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私、気になりません!ミステリーアニメ「小市民シリーズ」

今回は、アニメ「小市民シリーズ」について書いてみたいと思う。
これは今クール放送のアニメの中で、そこそこ話題になってる様子。
原作は直木賞作家・米澤穂信先生のミステリー小説で、彼の小説のアニメ化は「氷菓」に続いての2作目となる。
「氷菓」は名作だっただけに、この「小市民」にも期待してた人は多いだろう。

「小市民シリーズ」(2024年)

制作会社はラパントラックという、あまり聞いたことのないところ。
最近では、「アンデッドガール・マーダーファルス」を作った会社らしい。
確かあれは「伝奇なのに意外と本格ミステリー」という、なかなかユニークな作品だったわ。
そして、監督は神戸守さん。
神戸さんは以前、「すべてがFになる」を監督していて、つまりミステリーアニメ経験ありの人である。
うむ、それなりにお膳立ては整ってるんじゃないか?
・・とはいえ、「小市民」は「アンデッドガール」や「Fになる」とは比較にならんほど、とにかく地味なんだよね~。
だって、誰も死なないもん
そうか、これ、「氷菓」の系譜だったね。
確かに、「氷菓」は誰も死なない稀有なミステリーだった。
でもその代わり、

私、気になります!

の千反田えるがあまりにもキャッチーだったので、人が死なないことも別に気にならなかったのよ。
でも「小市民」の方は、ヒロイン・小佐内が

・・償ってもらわないと。

とか言うキャラで、千反田さんとは少し違う。
いや、キャラ的には「気になります!」のむしろ真逆、あまり物事に関心を寄せないように気を配ってるフシもある。

何事もなく過ごすことが最優先=小市民の徹底


というのが作品の重要なテーマとなってるようだ。
なお、主人公・小鳩(♂)もまた小佐内とココロザシを共にするスタンスであり、2人して小市民のスタンスを遵守することを誓っている。
というのも、上の画の「償ってもらわないと」は小佐内のダークサイド面ということらしく、これを封じようとするが為に敢えて小市民を徹底しようとしてるのよ。
とはいえ、このダークサイド面が人を殺すほどのレベルというわけでもないと思う。
まだ過去回想シーンが皆無ゆえ、その詳細までは不明だが・・。
まぁ、本質的なところは違うにせよ、小佐内も小鳩も無関心を貫こうとするところは「氷菓」主人公・折木のスタンスに近いといえよう。
確か折木のスタンスは、「省エネ」だったよね。

省エネvs私、気になります!

この真逆のベクトルが衝突し、じわじわと省エネが解除されていくところが「氷菓」最大の面白さだったのに、それが「小市民」の場合、

私、気にしませんvs僕も、気にしません

という感じで、省エネ×省エネのダブル構造に少しイライラするんだよね。

やる気ない主人公×やる気マンマンのヒロイン<氷菓>
やる気ない主人公×やる気ないヒロイン<小市民>

果たして、やる気ない者同士のカップリングに向上はあるんだろうか・・?

こういう「やる気ない」主人公設定は、正直珍しいものでも何でもない。
いやむしろ、いまどきの青春モノの主流といっていいだろう。
最も有名なところは、比企谷八幡かな。

「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」

あと、最近では綾小路清隆だね。

「ようこそ実力至上主義の教室へ」

比企谷にせよ綾小路にせよ、みんな「能ある鷹は爪を隠す」系である。
なぜ隠す?
それは一種のリスクヘッジだろう。
「出る杭は打たれる」が日本の(学園の)ムラ社会の本質であり、目立たずやりすごすことが平穏を保つコツである。
比企谷は、なかなか興味深い発言をしている。

うむ、ぼっちはぼっちなりに、「今」を大切にしてるのよ。
できるだけ「ノイズ」をシャットアウトするという形でね。
ノイズとは何か?
それは、こういうものである↓↓

比企谷さん、私、気になります!

多分、千反田×比企谷は相性悪いだろうなぁ~。
いや、比企谷だけじゃないよ。
絶対、綾小路とも相性悪いって・・。

綾小路さん、私、気になります!

いやいや、千反田さん、          綾小路の過去が気になるのは、めっちゃNG!


むしろ綾小路みたいな奴は、「小市民」の小佐内さんのような子の方が相性イイと思う。

・・付き合っちゃえよ。


話を戻そう。
「小市民」にせよ、「氷菓」にせよ、米澤先生が「やる気のない主人公」を一貫してるのは、これって先生自身の学生時代を投影してるのでは?
思うに、これまで先生は直木賞をはじめ様々な文学賞を獲ってきた人だし、やはり、子供の頃から頭イイ系であり続けてきた人だと思うのよ。
で、我々凡人からすりゃ頭イイ系の人はただ羨ましい限りだが、彼らは彼らなりに、頭イイがゆえのイヤな思いをたくさんしてきたのかもしれないよね。
それを如実に表現してるのが、「小市民」である。
これは「氷菓」よりも後に執筆された小説らしく、ある意味「氷菓」よりも一歩踏み込んでるわけよ。
「氷菓」折木の「省エネ」思想は、その思想に至った経緯は意外と最後まで曖昧なままで、結局何だったのか私には理解できなかったんだが、一方、「小市民」の小鳩&小佐内の「小市民」思想は、明らかに中学時代、両者が共にイヤな思いをしたこと、自己嫌悪に陥ったことが作中で示唆されてる。
だからこその「逆・高校デビュー」というわけか・・。             

           ヒエラルキー

多分、頭イイ系のヒエラルキーでいえば小鳩や小佐内はピラミッドの最上層部にいる人間だろう。
中層部・下層部にいる人間から見れば羨望の対象だろうが、改めて上の図を見ると、その最上層部に感じるのは「孤独」と「不安」である。
何かさ、小鳩や小佐内が「敢えて下の層に紛れ込みたい」という心情になるのも分からんではないのよ。
これ、いまどきの最も分かりやすい言葉でいうと

「逆・承認欲求」


だね。
「ようこそ実力至上主義の教室へ」で、綾小路が意図して定期テストの点数をクラス平均点ぴったりに合わせてくるのと同じことである。
「真の意味で持ってる人」は、ベクトルが逆に働くのかもしれない。
そういや、アインシュタインも学校の成績めっちゃ悪かったらしいじゃん?
真の天才に、上昇志向などないのかもしれん。

最近、「ギフテッド」という言葉をよく耳にするようになってきたかと。
真の天賦の才を持ってる人たちのことさ。
これを、ただ単純に「羨ましい」なんて言えないんだよね。
当人にしてみりゃ、めっちゃ生きにくいらしいんだから。
「小市民」小鳩&小佐内も、きっとその類いだろう。
でも、小佐内とか小さくてカワイイし、スイーツ好きでオンナノコっぽいところもあるじゃん?
と感じた人もいるかもしれんが、それ全く意味を取り違えてるよ。

<甘いものを大量に食うクセに、太ってない>

これ、物語では昔からお馴染み「天才の記号」ですから。

「DETH NOTE」L

ギフテッドの脳の活動は糖分を大量消費する為、常に甘いものを補給しなくてはならん、というのがアニメ表現のお約束。
多分、小佐内はL系のタイプだね。
かなりヤバい系である。
小鳩の方は甘いものをむしろ苦手にしてたので、おそらく彼は脳の活動制御をできるタイプなんだろう。
対して小佐内は、制御がきかず常に脳が回り続けてるタイプなのでは?
二重人格という闇も含めて、小佐内の方はちょっとシャレにならん領域だと思う。

小佐内さん、私、気になります!

千反田さん、それ以上踏み込んだらダメだ~!


「氷菓」を見て、米澤先生の原作はほのぼのしたものだとタカをくくらない方がいいと思うよ。
先生の小説で実写化されてるものに「インシテミル」(←クソ)というのがあるんだが、これ結構人がたくさん死ぬやつだったわ。

「インシテミル」(2010年)
綾瀬はるか、石原さとみ
平山綾
藤原竜也
武田真治

多分、「小市民」はこういう展開にならないと思うけど、個人的には小佐内の闇がどんどん大きくなっていく展開を期待している。
「氷菓」みたいなのを期待してた人たちは、ちょっとあれだったかも。
でも、私はこれはこれで全然ありだと思ってるよ。
全く未見という方は、ぜひ一回見てみてください。


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