メガジェットサンダー伝説 のぶしげ!!(第1話:殺戮のランドセル) -創作大賞2024 漫画原作部門[シナリオ形式]
【あらすじ】
浜岡のぶしげ53歳、小学校を35回留年してる。
悲願の卒業を目指し、加齢臭と薄毛を対策する夏休みに、クラスメートが危機を告げる。
私立バーバリアン学園初等部を統べる、"究極殺戮集団KAGEROU"がみんなを狙ってる。目的はのぶしげ達の学校にあるといわれる伝説の秘宝"千年牛乳"を奪うことだった。
それは昭和の時代に給食の牛乳を残した子が机の中に放置したという、ただの都市伝説だったが、のぶしげは心当たりがあった。
突如現れた殺し屋たちは「のぶしげを寄越せ」と迫る。
のぶしげは殺戮偏差値80の私立に転校させられ、いじめられてしまうのか?
友を守る子ども達の、血で血を洗う戦いが始まる…!
第1話:殺戮のランドセル (※このページ)
https://note.com/ef_you_she_kay/n/nc153df121493
第2話:哀しき牛乳伝説
https://note.com/ef_you_she_kay/n/nb7c3477bb46a
第3話:メガジェットサンダーエンジン始動!
https://note.com/ef_you_she_kay/n/n05fa94ac2374
【Characters】
☆区立月指小学校6年3組☆
浜岡のぶしげ
→ 主人公。53歳の小学6年生。頭が悪くて卒業できない。メガネ、薄毛、デブ、チビ。
琉輝斗君
→ 物知りの男子。ヘッドフォンをつけた今どきのイケメンオタク。名字は丸岡。
武市君
→ 学級委員の男子。マジメでさわやか。母子家庭で母親は教職。下の名は快哉。
御堂君
→ 角刈り。口が悪くケンカっ早い。体育が得意。工務店の息子。下の名はタカアキ。
江本さん
→ 気の強いしっかりした女の子。女子のまとめ役。黒髪ショート。下の名はユキエ。
桜子ちゃん
→ 気が弱くて泣き虫。家庭は荒れてる。実は武市君が好き。
花音ちゃん
→ ウワサや都市伝説が大好きな女の子。
私立バーバリアン学園初等部
★究極殺戮集団KAGEROU★
隻眼教授
→ 夏休みの自由研究でガトリング式割り箸鉄砲を作り、237名を殺害する超頭脳の持ち主。本名:吉田つとむ。
J・B
→ 小学校1年で50m走1.58秒を記録した怪物アスリート。超高速で動き確実に標的の息の根を止める。本名:馬場純平。
宇宙 真理
→ 学校内に宗教法人「IMAGINE」を作った教祖。指先一本で何百人の信者が命を投げ出すカリスマ。ジョンレノンみたいな風貌。本名。
ブラックリリィ・朱美
→ KAGEROUを率いる世界最強の小学生。絶世の美少女。背が高くスラリとしてる。バイクにまたがり時速300キロでウィリーしながら走る。夢は世界一のお嫁さん。本名:田代朱美。
〇その他〇
涼子さん(3話~)
→ ヒロイン。23歳キャバ嬢。のぶしげ宅の隣の部屋に住む。けっこう貢がれてる。夢は声優。
栄作君(2話~)
→ のぶしげの小学校1年生のころ(42年前)の友達。寺の息子。
武者小路先生(3話~)
→ 10年前ののぶしげの担任。当時30歳。熱血教師に憧れ、いつも同じジャージに竹刀を持ち歩く。偉そうだけどヘタレ。
のぶしげの両親
→ 頭がお花畑の両親。70過ぎ。子どもはのびのびと育てるという教育方針で今にいたる。
DJ校長(2話)
→ 月指小の校長先生。ハゲ。
第1話:殺戮のランドセル
[夏休み・川の土手・暑い朝]
・黄色い学童帽と黒いランドセルを背負った子が走ってる。汗だくでハアハアしてる。日課のロードワーク。
(のぶしげ:
8月2日、はれ。ぼくには夢があります。
みんなが聞いたら笑うかもしれないけど、ぼくは今年こそ)
・止まって道端にランドセルを下す。スドンという音(ウェイト)
・土手の上に座って休むのぶしげの顔のアップ。メガネ・薄毛、デブ、チビのおっさん。
タイトル:メガジェットサンダー伝説 のぶしげ!!
「浜岡のぶしげ(53)」と出る。
(小学校を卒業したいです)
[家・シャワーを浴びるのぶしげ]
・シャンプーのボトルには「育毛ジェラシー」と書かれてる
(のぶしげ:
ぼくは小学校を35回留年しています)
・誰かの人生が映し出される。青春、受験、就活、結婚、育児、昇進など。その隣に、だんだん成長してくのぶしげの過去。学童帽とランドセルをつけたまま頑張ってる、筋トレ、スパーリング、滝行、バンジージャンプなど
(いっしょうけんめい努力しましたが、九九がなかなか覚えられません。7の段がとくに)
・洗面所で髪を乾かし、ワキや首の臭いを気にして制汗剤を吹く
(でも、ぼくは絶対あきらめません。今年こ…)
琉輝斗「のぶしげぇ!!」
・窓の外から大声で呼ばれビックリする。のぶしげは窓を開ける。クラスメートの琉輝斗がいる。
のぶしげ「どうしたんですか、琉輝斗くん」
琉輝斗「いいから早く来い、大変なことになったんだ!」
[街路を歩く二人]
・深刻な顔の琉輝斗、のぶしげは育毛ブラシで頭皮をケアしながら話を聞いている。
琉輝斗「こんなものが、武市の家に届いたんだ」
・彼は一枚の手紙(鉛筆書き)を見せる。なんかすごい怖い字
のぶしげ「はて、なんですかこれ?」
琉輝斗「お前、KAGEROUを知らないのかよ!!」
・琉輝斗はすげえ驚く。
琉輝斗「あのバーバリアン学園初等部最強の殺人部隊だぜ!」
・隻眼教授、J・B、宇宙 真理、ブラックリリィ・朱美の4人の影が映る。すんごい凶悪そう。のぶしげは「はあ」と首をかしげる。
のぶしげ「武市君、そんなぶっそうな人らと知り合いなんですか?学級委員なのに」
琉輝斗「そんなわけないだろ!」
琉輝斗「寝ぼけてんのかのぶしげ、オマエが狙われてんだぞ!」
琉輝斗「バーバリアン学園は日本が誇る暗殺者養成機関だ。選りすぐり天才児を集め、世界に通用する殺人鬼を何万人も輩出してる」
・ショッカーの基地と戦闘員・幹部たちのような怖そうな背景が出る。みんな戦闘訓練や兵器開発をしている
琉輝斗「KAGEROUのやつらは初等部の頂点に立つ存在だ。普通の小学生じゃない。ケンカが強いとかそういう次元じゃないぞ」
のぶしげ「そうなんですか」
琉輝斗「しかもあいつら...、受験とかないんだ…」
のぶしげ「...そんな!」
・2人は表情をこわばらせ、ごくりと唾をのむ
のぶしげ「(ハッとして)る、琉輝斗君、クラスのみんなは?!」
琉輝斗「もう教室に集まってるよ。一人でいたら危険だし、作戦会議しないと…」
のぶしげ「急ぎましょう!」
・2人は学校に向けて駆け出す
[その直後・がれきの山の教室]
(のぶしげ・琉輝斗:遅かったァァァーー!!)
・6年3組の全員が教室のすみにうずくまってる。血を流し倒れてる子も。男子の何人かは前に立っているが腰が引けてる。
・正面には教室に直撃したUFOのような飛行機械と、隻眼教授が立っている。
2m近い身長と鍛え上げられた肉体、学童帽子の代わりにシルクハットをかぶり、礼服と蝶ネクタイ、単眼鏡をつけてる。ランドセルは棘がたくさん。すごい凶悪そう。
クラスみんな「ハマオカさん!」
・隻眼教授はのぶしげを見やるとハットを取り、深々と挨拶する。
隻眼教授「Comment allez-vous ?」
のぶしげ「…こ、ここここ、こーまんたれ、ぶー」
隻眼教授「(微笑む)今のはあいさつ代わりです」
(琉輝斗:...あいさつだろ!)
隻眼教授「よくぞいらしてくださいました、本日の主賓殿」
琉輝斗「お前、誰なんだ…」
・瞬間、隻眼教授は「フンッ!」と一喝する。筋肉が膨れ上がり科学の力で稲妻が走る。
・のぶしげと琉輝斗はちびりそうになる。
・気の弱い桜子ちゃんが江本さんの背中に引っついて泣き出す。
桜子「ユキエぇ」
江本「桜子…」
・江本さんは桜子の手をぎゅっと握る
隻眼教授「我はバーバリアン学園初等部6年、究極殺戮集団KAGEROUの頭脳、隻眼教授こと、吉田つとむと申す」
(琉輝斗:隻眼教授…)
(のぶしげ:吉田つとむ…)
隻眼教授「(手を差し伸べて)浜岡のぶしげ殿、今日の善き日に貴公をお迎えに上がりました」
・背後から、クラスメートの御堂君が声を上げる。
御堂君「調子クレてんじゃねえ!」
御堂「ヒトん学校メチャクチャにしやがって、KAGEROUだかなんだか知んねぇがこっちは36人もいんだ。タダじゃ帰さねえぞ!」
隻眼教授「そんなものはとうに計算済よ。ヘルマン=ヘッセの線形代数理論と社会統計学を使ってな!男子17人女子19人、あわせて36人だ。フハハハハハハ!!」
御堂「くッ!くそぉ…」
(琉輝斗:御堂ぉ、算数、もっとがんばれよ...!)←拳を握り締める
御堂君「...つまんねぇゴタク並べやがって。舐めてんのか」
隻眼教授「これは失礼、我は貴公らを舐めてなどおりませぬ。我が"猊下"の命は絶対、念には念には念には念を入れ、今日は"もう一人"連れて参りました」
御堂君「何?」
隻眼教授「今も、ここにおります」
・クラス全員が動揺し、辺りを見渡すが他に人影はない。突如、甲高いが響く。
J・B「ヒュー!俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
・床がひび割れ、瞬間移動のようにJ・Bが登場。小柄で細マッチョ、スパッツ一丁、太ももがパンパン。性格の悪そうなタレ目。髪が逆立っている。ランドセルは隻眼教授と同じ学校指定の凶悪なやつ。裸足
・J・Bは御堂くんたち男子を睨みつける。
J・B「オレは"KAGEROU"の一、J・Bだ。それ以上でもそれ以下でもない」
琉輝斗「J・Bだって!」
・琉輝斗は腰を抜かしてる。教室がざわつく。
琉輝斗「…聞いたことがある。幼稚園年長組ですでに50メートル走2秒07を記録した怪物アスリートが、ババ小に入学したって。まさかタメだったのか」
御堂君「野郎、どこに隠れてやがった」
J・B「ずっとここにいたぜぇ」
御堂君「何ぃ?」
江本さん「(ハッとして)…まさか!」
・クラスのみんな、戦慄する
みんな「すごい速さで走り回ってたのか…!!」
J・B「お前らのノド、百億万回かき切れたなぁ!」
・J・Bはとがった爪を見せつけ威嚇する。
・隻眼教授とJ・B、あらためてのぶしげに向き直り邪悪な笑みを浮かべる。
隻眼教授「お迎えに上がりました」
・学級委員の武市君がのぶしげを守るように前へ出る。
武市君「お前ら…、目的は何だ。うちのハマオカさんをどうする気だ」
・隻眼教授、にやりと笑う。
隻眼教授「のぶしげ殿は大事な鍵なのです。月指小に隠された伝説の秘宝、"千年牛乳"を手に入れるための」
みんな「"千年牛乳"!!」
・一同、あぜんとする
(のぶしげ:
それは、区立月指小学校の児童に語りつがれるでんせつでした。)
[42年前の昔話・月指小の1年生の教室]
・人物はみんな影。怪談みたいな感じで。
(のぶしげ:
ぼくらの学校に伝わる七百七十七不思議の七百七十七個目のおはなしです)
(昭和〇〇年。ぼくがちょうどピカピカの一年生だった年、)
(あるクラスに牛乳のきらいな一人の男子がいました。一学期最後の日、彼はどうしても飲みたくない牛乳をこっそりと学級文庫の裏に隠したそうです。40日の暑い夏をへて、牛乳はだんだんと熟成されていきました…)
(彼が牛乳を隠したことを知ってる子はいたようです。そのうち発見され、先生に大目玉をくらう、…そう思っていました)
(ところが2学期のはじめ、その子はとつぜん転校してしまいました。そして学級文庫の裏の牛乳パックもいつの間にか消えていたのです)
(うわさは学校じゅうに広まりました。あの牛乳はどこへ行ったのか?掃除の時間にだれかが気づいて捨てた?…いや、もしそんなことになれば、トイレで大をするくらいの大さわぎになるでしょう)
(そうです、今もあの牛乳は校舎のどこかに放置されているのです…)
(…それからうん十年、このおはなしは月指小の児童に代々伝えられていきました。ひと夏、またひと夏、猛暑の季節をこえるたび、少しずつ、少しずつ、パックは膨張をつづけ、いまもまだ"熟成"を続けてる…。この学校のどこかで)
[回想終わり]
・ウワサ好きの女子、花音ちゃんがわなないている
花音「ねぇあれって、都市伝説のはずでしょ?」
江本「てか、ただの怪談でしょ…」
・他の児童も動揺を隠せない
男子1「そんなもの手に入れてどうするんだ?」
男子2「まさか、せ、生物兵器を作るのか…」
・隻眼教授が睨みつける。
隻眼教授「知ってどうするのです?さらなる地獄巡りをお望みか?」
J・B「俺たちゃなあ、対等にオハナシしに来たんじゃねぇんだ。どうしても知りたきゃぁ、一丁ヤルか?」
・一同、シンとなる。誰も逆らう気がなくなる。隻眼教授が咳払い。
隻眼教授「だが我らとて、鬼畜生ではありませぬ。貴公らに考える時間をお与えしましょう」
・隻眼教授は大判の封筒をひとつ、のぶしげの前に投げ出す。
隻眼教授「我らは一般人に興味はございませぬ。」
・封筒には「学校法人バーバリアン学園」の恐ろしいロゴと「入学願書在中」の赤字。のぶしげは戦慄する
隻眼教授「(手を差し伸べて)我が学び舎へお越しください。貴公はこの学校の最長老、千年牛乳についてご存じなのは貴公だけなのです」
のぶしげ「ぼくは、何も知りません…」
隻眼教授「ささいな記憶を忘れるのは誰にでもごさいましょう。ほんの手がかりでよいのです。それとも…、」
・隻眼教授のランドセルからクモの脚のような針がたくさん伸びる。
隻眼教授「貴公の"脳"に直接お尋ねしましょうか?」
・のぶしげ、ついにちびる。這うように封筒を手に取り、中を見ると学校案内のパンフレットが入っている。
・のぶしげはページをめくり、学費を調べる。名門私立なのでやたら高い。
のぶしげ「ムリです…。うちはお金がないのです。こんな立派な私立、とてもじゃないけど、」
J・B「安心しろのぶしげぇ!お前は特待生、学費は全額免除だ」
のぶしげ「特待生…?」
琉輝斗「(ヒソヒソ)一芸入学ってやつだよ。ババ小は世界に通用する暗殺者を育てるためにあらゆる分野の天才児を集めてるんだ」
隻眼教授「いかにも!」
・2人は睨まれ、ビクッとする。
隻眼教授「かくいう我は6才の時、円周率を178時間暗唱しつづけ特待生の認定がおりたのです」
J・B「そうとも。こいつは"KAGEROU"きっての超頭脳さ。『円周率一兆桁をすべて暗記』と書かれた入学願書は今も語りぐさだ。むろん、最後まで聞けたものは、一人いもないがな!ハハハハッ!」
・パンフレットから入学願書がひらりと落ちる。そこにはのぶしげの個人情報がすべて書き込まれてある。「才能」の欄には「小学校を35回留年」とあり、のぶしげは絶望する。
のぶしげ「うああああぁぁぁぁぁーーー!!!」
隻眼教授「そんな人間離れした経歴を持つ貴公なら合格は確実でしょう。のぶしげ殿、貴公は再び一年生からやり直すのです!クハハハハハハ!」
J・B「プッ、プヒッ、ヒーヒッヒッヒッヒ」
・床にうずくまるのぶしげ。
(のぶしげ:
こんな、こんな学校に入ったら、ぜったいにいじめられてしまう…)
・隻眼教授、手を叩きクラス全員に呼びかける。
隻眼教授「ご存じと思いますが、のぶしげ殿がお越しにならないなら、我が"猊下"は"めっさつ"の命を出されました」
琉輝斗「(震えながら)"めっさつ"…」
隻眼教授「3分、時間を差し上げます。どうか皆さんで話し合って決めて下さい。2学期からこのクラスが"35人"になるか、"0人"になるのか…」
・一同、しばらく沈黙。クラスメートは誰からともなくのぶしげをじっと見つめるようになる。セミの声が際立つ。
(のぶしげ:
みんなは何も言いませんでした。すがるような目でぼくを見つめ、口に出せない言葉をぼく自身が言い出すのを待ってるかのようでした)
隻眼教授「あと2分…」
・通学路を歩くたくさんの児童が映る。みんな友達同士で楽しく歩いてるけど、のぶしげだけは一人で止まっている。
(のぶしげ:やっぱりみんな、ぼくを通り過ぎてく人たちだと思いました。そう、いままでの四十何年と何も変わらない…)
隻眼教授「あと1分」
桜子ちゃん「あの、その...、ハマオカさん!」
・桜子が勇気を出して立ち上がる。涙ぐんでる。のぶしげにお願いをしようとするが、続く言葉が出ず、黙って下を向く。
(のぶしげ:桜子ちゃん…!)
・のぶしげ、こぶしを握りうつむく。汗がダラダラ流れてる。
(のぶしげ:
泣き虫の桜子ちゃんが勇気をふりしぼっているのに、ぼくは…)
・その時、武市がみんなに向き直って言う。
武市「なあみんな、いい加減決めようぜ」
・みんなはハッとする。
武市「ごめんな、のぶしげ」
・武市君は真剣な表情
武市「俺たちはお前を、こいつらに売る」
・その一言で、みんな後ろめたそうな安堵の表情を浮かべる。のぶしげは小さくうなずく。
武市「決まったぜ。のぶしげは2学期からババ小の生徒だ。これはクラス全員の意思だ。それでいいんだろ?」
J・B「ヒヒヒヒッ。分かりゃいいんだ。(のぶしげに)ようこそわが学園へ、53歳の新入生君」
隻眼教授「クククッ…」
・のぶしげ、うつむいたまま何も言わないが、震えは止まっている。
(のぶしげ:
学級委員の武市君がはじめてぼくを"のぶしげ"って呼んでくれました。ぼくはもうそれで十分でした)
武市「その代わり"2つ"約束してくれ」
J・B「何だぁ、言ってみそ」
武市「みんなにはもう二度と手を出すな」
J・B「ヒヒッ、安心しな。こんなとこで丸くなってるダンゴムシどもに用はねぇ」
武市「それからもう一つ、入学願書を出すのは少し待て」
J・B「何ぃ?」
・一瞬の緊張
武市「出すのはこの…、」
・武市は背を向け黒板前に立つと、黒板消しを蹴り上げる。それは宙を舞い、J・Bの鼻先をかすめて床に落ちる。
武市「(向き直って)武市快哉を斃してからだッッ!!」
・武市、中国拳法の構えをとる。J・Bのタレ目が嬉しそうにゆがみ、教室中が殺気に満ちる。武市はそのまま敵に突っこんでいく。
武市「ホゥワタァァァーー!!」
男子一同「武市ぃっ!!」
女子一同「武市くん!!」
(武市:
俺は6年3組学級委員、武市快哉。フツーの小学6年生。フツーの家に生まれ、フツーの学校に通い、そして今、)
・J・Bの音速ジャブがこめかみをかすめ、血がたらりと落ちる。
(フツーに死にかけてる)
武市「(指をさし睨みつける)くそっ、オマエ、最初から気に食わねぇんだ。俺たちの学校を裸足で走るんじゃねぇ!ガビョウ踏んだらどうすんだ!」
J・B「ガビョウがひしゃげるだけさ、ダンゴムシのガッコーにも"規律"があるのかい?」
武市「俺たちはムシケラじゃない!」
J・B「ムシケラさぁ、社会の歯車、使い捨てのドレイ、そうだろ?」
武市「違う、俺たちには夢がある」
・武市、壁に貼られたスローガンを指す。『夢に向かって羽ばたこう』
J・B「(唾を吐いて)クダラネェ」
武市「何だと!」
J・B「オレ達はな、夢なんかじゃなく"野望"をもって日々鍛錬してんだ。そしてそれは、近い将来"現実"になる」
武市「…何だよお前の野望って」
・J・B、構えを解いて語る。
J・B「ダンゴムシどもに格の違いを教えてやろう。俺の野望は地上で一番神速い男。つまり100m走タイム、0秒00だ!」
みんな「0秒00...!?」
・一同、言葉を失い、「今なんて言ったの?」「聞き違いだよね?」などとヒソヒソ言う。
武市「そんな…ことが、できるわけ…」
J・B「(一喝)出来る出来ないじゃねぇ!やるんだ!!」
J・B「オリンピックも世界陸上も所詮はお遊び。0秒00のタイムを出せば、未来永劫超えられない記録になる。そうだろ、プロフェソール?」
隻眼教授「その通りだ。アインシュタインの相対性理論が証明している」
J・B「俺は、俺一人のために神速くなる!」
武市「くそっ!」
・見栄を切るJ・Bに気おされまいと武市は拳を握り締め、立ち向かっていく。
武市「アタタタァアアーー!!」
・J・Bは余裕の笑みを浮かべ、武市のラッシュを紙一重でかわし続ける。戦いながら武市が心中を語る。
(武市:
小学校に上がるとき、父さんが家を出てった。母さんは"大人の事情"って言ってた。)
(高校の先生をしてる母さんは、仕事して、家のことして、勉強まで見てくれた。いつも疲れてたから、なるべく自分のことは自分でやろうって決めたんだ)
・家で縫い物や洗濯、夕飯づくりをする武市が映る。
(これは、俺ひとりの問題だ)
・渾身の正拳突きが決まるが、ノーガードのJ・B。鋼のような筋肉には通用しない。武市はラッシュをつづけるが、J・Bは今度はかわさず、平然と攻撃を受け続ける。
(俺たちこれから大人になってくんだ。親父みたいに自分の家をほったらかす無責任なやつになりたくない)
・J・Bが武市の額にデコピンをかます。吹っ飛ばされ、黒板に激突してヒト型の窪みができる。
桜子「武市くんっ!!!」
・武市、血だらけで立ち上がる。
J・B「ホ、まだ立ち上がるんか。やるジャン♡」
武市「アチョォーー!!(飛び蹴り)」
(武市:
こいつに言われなくたって、みんなにはやりたいことがたくさんあるんだ!)
(琉輝斗はいっつもボカロP聴いてて、髪染めたりオシャレしたり、楽しそうだ。御堂は将来親父さんの工務店を継ぎたいって言ってた。江本は丸の内OLになってバリバリ働きたいって)
・J・Bは手を抜きつつもジャブやハイキックをしかけ始める。武市はほとんど虫の息だが、何度も立って相手を睨みつける。
(俺は特になんもないけど、フツーに大学出て、フツーに会社勤めてフツーに結婚できれば、それでいいんじゃないって思ってる)
・J・Bの肘鉄がモロに決まり吹っ飛ばされる。顔面血だらけ
(…あれ?)
(じゃあ、なんで俺こんなことしてんだろ?)
・みんなが呆然と見守る中、江本さんのTシャツの裾をつかむ桜子が震えている。
桜子「(ぶつぶつと)やめて、…やめて、やめて…」
・武市、血を吐きながらまだ立ち上がる
武市「(意識が朦朧としてる)俺は…、学級委員だ、クラスメート、渡してたまるか…」
J・B「(不敵に笑う)気に入った!その闘志に免じて、オレサマの超奥義で苦しまず逝かせてやろう」
(武市:ああ、そうか。分かったぞ…)
・J・Bはランドセルを床に放る。ものすごい衝撃音がして、床にクレーターができる。
J・B「夢を語らせてくれた礼を言うぞ、ダンゴムシの学級委員。ちと最近、モチベの方がイマイチだったんでなぁ…」
・J・Bは首と指をコキコキ鳴らし、構えをとる。
J・B「七天魔王唯我独尊・斃神屠仏無手勝流…悶絶昇天秘術・第六百六十六話!」
(武市:
俺は、"セキニン"を取りたかったんだ。みんなを守るために一人を差し出すって決めた責任を…)
J・B「短距離走!!」
・なんかすごいカッコいい背景。現れた時のように、J・Bの姿が音もなくかき消える。
桜子「武市くんっ!!」
・桜子が江本さんに抱きつき目をつぶる。
隻眼教授「(にやり)すべて、計算済よ」
(武市:決めたぞ、俺の夢。俺はいつだってそういうヤツになってやる…!)
つづく
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