榛葉琥珀

校正、編集、ライターを細々と。神社検定壱級、弐級取得。 小説書き始めました。ホラー、ミステリーが好きです。 カクヨム https://kakuyomu.jp/users/amber-lionking

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  • ヴィレッジ岩屋顛末

    ホラー小説。東京・中野区 マンション「ヴィレッジIWAYA」はどこかおかしい。

  • 行方不明の幼馴染の話

    ホラー小説。少年と地域民俗。

  • アカシアの雨

    短編ミステリ―小説

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行方不明の幼馴染の話 第一話(全十五話)

**  あのうだるような暑さの日、あの子は言った。 「しょう君、私ね、こわいかみさまに食べられちゃうんだ」  その意味を、ずっと考えている。 **  真夏のクラス内はクーラーが効いている。しかし何といっても窓際は、三十度近くになれば窓から熱気がしみだしてくるようだ。  それでも、僕は窓際の席が気に入っている。区立東中野中学の校庭は一面の人工芝で、夏の太陽に照らされてきらきらと光を放っていて眩しい。  一年三組の教室では、担任の池澤先生が夏休みの注意事項について話している。配

    • ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第十一話

       夕羽はヴィレッジ岩屋付近の住宅街の中を走っていた。いつの間にか出た道が、あまり歩いたことのない路地だったので、一瞬方向がわからず迷子になりかけた。できるだけ明るいほうに向かうと、ようやく見知った道に出られた。  大音量で鳴っていた着信音もいつの間にか止んでいる。後ろを振り向いてみたが、あの少女が追ってくる気配はない。静かな冬の夜の風景に、拍子抜けしたような気持ちになるが、さっきまで恐ろしい状況にいたのだ。  そもそも、何もかもが悪夢の中の出来事のようだった。  街灯の下に立

      • ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第十話

         三階の短い通路を歩き、自分の部屋の前に立つ。開錠してドアを開けると、目の前の空間が真っ暗だった。 (え?)  夕羽は驚いて、一歩踏み出した姿勢のまま止まってしまった。確かにほとんどの家電のコンセントは抜いていたが、ブレーカーを落としたわけではない。カーテンを閉めたくらいでは考えられないほど、部屋の中が、物の位置もわからないくらいに真っ暗なのだ。 (――ここは)  ここはまずい、危険信号がひらめいて踏み出した足を引こうとした時、ふいに後ろから背中を押されて衝撃でバランスを崩し

        • ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第九話

          「あれ……? ねえ、ちょっとそこの子!」  会社でPCのモニターを見ていると、同僚がフロアで声を上げた。結構な大声だったので顔を上げると、入り口のドアから外に身を乗り出している後輩の女の子が見えた。営業の男性が「何? どうした?」と声を掛けている。 「そのドアのところに小さい女の子がずっと立ってて。フロア内を見ていたんですけど……」 「女の子? こんなところに?」 「はい。でも、ここってパスがないと入れないですよね? ちょっと白っぽい薄汚れた服着てたし、どこから入ったのかなと

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        行方不明の幼馴染の話 第一話(全十五話)

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        記事

          【続報】同じマンション住人に襲われる 男が留置所内で死亡 自殺図ったか 日読新聞

           警視庁は●日、中野警察署の留置所に暴行傷害容疑で拘留されていた男(35歳)が意識不明の状態で発見され、その後搬送先の病院で死亡したと発表した。自殺を図ったとみられる。  警視庁によると、●日午前3時ごろ、中野警察署の留置所で同室者から「男が首をつっている」と申告があった。  男は着用していた衣服で首をつり、自殺を図ったとみられる。職員が居室内に入って確認したところ、すでに呼吸をしていなかった。男は病院に運ばれたが間もなく死亡が確認された。居室内には遺書のようなメモが残されて

          【続報】同じマンション住人に襲われる 男が留置所内で死亡 自殺図ったか 日読新聞

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第八話

           連泊しているカプセルホテルの小さいラウンジで、夕羽は窓際のカウンター席に座り、紙コップに入れたコーヒーをすする。室内にはフリードリンクコーナーや、一人掛け用のソファと小さいローテーブルがいくつか、壁と窓に沿ってカウンター席がある。照明が少し落とされてこじんまりとした空間は、ミニチュアのバーラウンジみたいだった。  平日の夜は、女性専用カプセルホテルでもそれほど込み合っていない。室内は夕羽を含めて数人しかいない。施設にもよるが、このホテルは支給された室内着でラウンジも利用でき

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第八話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第七話②

           ヴィレッジ岩屋に帰らなくなって、二週間以上過ぎた。十一月も下旬になるとずいぶん冬を感じる日が増えてきた。トレンチコートにライナーを付けて何とか過ごしているが、もうすぐ寒さが厳しくなるのだろう。  夕羽は帰らなくなってから不在時の郵便物が気になり、数日に一回はポストを覗くようにしようと考えた。お守りを手に入れて落ち着いたこともあり、近くでクライアントに訪問した後、帰社の前の時間を使って明るいうちにマンションに行ってみることにした。  マンションへの道を歩いていると、前方に警

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第七話②

          マンション内で襲われる 近隣トラブルか 日読新聞

          **  東京都中野区坂上中央のマンションで●日、帰宅した20代の女性が襲われた事件で、警視庁は同じマンションの2階に住むアルバイトの男(35歳)を傷害容疑で逮捕したと発表した。  発表によると、男は●日の午後8時30分ごろから9時までの間に、3階にある女性の部屋に向かい大声でドアをたたくなどして騒ぎ、ドアをこじ開け女性に殴るなどの暴行を加えてけがを負わせた疑い。  2人に面識はなかったが、同じマンションの住人。近隣からの通報で駆け付けた警察官によると、男はかなり混乱した様子だ

          マンション内で襲われる 近隣トラブルか 日読新聞

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第七話①

           それから数日は、通いやすい場所にあるビジネスホテルに連泊した。初めは少し旅行気分が味わえて気分転換になるな、などと呑気にも思った。現実逃避したかったのかもしれない。そういえば、忙しさにかまけてしばらく旅行もしていないことをぼんやり思う。  ビジネスホテルに泊まっていると、「生活する」ことを考え直さなければならなくなった。コインランドリー利用や常に外食、ホテルは平日以外は割高で、すぐに金銭的な不安が増してきた。当然ながら家賃を払いながら宿泊しているのでできるだけ安く抑えたい

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第七話①

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第六話

           その夜は、新宿駅近くの安いビジネスホテルに飛び込みで宿泊した。夕食は食べてなかったけれど、吐き気がして食欲も湧かず、とにかく横になりたくて、コートを脱ぐとベッドに倒れ込んだ。  ――あれは何だったのだろう。  でも、これで上の棚の扉がよく開いていて、物が落ちていた理由がわかった。あの黒い髪の長い影。あいつが出てきていたのだ。あの狭い空間から。  それを想像すると、夕羽の背筋が粟立った。アレは、夜中に頻繁に出てきていたのだろうか。恐怖と、得も言われぬ嫌悪感に涙が出てくる。自分

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第六話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第五話

           夕羽自身はそれほど怖い話が好きだとか、オカルトに精通しているということはない。特に霊感があるなどと感じたこともない。そのため、よくわからないことをむやみに怖がることも昔からあまりない方だった。学生時代に友達とちょっと盛り上がる、くらいは経験があっても、幽霊を信じてはいないのだと思う。見えないモノよりも、人間の方がよほど厄介で恐ろしいと思っている。  しかしこの部屋に引っ越してきて、少しずつ何か不自然なことが起こっているのはわかる。それは気味悪いのだが、そもそもどう対処したら

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第五話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第四話

          悪夢 ***  気が付くと、夕羽はどことも知れない山の中をゆっくり上っていた。  足元は、大きめの石が敷き詰められて階段状になっている。周りは竹林になっていて、自然の倒木もあった。周囲の木はほとんど闇の中にあるが、登山道のようになっている道の脇にはいくつかの灯篭が、ほのかな光を投げているおかげで、行き先がわかる。 しかし、なぜ上っているのか、どこに向かっているのかわからない。足を止めて前方をみると、少し先が拓けていて、より明るい。 (あそこに向かうのか)  漠然とそう

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第四話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第三話

           引っ越してから一カ月は経とうとしていたが、頭痛は相変わらず続いていて、部屋にいる時間は気が塞いで不安感が増してくる。 家に帰っても疲れが取れないからか、会社で急な眠気に襲われるのも悩ましい。先輩の相川には、顔色の悪さをとても心配されている。疲れのせいか頭痛に加えて夢見が悪くて、などと言い訳したが、このままでは仕事にも影響が出そうだった。  しばらく予定が合わなかったが、消防設備点検の実施のため、不動産屋が手配してくれた民間会社が部屋を訪ねてきた時のことだ。 「東栄ビルメン

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第三話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第二話

           カフェのガラス窓にぼんやりとした自分の姿を見ながら、夕羽は内見の時の違和感を思い出していた。本田の人の良さそうな雰囲気に呑まれたのがよくなかったのかもしれない。三角のマンションなんて変な物件を選んでしまったことを、今更後悔している。  結局、三件見た中で、一番安くおしゃれだった今の部屋に決めたのだった。総合的に見てお得だと思えたからなのだが。  今思えば、駅から近く比較的新しい単身者マンションが、手頃な家賃なのに入居者が少ないのはおかしいと、もう少し気にして調べてみればよ

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第二話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第一話

          帰る場所がない女性の話  暖かい店内の窓際に座り外を眺める。寄り添う恋人や笑い合う数人のグループなど、行き交う人々が見えた。十二月の夜は、年末を迎える忙しなさと、どこかふわふわと浮足立つような楽しさに満ちている。  時刻は夜二十一時を回った。渋谷からほど近い立地は、こんな時刻でも人通りが絶えない。カフェの店内にも、語り合う若者たち、会社帰り風の女性や男性、数人のグループから一人客まで様々だ。  夕羽はビジネスバッグからモバイルPCを取り出し、Wi-Fiに繋ぐ。電源と無料の

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 第一話

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 プロローグ

          プロローグ 大通りへ向かって走る。  恐怖と夜気の冷たさで目に涙が溜まって前がぼやける。  息が詰まって苦しい。首と背中に冷たい感触と重み。魚が腐った様な腐臭がすぐ後ろにあるが、振り向けば見えるモノを認識するのが怖くて振り向けない。  人気のない路地を走り抜け、大通りへ向かう真っ直ぐな道に出ると、夜の都会の光が見えた。 口から悲鳴とも歓喜ともつかない叫声が漏れ出た。 (助けて)  大通りへ向かって走る。一目散に。 (誰か助けて)  背中のモノを引き剥がして。 <第

          ヴィレッジ岩屋顛末 第1章 三〇三号室 夕羽 プロローグ