試行錯誤していた姿が伺えたのではないかと思います。

最後までご覧くださりありがとうございました。


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