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本当の自分は自分じゃなかったとしたら…?異色SF作品解説!

今回は、「目に映るすべてがニセモノだったら?」
がテーマのSF傑作「グランドール」をお届けいたします。

本当の自分は、自分じゃなかったとしたら…?

実は
人間ではなく異星人だと告げられたら…?

そんな理解しがたい事実を地球侵略をたくらむ異星人の正体を辿るうちに明かされていくサスペンスストーリー。

自身の存在意義をも問われる世界観を持った摩訶不思議なテーマを抱えた異色SF大作「グランドール」今回はじっくりとご紹介したしますのでぜひ最後までご覧になって見てください。

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本編は1968年1月から「少年ブック」(集英社) 
にて連載された作品であります。
「少年ブック」と言えばあの「週刊少年ジャンプ」の前身でありまして、
昭和24年に発刊された「おもしろブック」が「少年ブック」になり
昭和44年に廃刊、その後に「少年ジャンプ」が誕生するんですが
この創刊時はまだ週刊ではなく隔週でありました。

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手塚治虫は「少年ジャンプ」とあまり関わりが深くないと言われていますが
実はこの「少年ブック」時代には
「新選組」「ビッグX」「フライングベン」を連載しており
その後にこの「グランドール」を連載
そしてこのあと「バンパイヤ」が掲載され廃刊となります。

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ですからここまでは集英社にはずっと連載していたのですが
「少年ジャンプ」が創刊されるようになって
「少年ジャンプ」がこれまでの児童漫画路線を変更することになります。

そしてベテランではなく新人作家中心の雑誌へと方向転換します。
これは他誌との差別化を図るためであり、この政策変更により手塚治虫の掲載がなくなっていきました。

この「少年ジャンプ」の登場が
週刊雑誌時代のひとつの転換期になっていくんですが
この辺はまた別の機会にでも…。

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それでは
本編のあらすじから見ていきましょう。


舞台は北京と東京にて、
両都市同時に奇妙な人形が発見されます、
その人形は人間そっくりに変身することができる代物で
実は異星人による地球侵略が目的のために放たれた人形でした。

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異性人は
すでに地球のいたるところにこの人形を紛れ込ませ
暴動を起こさせ、人間同士が憎み合うような状況をつくり出し
地球を乗っ取ろうと計画中だったのです。

同じ頃、主人公である中学生の哲男少年が道端で人形を拾います。
そして家に持ち帰ると
その人形は少女に姿を変え
自分は「グランドール」なる人形であると告げてきます。

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地球侵略のために送り込まれた、あの「人形」だと言うのです。

驚いた哲男少年ですが…

さらに驚いたことに
哲男の家族も実は「グランドール」だったと知らされるのです。

これまでずっと生活していた親が実は
「グランドール」だったという訳です。

そんな事、にわかに信じられない哲男少年ですが…、
さらに衝撃の事実が追い打ちをかけます。

なんと自分自身も「グランドール」である事実を知らされるのです。

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自分も、家族も、学校の先生も、この街に暮らす人々も
実はグランドールだと言うんです。
自分自身の存在意義、
アイデンティティをも粉砕する衝撃の告発に
我を失う哲男少年。

さぁ一体この世は何が真実なのか?
この衝撃の結末は如何にというのが本編のあらすじであります。


---------ここからネタバレが始まりますのでご注意を---------------


本作は手塚治虫お得意のSF作品でありますが一風変わったテイストを持ったSF作品になっています。
異星人による「地球侵略」ものを結構、手塚先生は描いているんですけど
その中でもこれは異色の作品と言えるでしょう。

なにせ侵略者の意図が最後まで分からない(笑)


普通、宇宙人もののSFを描くと必ず敵がいてその目的が存在しますが
本編はそれが最後まで分かりません。

あからさまな武力攻撃ではなく、
むしろ攻撃を受けたことさえ気づかない静かな攻撃

もっと言えば攻撃と言うか
地球に「グランドール」なる人形をただバラ巻いただけという
とても攻撃とは言えない、仕掛けられたことさえ気づかないという侵略

どうやら
「グランドール」を人間の中に放り込み、混乱させて
人間同士を疑心暗鬼にさせて崩壊させるという
非常に地味な方法で地球を侵略してきた異星人のお話なのであります。

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一体なにがしたいねん。

しかしこれが
ドンパチやる血みどろのホラーではない静寂のホラー
得体の知れない存在に襲われる怖さといいますか
不気味なサスペンス要素を孕んだ世界観を醸し出していて
普通のSF作とは違ったテイストを生み出す要因になっています。

あとがきによりますと
ジャック・フィニィのSF小説「盗まれた街」を参考にしたと語っておられ
「異星人の侵略」というSF物語をはっきりと意識して描かれたそうです。

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ジャック・フィニィの「盗まれた街」と言えば1955年に発表されたSF小説で
ハリウッドでは映画化され4~5回リメイクされるほど人気を誇りSF小説の古典と呼ばれる名作中の名作であります。
映画タイトルが異なっており『ボディ・スナッチャーズ』とか
『インベージョン』というタイトルでリメイクされておりますので見たことある方も多いのではないかと思います。

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確かにこの正体不明の何かに侵略される様子、
街の人々がいつのまにか別人になっていったり
家族や友達も外見は今そのままなんだけれども、
何かが変わっていく不気味さ…。

そしてその恐怖はやがて自分もそうなってしまうのかという
心理に追い詰められていく様子などは見事に本作で再現されており
視覚的な恐怖をあおるのではなく心理的に制圧されていく感じが
本作「グランドール」では上手く活かされています。


先生自ら「影響を受けた」と公言しているように
ここら辺の設定は手塚先生の大好物な題材。
「赤の他人」という短編でも
実は両親がこの世の存在ではなかったという設定の漫画を描いておりますし
あと「7日の恐怖」とか「人間牧場」とか
今、目に映る世界が果たして本当なんだろうか?
この世界がニセモノだったら…?的な短編も描いているのでこの辺りの設定が大好きだということが分かります。

この「赤の他人」については別の記事でもご紹介しておりますので
ぜひ併せてご覧になってみてください。
第三者に自分の人生をコントロールさせられ監視されていたという
映画「トゥルーマンショー」が好きな方ならきっと面白いと思ってもらえる作品だと思います。


あと個人的にこれに影響受けてるだろうなと思うものが2つあるので
そちらもご紹介しておきます。


まずは藤子不二雄先生の「パーマン」のコピーロボット
これは影響受けてるんじゃないかな。

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赤い鼻を押すと押した人に変身できるあのコピーロボットですが
「グランドール」のデザインは
漫画家がデッサンなどに使うデッサン人形っぽくは、あるんですけどボクはこの着想はここからパクパクしちゃってるんじゃないかと思います。

ちなみに「パーマン」の連載は「グランドール」の連載の
約1年前の1967年2月から始まっているので
ネタとしても非常にタイムリーですし
十分、手塚先生が意識、嫉妬してても可笑しくないと思ってます(笑)


コピーロボットのデザインも人間に変身する設定も手塚先生の大好物ですから、これはもうパクるしかないなって思ってたと思います。
「グランドール」の人形が女の子に変身するシーンなんかは
まさに手塚先生の十八番シーンですね。

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人形好きの秘密はこちらの記事で。



続いては「ウルトラセブン」のメトロン星人
これは直接手を下さず地球を崩壊させようとする侵略の手法が非常に似ています。

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メトロン星人ってたしか「たばこ」みたいなものを地球人が吸引することで
地球人同士が殺し合って人類が消滅するのを待つという非常に狡猾な戦略で地球を乗っ取ろうとしてきた設定なんですけど(詳しくなくてすみません)
まさにこれに似てるなぁって思います。

このメトロン星人の回は
1967年11月19日「ウルトラセブン」の第8話でありまして
「グランドール」連載の約2か月なのでこちらもパク……。
嫉妬した可能性が高いとボクは見ています。

ちなみにこの「ウルトラセブン」の第8話、
メトロン星人登場の回のタイトルは
「狙われた街」っていうんですけど、もしかしたらこのタイトルから推測するとウルトラセブンの原作はジャック・フィニィの「盗まれた街」を意識して作られたのかもしれませんね。

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ちょっとここら辺はボクは詳しくないので分かりませんが
この回自体が「盗まれた街」にインスパイアを受けたような作りになっているのは間違いないと思いますし、
人間社会にすっかり馴染んだ怪獣の姿(メトロン星人)ってウルトラマンシリーズの中でも明らかに異様な展開ですし
通常のウルトラマンとは違うニュアンスで製作されたのは誰の目から見ても明らかです。
原作者が毎回違うのか、この回だけ別の誰かが手がけているのか…。
まぁ奇妙なストーリーですので興味がある方は調べてみてください。



最後になりますが…

冒頭に中国、天安門広場が出てきて文化大革命の様子を
結構大きく描いているシーンがあります。

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これは本作のテーマである
「第三者に自分の人生をコントロールされているかも…」という皮肉を
さりげなくメッセージを込めて描いたのではないかと
感じてしまうのはボクだけでしょうか。



という訳で今回は「グランドール」をお届けいたしました。

文化大革命や学生運動デモなど社会的話題になっていたものから
パーマンなどからもパクパクした
手塚治虫が影響を受け散らかした異色SF作品。

ある種、自身の「平衡感覚を失ってしまう世界観」を持った
かなり今時のニュアンスも持ち合わせた作品でもありますので
ぜひこの機会にお手に取って読んでみては如何でしょうか。


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