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手塚治虫と藤子F不二雄の常識と価値観を破壊する異色SF短編作!荒野の七ひきとミノタウロスの皿!

今回は手塚治虫SF短編の代表作「荒野の七ひき」をお届けします。

多くの手塚短編の中でも傑作の呼び声高い本作は
異星人との関わりの中で常識という価値観をぶっ壊す非常に考えさせられる短編になっており読み終えた後の読後感には深い余韻を残してくれる作品となっております。

そして今回は同じSF短編の傑作として
藤子F不二雄先生の「ミノタウロスの皿」もご紹介いたします。
こちらも藤子F短編の代表作というかベタ中のベタとも言える有名作

同じく常識という価値観を破壊させてくれるSF短編の傑作であり
どちらも「人間とは」「人類とは」を深く考えさせられる
重厚なメッセージが込められております。


今回ご紹介する二つの作品は代表作だけあってめちゃくちゃ面白いので
もう絶対に読んで欲しい超おすすめ作となっております。
天才と呼ばれる巨匠2人の才能が迸っている短編でありますから
見逃さないためにもぜひ最後までご覧になってみてください。


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まずは手塚先生の短編「荒野の七ひき」から見ていきましょう。

あらすじは
2人の地球防衛警察の決死隊員が
宇宙人を奇襲攻撃し5匹の生き残りを捕虜にします。
しかし本部へ護送中に護送車が壊れてしまい
止むを得ず荒野を彷徨い歩いて宇宙人を護送していくというお話です。

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炎天下の荒野では水も食料もない極限状態で
非常に過酷な護送になります。
暑さに耐えきれず水分不足で今にも死にそうな宇宙人に
自ら生成した水を分け与える宇宙人がいたり
自らの身体を差し出し
食料としてみんなに分け与え始める宇宙人もいて
護送でありながら各々が死なないように助け合いながら歩き続けます。

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しかし地球人の2人にはその行動が理解できないんですね。

ある宇宙人にとっては、
ひもじい者には自らの身体を与えるという習慣があり
それがこの宇宙を生き残ってきた生存戦略なのですが
その行為が地球人には全く理解できないんです。

価値観も習慣も文化も違うもの同士
お互いを理解しあう捕虜の宇宙人たちの行動が
地球人には不可思議な行動に見えるんです。

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「地球じゃそんな習慣なんかない」と主張する地球人は
非常に横暴な振る舞いで接し超絶にわがままな行動をとります。

その地球人に対し
ひとりの宇宙人は
「どの星の習慣でもそれぞれの星では通じないもの」と諭しますが

それでも
種族の異なる者同士の自己犠牲と助け合いの行動が理解できず
ついには助けを呼ぼうとした宇宙人を疑い
助かるチャンスをも踏みにじってしまいます。

さぁこの後いったい一向にはどんな結末が待っているのでしょうか
というのが本作のあらすじになっております。

助け合って生き残ろうとする宇宙人と
どこまでも身勝手で傲慢な地球人

価値観の違う者同士が過酷な環境下で繰り広げるドラマ
眩いまでのラスト、ぜひご覧になって欲しいです。

本編の最後には
ネタバレ解説しておりますので気になる方はチェックしてみてください

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続いて藤子F先生の「ミノタウロスの皿」見ていきましょう。

こちらも手塚先生と同じく
SFを舞台にした衝撃のラストが待ち受ける傑作短編。

あらすじは
宇宙船の故障で主人公がとある惑星に不時着します。
幸いにもその星には酸素もあり人間もおり
非常に地球と良く似た惑星でした

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しかしその星にはいくつか可笑しな違和感を感じるんです。
その違和感とはこの星では牛の姿をした生き物が支配しており
人間が家畜として飼われているということでした。

さらに助けてくれた可愛い女の子が今度の大祭の祝宴にて
牛たちに食べられる事になるというのです。

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「そんな残虐なことはさせない」
「ボクが助けてあげる」と言うのですが
彼女は「これは非常に名誉なこと」「地球では食べられないの?」
全く話が通じません。


どうやらこの星では牛が人を食べるのが当たり前で
食べられるものに選ばれると言うことは永久に名前が残る大変名誉なことだと言うのです。


どんな事をしてでもそんなひどい事を止めさせようと
偉い人(牛)にかけあって熱弁をふるったり必死に助けようとするものの
価値観がまるで違い言葉は通じるのに話が全く通じません

彼女本人も、彼女の家族も食べられることに1ミリの疑いもなく
むしろ牛に食べられることが当たり前で
それに応えようとすらしているんです。

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この星に住むすべての者が狂った常識と不条理さの中で生活していることに
恐ろしさを感じてしまうんですね。

それでも本番の当日についに
彼女を助け出すために銃を握り大祭を阻止することを決意します、

さぁはたしてこの物語のクライマックスは如何に?
というのが本編の内容になっております。


この最後の読後感はですね、猛烈ですよ。猛烈。
かなりショッキングな結末が待っていますので
ぜひ読まれたことがない方は読んでみてください。


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さていかがでしたでしょうか。
巨匠お二人の「人間とは」「人類とは」を深く考えさせられる
重厚なメッセージを込めた短編
ここからはネタバレしますので続きを知りたくない方は
ぜひ概要欄のアマゾンリンクをポチって本編をお楽しみください。

それではネタバレいきます。


さぁまずは手塚先生の「荒野の七ひき」ですが

極限状態の中、徐々に衰弱しきっていく者
みんなに食べられてボロボロになって死んでいく者
もうダメかと思われたそのとき
威圧的に振る舞う地球人の一人は
人間を見つけ、助けが来たと手を振りますが
人間同士の争いになり、ついには人間に殺されてしまいます。


生き残ったもう一人の地球人は
身勝手で傲慢な地球人の姿に惨めさを感じ
宇宙人に問います…。
「なぜきみたち皆は簡単に身を捨てて他の者に尽くすんだ」

すると宇宙人は
「なぜ?それはこちらから聞きたい。なぜ地球人にはその心がないのか?」と…

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種族や価値観こそ違えどなぜ
地球人には他者を思いやる心がないのかと問われるわけです。

そしてついに助けが来て一向は無事生還します。

傲慢、身勝手、自己中を貫いた者は死に
お互い手を取り合った者だけが助かった現実

宇宙人たちが本部へ護送されていく中
生き残った地球人は地球防衛警察に対し
宇宙人を解放すると言いだします。

「なんだって!君は正気なのか」という地球防衛警察の面々…

そして彼はこう言い放ちます。

「せめて地球人のまごころをしめすんです」と・

最後の最後に互いの心が理解しあい
地平線にその姿が消えてゆくというラストになっております。


いや~いい話です。
価値観の違う者同士で他人との違いを理解できない地球人の横暴さ
もう最低のクソ野郎として地球人が描かれていますが
最後には地球人の一人が助け合い、相手を理解する心を持ち
地球人としての誇りを見せるお話

わずか21ページの短編でここまで深いテーマを
描き切っているのはさすが手塚治虫というべき短編です。

異星人、異文化というこれまでの常識が通用しない者同士が
他者との違いを理解し、どのように接していくかという構図は
現代社会や人間関係に置き換えてみると非常に考えさせられるテーマです。

他人を傷つけてでも
自分さえ良ければいいといった身勝手な行動や思想の集合体が
現代の争いの絶えない世の中の縮図になっているところをみると
本作のシンプルでいて深いメッセージ性はいつの世においても人類の普遍的なテーマであることを示していると感じます。


でもね、
誰もが分かっちゃいるんだけれども
これがなかなかに難しいものです…。
それは
人間である以上どこかで優劣の基準を持ってしまうからなんですよね。

人は理性を保つために自然と何かと比べてしまう生き物です。

これに対し手塚先生はタイトルで一つの答えを示しています。

なぜ『荒野の七ひき』なのか?
2人の地球人と、5人の宇宙人を捕虜、
なぜ「七人」ではなく「七ひき」なのか?
 
それはつまり、地球人も、宇宙人もなく、同じ7ひきの生き物である、
優劣などなくすべての生物は同列という
手塚先生が込めたメッセージなのではないでしょうか。

種族や文化や価値観の違いによって一方が支配したり
上とか下とかそういう優劣などはなく
同じ生き物として互いに協力しあい手を取り合って生きていく
それこそが地球人として、生物としての
本来の在り方なのではないかということなのだと思います。


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続きまして藤子F先生の「ミノタウロスの皿」

こちらのラストは
祝宴当日、彼女を助け出そうと必死に探しまわるも
すでに彼女は大祭の神輿の上に。

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連れていかれる彼女を大声をあげて助けようとするも
彼女には助かろうとする気持ちが全くありません。

むしろ
「お皿の近くに座ってうんと食べなきゃいやよ」
心の底から食べられることを望み、その言葉通り祝宴の皿の上で
彼女はその身を捧げ、ついにみんなに食べられてしまうんです。

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それをボー然と佇むことしかできなかった主人公

助けることができず自分の無力さを知り脱力しちゃうんですね。


そして

暫くして地球より助けの宇宙船が来て
その星から脱出するのですが
そこには
主人公が宇宙船の中で涙ながらにステーキを喰らう姿であった…
というのがオチとなっております。


どうですかコレ
ハンパじゃないオチですよね。藤子F恐るべしって感じです。

これ、人と家畜の立場が逆転しただけって設定だけじゃなく
何重にも価値観や常識の違いを感じさせるポイントが散りばめられています。

本作でいう地球人、人類の常識が全く通じない環境というのは
我々が持っている絶対的なものは機能しないということを教えてくれます。
これは手塚先生の作品とも似ているのですが
相手の立場や思想、環境によって常識なんてものは
簡単に変化してしまうということ…。

自分が当たり前だと思っていても
立場によってはそれは異端になりえるということです。

本作で主人公が
「相手の立場でものを考える能力が全く欠けている」というセリフがありますが、まさにこれは逆
この世界においては主人公の思考が全くの逆なんです。

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これ自分に置き換えてみると
宇宙人が地球にやってきて「牛を食べるのは残虐だからやめてくれ」と叫び散らしているのと一緒なんです。
「はぁ」何言ってんの?って感じですよね。


そしてラストシーンではボー然と涙しながらも
大好きなステーキを喰い散らかすシーンには
藤子F先生の本質的な怖さを感じます。

結局お前も同類だぞ言う皮肉たっぷりの猛烈なメッセージ


散々、残虐だなんだ駆けずり回って非難しておきながら
自分も同じことをしているという怖さ。
目の前のステーキとさっきまで会っていた女の子の存在って
絶対にダブらせちゃいますよコレ。めちゃくちゃ怖いシーンです
これは震えましたね。

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そしてさらに本作に不気味さをプラスしているのが
家畜と支配者との間にしっかりとしたコミュニケーションが成立していることです。


捕食するものが高圧的に支配しているのではなく
互いの役割を理解した上で相互関係が成り立っているという不気味さ

捕食者は礼節をもって家畜と接しており
食べられる側もそれを名誉に感じている
決して強制なんてものではなくそれが日常になっている

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だからこそ余計に不気味さを感じさせるわけですよ
意思疎通が取れている
コミュニケーションが可能な相手を当たり前のように食べてしまえる設定は恐怖でしかないですね。

家畜に人格と知性があるんですよ、
それを平気で食べてしまえるってめちゃくちゃ怖いです。
しかもそれが「ドラえもん」と同じコマ割りで描いてくるから
もっと怖いんですよ。もう藤子F先生変態です。ほんと。

この短編には
死ぬことに対しての価値観や生きることについての在り方など
「は!」っとさせられるセリフがたくさんあります。
ぜひご自身の目で体験して欲しいと思います。



そして本作は藤子F先生のSF短編の処女作と言われています。
それまでに短編描いていなかったんでしょうかね。なんか意外ですね。
こういう大人向けのブラック短編が初ということなんでしょうか。

1969年当時は「21エモン」「ウメ星デンカ」が思うようにヒットせず落ち込んでいた時期だったそうで大人向け雑誌のビックコミックから
「描いてみないか」と打診があったそうなんですね。

ですけどF先生は
「ボクのマンガはご存じお子様ランチなんで」
と大人マンガはずっと断っていたそうなんですけど
いろいろと気持ちが乗せられて「大人向けマンガ」を描いてみたそうです。

その一発目がコレですからね!
もうその眠っていたブラックな才能がデビューから爆裂してます(笑)。
ハンパじゃない破壊力です。


ここから怒涛のF先生のブラック作品が連発していくんですけど
やはり天才ってどこか狂気ですよね。
常人には到底理解不能な世界観を持っているものです。
もうまさに変態ですよ。
やっぱりねこういう作品読むと手塚先生もF先生もとんでもない変態だったってことがよーくわかります。

そして本作は
アニメ化もされましたし、
傑作短編のひとつとして後世に残っていくことになります
(同時収録のウルトラスーパーデラックスマンも強烈なブラックです)

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そして原作の初掲載時は22ページだったんですけど単行本収録時は36ページになっております。

実に14ページ分も加筆されているわけで藤子F先生自身も本作を気に入っていたことが伺えます。


本編収録のミノタウロスの皿: 藤子・F・不二雄[異色短編集] 1 には
本作以外にも倫理観のぶっ飛んだ完全アウトな猛烈ブラック短編も収録されておりますのでぜひ読んでみて欲しいと思います。

猛烈に面白い藤子・F・不二雄[異色短編集] 全4巻はセットで一気読みが超おすすめです。


そして手塚先生の「荒野の七ひき」は
ライオンブックス 手塚治虫文庫全集(1) Kindle版

ライオンブックス 1 Kindle版

こちらも秀逸な短編がごろごろ収録されておりますので
ぜひチェックしてみてください

今回ご紹介した2作品は非常に読みやすく代表的なSF短編です。
読んだことが無い方はぜひこれを機会に巨匠お二人の新たな側面を堪能していただきたいと思います。
絶対後悔しない超おすすめ短編ですよ。


というわけで今回は
手塚治虫、藤子F不二雄先生の傑作短編お送りしました。

今回は藤子F先生の方がブラックなチョイスになってしまいましたが
本気の手塚治虫は相当に闇が深いやつもあります(笑)
倫理観がぶっ飛びまくっている破壊的な作品もたくさん描いておられます。
このnoteでも沢山取り上げておりますので過去記事の方もチェックしてみてください

こうして違う作家さんと比べたり類似点を探しながら読むことで
また違う楽しみが生まれると思いますので
今回はあえて藤子先生の作品もご紹介させていただきました。

まだまだご紹介したい作品がたんまりあります。
これからもめちゃくちゃ面白い作品をご紹介して参りますので
いいねコメントもいただけますと記事作成の励みになります。
最後までご視聴くださりありがとうございました。


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