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    5 「先生! 事件だ!」  俺が勢いよくこころの相談室のドアを開けると、デスクに顔を落としていた先生が、がばっと顔を上げた 「ふぁふぇふぁふぉ! ふぉえふぁふぇんふふぁふぁふぃふぉふぁふぁふぁふぇ!」 「うわっ。口に物入れて喋んなって! 何言ってっかわかんないし。そんなことより、事件だよ!」  口の中にほおばっていた物を飲みこみ、先生が言う。 「……んんん、もう。騒がしいなぁ、藤崎くんは。事件って、今度は一体なんなんだい? この間のストロベリーサンデーと宇治金時かき

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    4  小さな勇気、か……。  私は学校の帰り道。あっと言う間に暗くなってゆく夕暮れの道を歩きながら、心の中で、つい先ほどカウンセラーの先生が言った言葉をつぶやいた。私の目をしっかりと、優しいまなざしで見つめて。カウンセラーの先生が言った、私の心に深く刺さったその言葉を。  そして、振り返る。日の落ち始めたオレンジ色の道で。今日一日の、出来事を――。  今日は朝からとても暑くて。家を出た時には満タンだった水筒のお茶が、学校に着く頃にはもう半分くらいになるほど、とてもノ

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    3 「蝿川さん。斎藤の件についてお話があるというのは、一体どういうことなんですか?」  俺達のクラス担任の若村先生が、怪訝な顔で先生に尋ねた。 「そのままの意味ですよ。今回の事件の真相がわかったので、謎解きをさせて頂こうと思いましてね。お忙しいところ、突然お呼び立てしてしまい申し訳ありません」 「事件に謎解きって……。蝿川さん。あなたは」 「真相ってどういうことだよ!」  突然、先生達の話を遮って斎藤が叫んだ。 「おい、斎藤! 何なんだ、お前は突然」 「ああ、すんま

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    2 「あーつーいーよー」  先生が俺の後ろでさっきから同じ言葉を延々と繰り返している。 「しょうがないじゃん、夏なんだから。そんなことよりもほら、さっさと歩いてよ」 「え~、無理だよぉお! いったっ!」  ふらふらとだらしなく歩いていた先生は突然、俺の後ろですっ転んだ。 「……いったー。痛いよ~、藤崎く~ん」  硬い床に勢いよく膝をぶつけた先生は、床に転がってうめき声を上げている。 「先生、大丈夫?」 「う~ん。……まったく。誰だい、こんなところにペットボトルを置い

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    1 「先生! 事件だ!」  俺が勢いよくこころの相談室のドアを開けると、デスクに突っ伏していた先生が、がばっと顔を上げた。 「藤崎くん! 待ってたんだよ、君が来るのを」 「え?」  俺は予想外の言葉と勢いに少し面食らってしまい、呆然と先生の顔を見つめた。 「私は今ね、途轍もなくアイスが食べたいんだ」 「……う、うん」 「でも、今日は朝からものすっごく暑いだろう。だから私は外に出たくないんだ」 「うん」 「だから、藤崎君。アイスを買って来てくれよ」 「うん……、何でだ

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麗らかに…episode3『幻の天才』

麗らかに…episode3『幻の天才』

午前中、3年生の教室をひたすらハシゴし、ひと息つくと気付けば昼休みも半分過ぎていた。ノソノソとカフェテリアへ向かう。 ピークは過ぎたようで、人の入りもまばらになっていた。今日はあまり時間も無い。ヒト用サイズのざる蕎麦を頬張る。 ウマ娘はその運動量を維持するため、食事の量もケタ違いだ。トレセン学園のカフェテリアでは、そのウマ娘達の胃袋を満たす食事を実質無料で提供している。もちろんヒト用の、小さい(と言ってもウマ娘目線で)サイズの食事もあるが、きちんと「ヒト用サイズ」と言わな

麗らかに…episode0

麗らかに…episode0

登場人物紹介 (どんどん増えていきます) 武田裕(タケダユタカ) トレセン学園中等部2年A組の担任教師。専門は理科(物理)だが、今は主に中等部の数学基礎を指導している。生徒からは「ミニブタ」と呼ばれる。 春野麗(ハルノウララ) この春トレセン学園に転入学した中学2年生。担任である裕を「武田先生」と呼ぶ数少ない生徒。 渡辺音生(ワタナベネイ) トレセン学園に通う中学3年生。2年生の時に『ナイスネイチャ』という名前でデビュー。当時の担任が裕だった。 高田トレーナー ナイス

麗らかに…episode2『きっかけ』

麗らかに…episode2『きっかけ』

とりあえず大学へ…特に目指す将来も無かったが、何かしら資格でも取れれば潰しが効くだろうと、教育学部へ進んだ。物理を専攻していたが、正直に言えば、代返と追レポで単位を拾ってきた。「ポン」とか「チー」とか、もっぱら中国文化ばかり研究していた。 転機が訪れたのは2年生の時。悪友から怪しいネットサイトを紹介された。 『トゥインクルシリーズ』 女の子達がレース場を走り、その結果を予想する。もちろん表向きには「応援するだけ」なのだが、純粋に競う者に群がる不純な輩は、いつの世にも存在する

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麗らかに…episode1『朝』

麗らかに…episode1『朝』

「おはよう」 「ちぃ~ッス」 「やばっ。今日1講からミニブタだわ。マジだりぃ」 「わかる。ってか二次関数とか意味わかんないし?式からグラフなんて浮かばないから」 「解釈一致w」 眠そうな顔がエントランスに溢れる。朝練上がりなのかジャージ姿も見える。にんじんパンを咥えてる子、スマホをチェックする子、ガールズトークに花を咲かせている子、トレーナーらしき人と話し込んでいる子…。いつもの朝の光景だ。 トレセン学園 正式名称は『学校法人 日本ウマ娘トレーニングセンター学園』 東京都

映画『かば』。感想

映画『かば』。感想

今回、ご紹介するのは映画『かば』。 今後、10年間は二次製作(DVD化、配信等)はしない。映画館での上映のみと、監督が仰ってましたので、ネタバレは避けて、実直な感想を述べます。 川本貴弘監督によるインディーズ映画。 内容は、 1985年、日本がバブル景気を迎える頃の大阪・西成区を舞台に、西成区の独特の街、人間、歴史を背景に一人の教師・蒲と臨時教員として赴任してきた女性教師・加藤らが、西成区に生きる生徒たちと向き合い、共に成長していく物語。 まず、一言。インディーズ映画

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