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詩)美酒礼讃 岐阜津島屋 純米吟醸ひやおろし


母に「耳までまっ赤だね」と言われる
ああ 溺れてしまった パイナップル系の香りということになっているが
その香はまるで濃厚な膣の襞の内側から
仄かに一瞬だけ現れる女神
濃いのだ。

普通ではないのだ。
岐阜県美濃加茂市 江戸時代宿場町 白粉が飛び交う
そこに殴りこんだ津島から流れついた逸れもの。
何を作れば儲かるか

最初は女向けの団子屋をひらく。
細々と店は続く
明治が始まったが こんな田舎では明治とはなにかも伝わっていない
だが。そこで津島屋のある男。一念発起した。

我は今こそ起つ
女房の反対 お得意も跳ね飛ばし
杜氏修行にいた。女房はついていけぬと出ていく。
男は26年杜として務めた。

明治26年
日本人という意味を持つ「御代桜」《みだいざくら》を立ち上げる
知る人ぞ知る酒として岐阜という日本酒不毛の地で一本の桜が咲いた
しかし。時代は変わる
美濃加茂市長となった酒蔵は政治の為に酒をダメにした
だれも御代桜を振り向かず
洒蔵は、ほぼ死滅しかけた。

2012年29歳の若さで蔵を継いだ6代目博栄は「飲む人を笑顔する酒でありたい」と長野県産の美山錦55%精米の純米吟醸を「津島屋」として醸造。飲んだ瞬間の濃い味わい。数種類の複雑な風味が舌の上で転がる、柑橘系の香り、口いっぱいに広がる甘みと上品なフルーツの味わい。

江戸時代 野心に燃えて津島から移り住んだ先代の魂は
この「津島屋」で蘇ったのである。

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