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未来の自分が殺しにくる話

「未来LINE」

もう高校に行かなくなってどれくらい経っただろうか、家には自分しかいない。閉じ切った扉とカーテン、暗がりに刺した光は電球の薄明かりとブルーライトだけだった。ベットで寝転んだままスマホで時刻を確認する、夜の11時51分。少し眠くなって、スマホを置いて眠ろうとしたときにその通知は来た。久しく誰からもきていなかったLINEの通知、一体誰からだ?慣れた手つきでアプリを開き、トーク一覧を見る。
「なんだこいつ…」
勝手に友達が追加されている、よくある投資詐欺グループだったら、ブロックしてから削除するところだが、そうではなかった。
「下泉 涼…?って、俺じゃねえか。」
そこには自分と同じ名前の書かれた謎の人物がいた、そしてすぐにチャットが送られてきた。

<  下泉 涼            三
友達ではないユーザーです
――――――――――――――――――――
(今日)

<よう>23:51

既読 23:51<お前、誰だよ?>

<俺は、お前>23:52

既読 23:52<そういうの良いから、誰がこんなことやってんだよ>


<お前は今>23:52
<高校にも行かず、死んだみたいに、ただ時間を浪費している>23:52

既読 23:52<は?誰だっつてんだよ>

<苦しいだろ>23:53
<何をしても、何も感じない>23:53
<永遠に希望がないように思える>23:53

既読 23:53<お前に何がわかんだよ>

<全てわかる>23:54
<俺は未来のお前だ>23:54

既読<何言ってんの?頭大丈夫か?>
23:54<やばすぎ>

<では、証拠を教えよう> 23:54
<上に垂らされてる、電球を見ていろ>23:55
<本日23時55分47秒に、少し大きな地震がくる>23:55

――――――――――――――――――――

「…は?何言ってんだ…地震…?」
パシャンッ!!とガラスが割れたような音がして、体がそちらに反応する。写真立てが床に落ちている…。上に垂らされている電球を見ると、それがゆらり…ゆらりと揺れ、壊れたようにチカチカと点滅している。地面の振動を身体に感じる、本当に地震が来たのだ。そして通知が鳴る。

――――――――――――――――――――

<心配するな、余震もなく、大した地震ではない。>23:56
<さて、本題に移ろうか>23:56

既読<いや、地震なんて震源地が遠けりゃ、少し前に知ることもできるだろ!>
23:56<お前が未来からきた証拠にはならない>

<そう思っていれば良い、今にわかる>23:56
<私が過去にやってきた理由>23:56
<それはお前を殺してやるためだ>23:56

既読<は?>
            23:57<さっきから何言ってんだお前!?>

<生きていたって何の良いこともない、そうだろう?>23:57
<わかるよ、大人になったって何も変わりはしない>23:57
<お前が大人になって苦しまないよう、今息の根を止めてやるんだ>23:57
<そうして、私も死ぬ>23:57

   既読<まじで頭イカれてんのか?>
 23:57<できるならやってみろよ、馬鹿野郎!!>

<もちろん>23:57
<今>23:58
<玄関の前にいる>23:58

――――――――――――――――――――

―ピンポーン!!

「っ!?」

インターホンが家中に鳴り響く。体が萎縮して、心臓が飛び跳ねそうになる。ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!狂ったように何度も何度も繰り返す。

「っ?………………?……」

突然、パタリと音が鳴り止む、静寂の中で耳を澄ませる。

「帰った、……のか?」

―……………………………………………………ガチャッ………

「!!!」
玄関の鍵が開く音がした、なんで!?鍵はかかっているはずなのに!!

――――――――――――――――――――

<合鍵は、植木鉢の下だったよなあ>23:59
<そう簡単に忘れないもんだ>23:59

 既読23:59<お前、ほんとに俺なのか…!>

<ああ、だからさ>23:59
<お前が今二階の自室にいて>23:59
<逃げ場が玄関先の階段しかないことも、知ってる>23:59

――――――――――――――――――――

―タン…タン…タン…

階段を登る足音が近づいてくる…どうすればいい…!?窓から…いや、高すぎて無理だ…!とにかく、どこかに隠れないと…!!物音を立てないように細心の注意を払って隠れ、息を潜める。

「おーい、どこに隠れたんだー?」

静かに、静かに、静かに…
…ハっはあ…
…ふっ…っ
…ぅ


―ピロリン♪♪
布団の下、僕のスマホの通知が鳴った…!

「おいおい、マナーモードにしとかなくちゃなぁ」
「布団の下だな?」
「今、殺してやる」

(…)

「なんて」
「とっさに廊下の押し入れに隠れたんだろ?」

(…!?バレた…!)

「ここだよな?親に怒られた時も、隠れ鬼のときもここに閉じこもってたよなぁ?」

(…何なんだお前は!?)

「ッ!何で!?何で自分のことを殺そうだなんてするんだ!!」

「…………忘れてるか?何でって」
引き戸が音も立てないくらい少しずつ開いていく。
呼吸は浅く、ドクン、ドクン、と鼓動が早くなっていく。
「サプライズだよ」

―え?

扉が勢いよく開かれる…!!それと同時に、クラッカーがパンッッと弾けた!!!
ビクッと全身が反応する、一体何が起こっているんだ?

「誕生日おめでとう!!!」



一階のリビングに明かりをつけ時計を確認すると、時刻は0時を過ぎており、確かに僕は誕生日を迎えていた。未来の自分はテーブルに皿を並べて、誕生日ケーキの準備をしている。

「今はモンブランの方が好きなんだ、……こっちの方が良かったりする?」

「いや、チーズケーキがいい…これも、未来のケーキなの?」

「いや、これはそこで買ってきた」

「…」

僕が一番好きなケーキ、チーズケーキのろうそくを消して、話を聞く。

「未来では割と上手くやってるんだぜ、そこそこにな」
未来の自分は目に光を取り戻したような、生き生きとした感じだった。

「それはいいけど、さっきのは何だったんだよ!!」

「いやー、祝ってくれるやつ、誰もいないだろうなーと思ってさぁ笑」

「うるせぇ、余計なお世話だよ!!」

未来の僕は少し黙ってから、神妙な面持ちをして言う。
「高校のことな」

「……」僕はドキッとして身構えた。

「別に行かなくてもいいけど…あんま母さんのこと困らせんなよ?」

ガチャッと玄関の扉が開いた音がした。
「ただいまー!ケーキ買ってきたよー!」
と遅くまで働いていたお母さんが帰ってきた。

音に反応して玄関の方を向いてから、振り返ると未来の自分の姿はもうなかった。食べかけのモンブランだけを残して。

「なんだよ、それ...」
少し笑いながら、そうこぼす。

母は扉の鍵が開きっぱなしだったと注意している。
心臓がまだドクドク言っているのが、恐怖が残っているからか、変に嬉しくて、高揚してしまっているからなのか、僕には分からなかった。


未来LINE  -END-

<あとがき的なもの>
これは昔学校の授業で書いた小説です。時間がない割にはこだわって書けた、思い入れのある作品でして、どこかの小説投稿サイトにでも置いておこうかな?と思っていたのですが、いかんせんLINEのトーク画面の表現が小説投稿サイトでは活かしきれず(ほとんど左揃えが基本なため)今までバーチャル押し入れにしまっていました。

しかし!最近ふと「 note なら LINE の表現をそのままで活かせるじゃん!」と思い立ち、これを投稿させていただきました。思い入れのある作品を投稿できていないことが、どこか心残りだったので良かったです。

読んでいただきありがとうございました。
X でもエッセイや小説を投稿していくと思うので、よければ見に来てください。
X→https://x.com/O_novels

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