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黒木華の情感のこもった演技と中村倫也の誠実な表現によって忘れがたく胸を打つ作品に…★劇評★【舞台=ケンジトシ(2023)】

 私は頭の中に文章が浮かんできたときにはそれを書きとめておいて、いつかそれが小説かなんかのかけらのひとつにならないかなと思ったりもしているのだが、宮沢賢治本人やその作品を題材にした戯曲を観た後は、やたらとリズミカルでなぞめいた言葉が頭の中からあふれだしてくる。「たきなそ たきなそ」、ある時飛び出してきた言葉は、呪文のようで、暗号のようで、そして祈りのようでもある。劇中にそんな言葉は出てこないのになぜだか賢治の詩的なリズムやセンスに心が痛く刺激されて、何かが生まれ、それが聞いたこともない言葉に変換されて頭の中に噴出してくるのだ。読んだ者、観た者、聴いた者にそんな作用を及ぼすのは、文章がうまいとか、言葉をたくさん知っているとかいうことよりも、賢治ならではの一つの「才能」だと思う。賢治自身が普段の生活の中で作物や生物や音楽や宇宙との唯一無二の交信手段を持っていたのではないかと思わざるを得ないような感受性によって宮沢は100年後の今も私たちの心に刺激を与え続けている。そんな賢治と賢治に勝るとも劣らないと言われる才気を持っていた「最大の理解者」妹トシの2人が遺した様々なものや、出来事、作品などの中から、劇作家の北村想がかけらやエッセンスを取り出して戯曲のかたちに組み立て直した舞台「ケンジトシ」が上演されている。控え目で献身的ながらも人間の人生の理(ことわり)を誰よりも分かっていた力強い精神を持つトシを演じた黒木華の情感のこもった演技と、迷いの中に身を悶えながらも、宇宙や自然の中から究極的な真理を見出し続けた賢治の透明な感性を表現した中村倫也の誠実な演技が胸を打つ忘れがたい作品になった。演出は共に長いキャリアを持つ中で北村と初めてのタッグを組む栗山民也。(画像は舞台「ケンジトシ」とは関係ありません。単なるイメージです)

 舞台「ケンジトシ」は、2023年2月7~28日に東京・三軒茶屋のシアタートラムで、3月3~10日に大阪市のサンケイホールブリーゼで上演される。

★序文は阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でも無料でお読みいただけます。舞台写真はブログでのみ公開いたします。

★無料のブログでの劇評は序文のみ掲載し、それ以降の続きを含む劇評の全体像はクリエイターのための作品発表型SNS「阪 清和note」で有料(300円)公開しています。なお劇評の続きには作品の魅力や前提となる設定の説明。中村倫也さん、黒木華さん、山崎一さんら俳優陣の演技に関する批評や、栗山民也さんの演出や舞台表現に対する評価、北村想さんなどの戯曲に対する評価などが掲載されています。その他、スタッフワークの評価も盛り込む可能性があります。

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★舞台「ケンジトシ」公演情報

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