あんらん。

始めまして、あんらん。と申します。 カクヨムで二年余り活動していましたが、こちらでも作…

あんらん。

始めまして、あんらん。と申します。 カクヨムで二年余り活動していましたが、こちらでも作品の発表をと思いたちやってきました。 妖しいもの怪しい事どもの物語を創作しています。好きな作家は京極夏彦。時代物も大好きです。どうぞよろしくお願いいたします。

最近の記事

銀の鯨 第八話

最終話・少年たち    誠を包んでいた強い光が消えた。  途端に風の音、波の音が戻って来た。潮の香りもする。  「誠、大丈夫?熱がまた出てきたんじゃない?」  心配そうにのぞき込む母の顔が目の前にあった。  確かにまだ体は本調子ではない。目眩がしてふらついていた。  梅雨の曇り空と波打ち際の波紋が、ここに来た時と全く同じだ。  過去の情景を長い時間かけて見ていたと思ったのに、実際は五分とかかっていなかったようだ。 「うわっ」  いきなり、手を添えていた片側だけの舟の残骸が

    • 銀の鯨 第七話

      ヒデと秀  空の上、雲海に身をまかせていた鯨は、中央の山の頂に身を寄せていた。  そして、一度ボートのふたりに目を向けると「きゅーーーーんっ」とひと声鳴き、そのまま雲間に消えていった。  それっきりだった。それっきり、ふっつり気配が消えた。  さっきまでは潜っていても雲の揺れる波紋でどこにいるのか分かったのだが、辺りはまったくの静寂。波ひとつ立たない。風さえなかった。  誠とヒデはしばらく目を凝らしていたが、鯨はもう姿を現すことはなかった。  いつの間にか海の上はすっかり雲

      • 銀の鯨 第六話

        地上の混乱  山から次々湧き出した雲が、徐々に地上へ降りてくる。  それが濃霧となり、あっという間に森や林、幹線道路を覆っていった。  異常な速度で霧が広がっていた。  誠が母に連れられやってきた砂浜も霧に覆われていた。  一瞬のうちに人々は視界が遮られ、すぐ目の前でさえ誰がいるのか何があるのか判別できなくなった。 「誠ー!、誠ー!」母は叫びながら走り出したが、 「いたっ」「うわっ」「なにやってんだよ」  近くにいた人々に次々ぶつかって前へ進むことが困難になっていた。 「真

        • 銀の鯨 第五話

          あの夏の日の情景  真夏の太陽が照り付ける浜辺は、子どもたちの歓声であふれていた。  白砂の美しい、この島一番の海岸だった。  地元の者や観光客で賑わっている。   初めての島の海を満喫させようと、母は今日、幼い誠をここに連れてきた。  後から祖父も舟でこちらに向かうことになっていた。すぐ近くの漁港に昼には来てくれと言っていた。  祖父は誠に舟を見せたかったのだ。舟に乗せてやるとも言っていた。  誠は楽しみにしていた。  そしてまた舟に乗った誠の姿を写真におさめ、入院してい

        銀の鯨 第八話

          銀の鯨 第四話

          夢の少年と舟そして・・    誠は夢を見ていた。    雨に打たれたせいだろう、悪寒がして立っていられなくなり叔父によって近くの民宿に運ばれた。なんとか風呂に浸かりすぐに横になる。  体温は39度と熱が出ていた。  通夜はまだ続いているし、今夜は叔父や母と交代で寝ずの番をすることになっていたのにそれもままならない。  熱のせいで朦朧としている頭に浮かんでくるのはあの少年と「神隠し」という言葉。  誠は正直ホッとしていた。混乱した頭のままあそこにいるのは無理がある。  更に熱

          銀の鯨 第四話

          銀の鯨 第三話

          少年  通夜の時刻に雨が降り出した。  フロアーとロビーの仕切りが開け放たれているため、玄関の自動ドアが開く度に湿った空気が漂ってくる。  訪れる者がここからよく見える。  祭壇側に祖母、叔父、母が並びその横に誠も控えていた。受付に叔父の連れ合いと娘がいた。華奢で神経質そうなよく似た母娘だった。  その弔問客の数が半端ない。  これが全て親戚なはずはないと分かっているが、祖父はいったい何をしていた人なんだろうと思ってしまう。それともこれがこの島の風習なのだろうか。  人々が

          銀の鯨 第三話

          銀の鯨  第二話 

          雨の島そして視線  タラップを降りると猛烈な暑さに襲われた。  暑い。とにかく暑い。すかさず誠は上着を脱いだ。  ここは南の島。まとわりつく潮の香と湿った南風のせいなのか空気が濃く感じられる。  山が、近い。見上げた先、建物の向こうに覆いかぶさるように山が迫っている。反対側はすぐ海だった。滑走路が海に向かって伸びているのはよく見る風景だが、逆巻く大波が目の前に見えることはそうないだろう。  誠の日常に海の風景はない。暮らしている街は背景に遠く緩やかな山並、そこから広がる平野

          銀の鯨  第二話 

          銀の鯨

          あらすじ  ・主人公は誠26歳。大学卒業後地元の企業に就職し、翌年、成人式で再会した中学からの同級生と同棲生活を送っている。  6月祖父の葬儀のため母の故郷の島を訪れる。幼い頃一度訪れてはいるのだがその後20年間まったく訪れていない場所だった。また誠にはその頃の記憶が一切なかった。20年前何があったのか。母はなぜこの年月何も語らなかったのか。そして、前日に見た不思議な夢と葬儀の最中に現れた見知らぬ少年。誠の周囲に過去に繋がるピースが出始めていたが、考えることも思い出すことも

          ハーレーのタンデムシートの上から  (ソフトテイルFXSB1690CC)

          はじめに 6月5日から8日にかけて静岡県伊豆の国市に一泊、長野県松本市に二泊の予定でツーリングに出かけました。これは連れ合いの運転する二輪の後ろから私が目にした風景を記したものです。 ・6月5日・ 雲ひとつない晴天の早朝4時30分に自宅を出発。連れ合いはエンジンをかけずに幹線道路までバイクを押して行きます。平日の早い時間ですので町内の方々の安眠を妨げないよう配慮しました。😪😴😪😴 鈴鹿インターから東名阪自動車道に乗り東へ進みます。伊勢湾岸道を走り抜け新東名へ。雨の心配

          ハーレーのタンデムシートの上から  (ソフトテイルFXSB1690CC)

          押入れのなか

          ・ホラーです。怖いの苦手な方はご遠慮ください。とはいえそんな怖いお話しでもないかもしれません。「カクヨム」の自主企画に参加したときのものです。 ☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔☔ 「だれ、か・・ここ、あ・け・・  ね・え、だ・れ・か・こ・こ・」  どこからか声がする。  夢の中で私はそれを聞いていた。    連日の超過勤務あけの引っ越しで疲れ果てて眠っていた私をその声が揺り動かす。  でも私はこれは夢なのだとそのままやり過ごした。  そのうち聞こえなくなるだろう。とにかく

          押入れのなか

          『七つの鬼の物語』

          ・あらすじ・ これは七つの「鬼」の物語です。 古くて新しい「鬼」の世界を新解釈で掌編小説にしてみました。 『御伽草子』『風土記』などからその妖しくも美しい世界を追求しました。 鬼と人との間に生まれた男の子の物語。ちょっと間抜けな地獄の獄卒。鬼と絡んだ牛若丸の伝説から大江山の鬼退治の新説、生きながら鬼となった女性たちの呟き。打ち出の小槌をどうしても使わせたい鬼。最後に鬼に魅入られた兄弟の話しです。 了。

          『七つの鬼の物語』

          『笑う 河童』

            はじめに  ・これは遠い昔、貧困飢饉にあえぐ日本のとある地方の物語です。 これもひとつの河童伝説なのです。悲しく残酷な物語ではありますが、もう二度とこんなことが語られないよう祈りをこめ、これにて追悼とさせていただきます。(写真はイメージです。うちのカエルたち) 『笑う 河童』   そのときぼくは、なにが起きたのかわからなかった。    霜がようやく消えた村はずれの川の土手で、フキノトウをみつけたぼくが手を伸ばしたその瞬間だった。  後ろから押されそのまま水の中に真っ

          『笑う 河童』

          エッセイ 児童文学によせて 2      モモとジョバンニとガンバ

          ・「モモ」の声  日本を愛してくれたエンデに感謝。 『モモ』ミヒャエル・エンデ作/大島かおり訳 岩波文庫 わたしの大好きな『モモ』。 もう何度読んだかわかりません。(たぶん、うなずいている人、多いと思います) 「モモ」が時間泥棒たちから街のみんなを助けるお話しです。映像化もされました。観てないですけど。 エンデ作品は初期の『ジムボタンの機関車大冒険』がアニメで映像化されています。ずい分昔NHKで放送されました。覚えている方あるかな?。 『モモ』は、エンデがイタリアへ行

          エッセイ 児童文学によせて 2      モモとジョバンニとガンバ

          エッセイ 児童文学によせて

          1 児童文学という沼そして世界三大ファンタジー 三十年以上も前のことです。 娘が幼稚園の年長に上がった頃、若い母親たちの読書会に参加しました。 「子どもたちになるべく良書を」また「その良書とはどういうものか」を学びあう会でした。 主催者は、独身の頃関西のラジオ局でアナウンサー経験のある女性でした。 「絵本の読み聞かせ」ボランティアが盛んな時代です。 彼女の読む絵本はそれはそれは心地よく、子どもたちのみならず、大人もつい聞き入ってしまうほどの優しい声でした。 この読書会「T市

          エッセイ 児童文学によせて

          『鬼の夜ばなし7 笑う、鬼』

           これは、ぼくのおじいちゃんが子供の頃聞かされたお話し。  おじいちゃんのそのまたおじいちゃんに起こった出来事だという。  そのおじいちゃんの名前はツトム。十歳くらいの頃のことだった。  ツトムには、ケンジというもっとちいさな弟がいた。  ある時、母親が病気で入院し、そのうえ仕事が忙しくなってきた父親は、頼る者もないまま子どもたちの世話に困って、遠くの親戚の家にふたりを預けることにした。  まだ車のある家は限られていた時代だったから、電車とバスを乗り継いで、ふたりを連れた父

          『鬼の夜ばなし7 笑う、鬼』

          自己紹介

          皆さま初めまして、あんらん。と申します。 note参加、ひと月たちました。 ショートストーリーの物語18作アップしたところでの自己紹介とあいなりました。この18作は「カクヨム」で創作したものを加筆修正したものです。 愛着のある作品たちをお蔵入りにしたくなくて再度登場させました。 私、屋久島生まれ三重県在住。ただ今63歳の主婦です。夫と二人暮らし。 年々落ちる気力体力にムチ打って、夢実現のため奮闘しております。 自作品の「書籍化」これが私の夢です。 福祉関係、金融関係、サー