榛葉琥珀

校正、編集、ライターを細々と。神社検定壱級、弐級取得。 小説書き始めました。

榛葉琥珀

校正、編集、ライターを細々と。神社検定壱級、弐級取得。 小説書き始めました。

マガジン

  • 行方不明の幼馴染の話

    ホラー小説。少年と地域民俗。

  • アカシアの雨

    短編ミステリ―小説

最近の記事

  • 固定された記事

行方不明の幼馴染の話 第一話(全十五話)

**  あのうだるような暑さの日、あの子は言った。 「しょう君、私ね、こわいかみさまに食べられちゃうんだ」  その意味を、ずっと考えている。 **  真夏のクラス内はクーラーが効いている。しかし何といっても窓際は、三十度近くになれば窓から熱気がしみだしてくるようだ。  それでも、僕は窓際の席が気に入っている。区立東中野中学の校庭は一面の人工芝で、夏の太陽に照らされてきらきらと光を放っていて眩しい。  一年三組の教室では、担任の池澤先生が夏休みの注意事項について話している。配

    • 行方不明の幼馴染の話 最終話

      (残念だな、美天ちゃんにも来てほしかったのに) (一緒に行けたらきっと楽しかったのに) (でも、しょう君だけでもうれしい) (いっしょに遊ぼうね)  足元がふわふわとしていて、まるで柔らかいベッドの上みたいに心もとない感触のまま、手を引かれて歩いていた。誰かがうきうきとしゃべっているのが、温かい水の中で聞くみたいにぼんやりと耳に届く。  右手は小さく柔らかい子供の手を感じる。子供の手は少し冷たかった。 (もうすぐだからね。そしたら、ずっと一緒だよ) ――僕はどこに向かって歩

      • 行方不明の幼馴染の話 第十四話

         朝になり、音も気配もなくなったのがわかった僕は、数時間だけ気を失うように眠った。  十時過ぎに目覚め、ふらつきながらリビングに降りていく。おばあちゃんは出かけるところだった。 「翔ちゃん、ずいぶんと遅くに起きたのね、――どうしたの?」  いつもよりも遅く起きた僕に、何げなく声を掛けてきたおばあちゃんは、振り向いて僕の顔を見ると、眉をひそめて心配そうな表情になった。 「ちょっと……夢見が悪くてうなされちゃって」  ぼそぼそとそんな言い訳をした。でも、この調子だと昨晩の出来事

        • 行方不明の幼馴染の話 第十三話

           僕はどこをどう走ったのか覚えていない。  夕立ちの中を、恐怖で方向感覚が狂ったままひたすら走って、住宅街を大回りしたようだった。  気が付くと僕は、自分の家の辺りを通り過ぎ、何故か玉泉寺の敷地にいた。目の前には、仁王門の阿吽の仏像が見えた。その辺りで記憶が飛び飛びになる。  雨に打たれて、混乱と寒さに震えながらその門の下で雨を避けていたらしい。それを見つけてくれたのが、鈴木さんだった。その頃はまだ顔見知り程度だった僕は、鈴木さんを見ると、熱に浮かされたように、悠のことを探し

        • 固定された記事

        行方不明の幼馴染の話 第一話(全十五話)

        マガジン

        • 行方不明の幼馴染の話
          15本
        • アカシアの雨
          6本

        記事

          行方不明の幼馴染の話 第十二話

          **  夢を見た。 ――恐ろしくて懐かしい忘れられない思い出と、後悔。僕は夢の中で、小三の夏休みに戻っていた。  あの暑い日、僕は朝から気が急いていた。  ようやく外出していいと許可をもらい、お昼を食べたあと家を飛び出した。午後から夕立ちが降る予報で、気を付けるように言われていた。  蝉の声が鳴り響く中、いつも美天や悠と会う公園に向かう。  真夏の昼下がりの公園は、人影もまばらだった。いつも会う同年代の友達に、美天や悠のことを聞いたけれど、見ていない、と言われた。  うっ

          行方不明の幼馴染の話 第十二話

          行方不明の幼馴染の話 第十一話

           長峰さんの家は、古い日本家屋だった。すりガラスと格子の引き戸を開けると、三和土に小石が埋まっている。僕の家も建て替える前はこんな感じだったな、と懐かしく思い出す。  玄関を入ると、うっすらとお線香の匂いが漂ってくる。室内は涼しく、僕はホッとした。  靴を脱いで、先導する長峰さんの後ろを歩く。廊下を進み、左手の引き戸を開けると畳の部屋だった。つやつやとした木でできた低い座卓が置いてある。座っているように言われて待っていると、グラスに氷を浮かべた冷たい緑茶を持ってきてくれた。

          行方不明の幼馴染の話 第十一話

          行方不明の幼馴染の話 第十話

           鈴木さんに連絡をすると、すぐに時間を調整してくれた。僕は再び玉泉寺で会うことになった。 「――まあ、色々やっているようだと思っていましたが、よくこれだけ集めましたね」  前回と同じ広間に通された僕は、少し緊張しながら、鈴木さんにこれまでの大まかな話を伝えて、地図とノートを見せた。  しばらく何も言わず話を聞いていた鈴木さんは、呆れたような感心したような顔をした。ノートを手に取り、書かれている発生状況と場所、地図を見比べる。 「……話はわかりました。これを見る限り、君たちの懸

          行方不明の幼馴染の話 第十話

          行方不明の幼馴染の話 第九話

           僕たちは、将生と斎藤くん、美天、比呂のスポーツ教室などで『白い少女』の情報を集めて、地図にマッピングして怪異の発生状況を調べていった。  途中から、アプリ上のマップでは細かすぎて限界だったので、拡大したものを紙に印刷して、ノートと照らし合わせて書き込んでいった。もちろん、宿題である「通常の自由研究」の情報も集めつつの作業だ。一見すると、同じような作りの地図(自由研究の方は古い町の地図)とノートを使っていたので、たとえ誰かに見られてもパッと見はわからないと思う。  主に見つか

          行方不明の幼馴染の話 第九話

          行方不明の幼馴染の話 第八話

          ** 小学三年生の夏休み、僕たちは内緒で悠の家に招かれた。 「今ならお母さんもお父さんもおばあちゃんもいないから、しょう君とみそらちゃん、うちに来てみない?」 「悠の家? 翔、行ってみようよ」  美天が僕を「翔」と呼ぶので、悠も僕をしょう君と呼ぶ。美天は誘われて初めは乗り気だった。  悠は、手足が細くて体も小さい子供だった。だから、一人っ子の僕と美天にとっては、小さく守ってあげたい妹みたいに思ってた。  そんな悠が、自分から何かを持ちかけるなんてめったにない。美天は張り切って

          行方不明の幼馴染の話 第八話

          行方不明の幼馴染の話 第七話

          「まどかが言うには、エントランスのガラス扉越しに見た女の子は、汚れた和服を着ていたみたいに見えたって。動揺してて、顔なんかはあまり細かく覚えていないらしいけど」  話し終えた美天は、アイスティーをまた飲んで、ストローを回しながら続ける。 「まどかも、あまり怖い話が好きじゃないから、しばらく誰にも話せなかったみたい。……この前、杉元たちが話しているのを聞いて、ようやく話す気になったって言ってた。塾はお母さんに迎えに来てもらうようにしてて、帰るのはたまに私も付き合ってたの。……で

          行方不明の幼馴染の話 第七話

          読んでくれる皆さまへ お礼

          初めまして。榛葉琥珀と申します。 通りすがりに私の小説をお読みいただいてありがとうございます。 簡単に自己紹介いたします。 普段は校正、ちょっとだけライターをしつつ、ホラー、ミステリーなどを書いております。 ただいまnoteの #創作大賞2024 に応募のため鋭意執筆中です。 この度、あるマガジンに登録されたようで、急にフォローといいねが増えて純粋に驚いております。 それが山門文治さんの以下のマガジンでした。 ありがたいものです。 このような経験はほとんどないため、戸惑

          読んでくれる皆さまへ お礼

          行方不明の幼馴染の話 第六話

           斎藤くんが言うには、その道は周囲を空きアパートと塀に挟まれている細い私道だった。突き当りの空きアパートは取り壊し予定で、左右は古いブロック塀と植込みに囲まれている。数秒で隠れられるようなスペースはそもそもなかった。取り壊し予定のアパートに電気は通ってなく、自分が立っている場所からの街灯に照らされた細い道には、誰も見当たらなかった。 「僕はそんなに……幽霊とか怖い話とか、信じてないし好きでもないけど、あれは何て言ったらいいかわからない。自分が体験したのが今でも何かの思い違い

          行方不明の幼馴染の話 第六話

          行方不明の幼馴染の話 第五話

           『白い少女』を目撃した塾の友達に会える日を、将生に調整してもらう間、僕は近くの図書館に行き、昔話や伝説などの資料を探していた。  僕の住んでいる地域の図書館は、数年前に中学校と併設し設立された。僕の中学自体も少子化などで二校統合され、その時に区の周辺サービス窓口も併設された複合施設として生まれ変わった。外見だけ見ると、中学校というより大きな区役所みたいに見える。  図書館で、司書のお姉さんに昔話や伝説を探していると言うと、区のデジタルアーカイブで、地域の話が載っている説話

          行方不明の幼馴染の話 第五話

          アカシアの雨 第五話「屋上で」

          屋上で  次の日の授業が終わり、波瑠は特別棟の美術フロアの廊下を歩いていた。薄暗い廊下は、個人ロッカーから画板、イーゼルなどの画材、静物デッサンで使う石膏のミケランジェロや聖ジョルジョなどの胸像、半身のトルソー、球や角柱などの幾何学体など、両脇にある棚や台座に所狭しと置かれていて、雑多でカオスな状態だ。  その奥にある、生徒の作品が飾ってある一角で足を止めた。  秋の文化祭で展示された、いくつかの作品がまだ残っていた。そこには美術コースの多嶋たち生徒の名前もあり、選択授業

          アカシアの雨 第五話「屋上で」

          アカシアの雨 最終話「さよなら、またね」

          さよなら、またね  十二月、期末試験が終わった頃、苑はバタバタと周囲に挨拶を済ませて、海外に転校していった。行き先はボストンと聞いたが詳しくは語らず、最後まで苑らしく、あっけらかんとした別れだった。  終業式が終わり、生徒たちはほとんど帰宅し閑散とした夕方の校内を、波瑠は副校長室に向かって歩いて行く。  ノックをすると、「どうぞ」と声が聞こえた。  ドアを開けて入室すると、いつものように上品にスーツを着こなして、藤波が窓の近くに立っていた。波瑠は黙って近づくと、ポケットから

          アカシアの雨 最終話「さよなら、またね」

          アカシアの雨 第四話「アカシア」

          アカシア  祐は「二、三日くれ」と言い、調査を引き受けてくれた。  とりあえずはこれで連絡を待つ間に、波瑠は生徒の情報収集に徹することができる。  授業をこなしながら、数日はそれとなく生徒たちを観察してみた。雰囲気としては好奇心に浮ついているという感じで、わかりやすい動揺は見られなかった。  事件についてはすでにクラス担任から話はされている。近隣で傷害事件というだけでも衝撃的だが、どうやら生徒間でもすでに、掲示されたポスターのイチョウが宮下公園のものだったと噂になっていたよ

          アカシアの雨 第四話「アカシア」