上演時間

幾多の感情を縦横無尽にほとばしらせるような覚悟の利いた演技…★劇評★【ミュージカル=ウエスト・サイド・ストーリー Season 1(宮野真守・北乃きい・小野田龍之介・中河内雅貴・樋口麻美出演回)(2020)】

今も新聞を拡げれば世界中のあちこちで紛争が起きていることが分かる。大きな国同士が世界規模で戦う大戦はなくとも、問題のない地域などないのだ。悲しいことに、人々のそうした憎しみというものは新たな憎しみを生む。そしてより増幅して戻って来る困った性質を持っている。特に一瞬一瞬を懸命に全力で生きている若者たちにとっては、そんな憎しみは純粋な魂と同じぐらい弾けやすく、もろいもの。そんな憎しみの連鎖の中で起きた

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戦地に吹き抜ける風が私たちの心の中にもたらす得も言えぬ叙情の思い…★劇評★【舞台=風博士(2019)】

「風」と聞くと、どんな空でも吹き抜けることができる自由なイメージや、風まかせとか風来坊という言葉から来る気ままで柔軟なイメージ、そして、国境や地上の形状に左右されない超越したイメージが思い浮かぶ。そのせいだろうか、このシス・カンパニー公演「風博士」は、戦争という最も過酷な状況の中で死と隣り合わせに生きている人々を描いているのにどこかさわやかで生命力さえ感じさせる。それは果たして悟りか諦観か覚悟か。

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戦争が与える傷を痛切に積み上げながら、2人の出会いとやり取りが何ものにも代えがたい瞬間のつらなりに見えるような優しい手触りが特徴的…★劇評★【舞台=泰山木の木の下で(2019)】

名優、北林谷栄の代表作のひとつで、劇団民藝が演じ継いできた日本演劇界の財産とも言える傑作戯曲「泰山木の木の下で」が2019年、16年ぶりに劇団民藝による新たな布陣で上演された。戦争や原爆による取り返しのつかない壮絶な痛みを受けた女性と刑事が宿命的な出会いを果たす中、垣間見えるおびただしい生と死のイメージは決して声高にその悲劇を糾弾することはないが、一見ほのぼのとした2人のやり取りの間から戦後日本人

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伝説的世界から逃れたはずの私たち現代人の心をもう一度奥底から揺り動かすようなエネルギーにあふれた作品…★劇評★【舞台=常陸坊海尊(2019)】

武蔵坊弁慶とともに義経の都落ちに同行しながらも、義経が追討軍に追い込まれた衣川の戦いに直前で参加せず、「裏切り者」の汚名を受けた常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)。その後自らの罪深さを悔いながら放浪した後、不老不死となって生き延び、400年ぶりに姿を現しては源平合戦や義経について語り始めたという海尊の伝説は東北地方各地に残っており、文化人類学上の研究対象としても興味は尽きないが、そのころの海尊は「裏

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静謐さの中に人間の温かみを感じさせる忘れがたい逸品。再生に向けた力強さも感じる…★劇評★【舞台=月の獣(2019)】

互いに迫害を受け逃避行を余儀なくされた果てに米国で結ばれた2人。こう書くとずいぶんと美しい話のように聞こえるが、決してそんなきれいごとで済む話ではない。失くしてしまった家族をめぐるおぞましい過去、心に受けた傷やトラウマの深刻さ、信じられる数少ないものにしか頼れない自分勝手な狭小さ、そして普通の夫婦以上に難しい絆を作るための歩み寄り方…。日本を代表する演出家の栗山民也が日本初演から4年ぶりに再び日本

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すべての穢れをその華奢な背中に背負って、純粋という名の魂に向かっていく哀しくも美しい冒険譚…。★劇評★【ミュージカル=キレイ~神様と待ち合わせした女~(2019)】

結局、自分が何者かを探し続けるのが人生というものかもしれない。それはどんな時代もどんな国でも、どんな突飛な設定でも…。特に幼いころにさらわれて10年間も監禁されていた少女にしたらなおさらだ。昔のことはほとんど忘れてしまっているのだから。そして未来であるはずの世間(ソト)というものもまるで知らないのだから。松尾スズキが主宰する劇団大人計画のシアターコクーン公演のために2000年に書き下ろしたミュージ

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朝夏まなとの天性の明るさと茶目っ気がこの上ない強い武器に。成長し続ける作品にさらなる光…★劇評★【ミュージカル=天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~(朝夏まなと・大澄賢也出演回)(2019)】

演技派として高い評価を受けていたウーピー・ゴールドバーグをさらに一段上のスターに押し上げた映画『天使にラブ・ソングを…(原題Sister Act)』を原作にミュージカル化された「天使にラブ・ソングを ~シスター・アクト~」の日本人キャスト版3度目の公演が開かれている。今回はデロリス役にスケールの大きな演技と歌が特徴の朝夏まなとを迎え、よりパワーアップ。Wキャストの森公美子とともに、まだまだこのミュ

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悲しみにさえ分け入って、さらなる感情を描き出している城田優の繊細なアプローチ…★劇評★【ミュージカル=ファントム(城田優・木下晴香・木村達成出演回)(2019)】

オペラ座の地下に潜む何者かに私たちがこんなに惹かれるのは、その何者かがダークヒーローのようにスタイリッシュだからでも、モンスターのようにおどろおどろしいからでもない。私たちはその何者かに悲しみというものの本質的で根源的な何かを見ているからだ。アンドリュー・ロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」でもその悲しみは色濃く描かれていたが、脚本家のアーサー・コピットと作曲家のモーリー・イェストンによるもうひと

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一瞬の瞬きのような祝祭的空間の歓びと深い哀しみがない交ぜになった世界観は作品を特別なものにしている…★劇評★【ミュージカル=ダンス オブ ヴァンパイア(山口祐一郎・神田沙也加・東啓介・佐藤洋介出演回)(2019)】

人間の血がなければ生きていけないヴァンパイア(吸血鬼)と、血がなければそもそも生きていけない人間。双方が共生できる世界などこの地上には存在しないが、唯一、このミュージカル「ダンス オブ ヴァンパイア」が演じられている劇場の中だけは別空間だ。ここではまるで双方を隔てる壁あるいは双方の間に広がる溝を称えるかのように、一瞬の瞬きのような祝祭的空間が繰り広げられる。そしてその底辺にどうしようもなく広がるの

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尽きることのない暴力性と純粋な魂がとぐろを巻き合いながら互いを高みへと押しやるような迫力に満ち、現代人の心に鋭い切っ先を向ける…★劇評★【舞台=カリギュラ(2019)】

小説「異邦人」や戯曲「誤解」などを生み出したアルベール・カミュの黄金期と言われる1940年代に発表されたカミュの代表作のひとつ「カリギュラ」。暴虐の限りを尽くして孤立を強める中で破滅の予感を抱きながらも、不可能なことを実現しようとする美学の中に没入していくローマ帝国皇帝カリギュラの姿を、若き演技派として注目される菅田将暉が舞台「カリギュラ」で狂おしいまでに表現している。人間の裏地のようなざらついた

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