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お別れの日

妙に 三日月がきれいなよる
雲がすうっと流れた気がした

じいやが 亡くなった
ばあやは そのことを知らない 

葬儀の日に 告げた
なんとしたことだべや
記憶のないばあやは呟いた
姉は泣いた

翌日 ばあやは 葬儀の写真を見ながら
おら ちゃんと お別れ出来なかった
そういったが 笑っていた

そうだ じいやも きっと
笑ってる


秋刀魚

盛岡の実家から大船渡の秋刀魚が送られてきた
20尾の冷凍パック 保冷箱を開けると
塊になった秋刀魚たちが網からはみ出す勢いそのままに
ひしめき合っている 美味そうだ

ばあやが元気なころは「もしもしーー!秋刀魚送ったから」
と必ず電話があった。「秋刀魚より送料のほうが高いわ」と
言いながら大船渡漁港自慢の秋刀魚を送ってくれた。

2011年3月11日 その時までは。

ばあやが電話に出た「もしもーし。げんきのげんさんですよ!
秋刀魚美味しくいただきました。美味しかったですよ!
元気ビンビンですよ!ビンビン!」
電話口の向こうでばあやは笑い転げる
電話がぷつんと切れる。
また電話をかけなおす。「もしもーし。げんきのげんさんですよ!秋刀魚美味しかったですよ!元気ビンビンですよビンビン!」
同じ会話 さっきの会話をもう忘れているばあやは「ビンビンかあ!」と
やっぱり笑い転げている
秋刀魚のおかげだ。
ありがとう。


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