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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2021年9月の記事一覧

詩)ばあや

詩)ばあや

お別れの日妙に 三日月がきれいなよる
雲がすうっと流れた気がした

じいやが 亡くなった
ばあやは そのことを知らない 

葬儀の日に 告げた
なんとしたことだべや
記憶のないばあやは呟いた
姉は泣いた

翌日 ばあやは 葬儀の写真を見ながら
おら ちゃんと お別れ出来なかった
そういったが 笑っていた

そうだ じいやも きっと
笑ってる

秋刀魚盛岡の実家から大船渡の秋刀魚が送られてきた
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詩)今日は特別のダンスを

詩)今日は特別のダンスを

ねえあなた 
今日は ダンスを踊りましょう

そうだね
エナメルの靴を履いて 出かけよう

ねえあなた 覚えてる?
訳もわからずデートで入ったお店のこと
メニューが全部フランス語で

もちろん
覚えてるとも よくあんな格好で入れたよ
もう あの店 ないけれど

ねえあなた
あなたは先に死んだ方がいいわ

そうだね きっとそうなるよ

ねえあなた
あなたがボケて わたしの顔がわからなくなって
わたし

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詩)手のひら

詩)手のひら

手のひら。
銃床の表面に当てられた手のひらの内側に滲む汗
闇 烏が一羽左へ その時 フラッシュと激しい音
硝煙の匂い 無人機の照準が狙うターゲットが

手のひら。 
おい まだ熱は下がらないのかな 氷枕 変えたほうがいいよ のぞき込まれ 顔が近寄って来る ワイシャツの匂いは

手のひら。
おでこに当てられた肉厚な手と消毒液の匂い 往診の鞄 扁桃腺が赤いですね。風邪でしょう。あの日の手のひら ひんや

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詩)無邪気と月夜

詩)無邪気と月夜

風景に従い

風は身体を通り

音が芒を揺する

童女は

白の衣で

無邪気に

身を解く

今夜は

どこかに

身を隠し

風に晒され

あゝ

心だけ

風に乗って

もう会えない人へ

月夜の

今夜は

美味い酒を

少し

詩)井出くん

詩)井出くん

あの頃の記憶
いまでも昨日のように

京都の大学で井出くんは僕と同じ朝日新聞奨学生だった。新聞を配って学費を払う。「毛細血管」だと説明された 大学に行くという夢と朝夕の配達の現実の落差ほすぐに身体にきた。正直、辛かった。
井出くんとはゼミも一緒。授業にあまり集中出来ないのも一緒
なんせ、眠かった。免許を早々にとり、バイクで大学へ。ゼミをこなし、大教室の授業では寝ていた。

僕の店は西大路七条 井出

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詩)昔の歌 一瞬の邂逅

詩)昔の歌 一瞬の邂逅

少し以前の歌が流れる
小さな傘 ブランデーグラス 忘れられない人 そんなフレーズ
優しい声に夢が沈んでいる。ああ。

頭を振り かしげ
外をみる。
短い詩を書く 短い人生のように
なにもない外
まっくらをみつめ
眼をとじる
これが
生きることか

晴れていたのにポッツポッツと雨。
なにごとも黙っているのがいい
降りしきるものがあるから。この冷たい雨。
雨がやんだら
さっさと出ていくのさ

土曜日の

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詩)美酒礼讃 岐阜津島屋 純米吟醸ひやおろし

詩)美酒礼讃 岐阜津島屋 純米吟醸ひやおろし

母に「耳までまっ赤だね」と言われる
ああ 溺れてしまった パイナップル系の香りということになっているが
その香はまるで濃厚な膣の襞の内側から
仄かに一瞬だけ現れる女神
濃いのだ。

普通ではないのだ。
岐阜県美濃加茂市 江戸時代宿場町 白粉が飛び交う
そこに殴りこんだ津島から流れついた逸れもの。
何を作れば儲かるか

最初は女向けの団子屋をひらく。
細々と店は続く
明治が始まったが こんな田舎では

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詩)親父の命日《ルビ付》

詩)親父の命日《ルビ付》

兜を被り 新聞紙の刀
弟と二人で斬将八落ごっこ
親父が写真で追いかける
僕らはそれこそ ふりちんで燥ぐ

凧揚げといえば 糊で長い脚をつけ
親父が走って手を放す
ふらふらと凧はさ迷い
とんとんと 角を引きずりあらら 糸こん絡がる
親父 糸解す
またやり直し

少し大きくなって 自転車に乗る為
親父は補助輪を外し 後ろで押さえてるからな
そう言って手を離した
蹌踉 八の字を描いて ばたんと空に舞い

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