記事一覧
木と石、そして死と共に歩くこと -『君たちはどう生きるか』覚え書き-
宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』が公開されてから約二週間が経過した。SNSやレビューサイトを覗くと、その物語は「難解」「カオス」と評され、そして宮崎駿監督の人生、あるいはセルフオマージュや元ネタを通して作品の考察が飛び交っている。
あるいはマヒト/大叔父/アオサギetc…。作中人物のいったい誰が宮崎監督本人であり、鈴木敏夫プロデューサーであり、はたまた高畑勲監督なのかという正体当てゲー
People In The Boxの『Camera Obscura』のドッペルゲンガー的仕掛けについての覚え書き
■はじめに
People In The Boxの新アルバム『Camera Obscura』が5月10日にリリースされた。
一聴した感想としてはバンドが長年研ぎ澄まして来たポストロックのサウンドを再解釈/再構成しながら同時に大文字の「ポップミュージック」としても聴くことのできる、複雑とシンプルさの両面を兼ね備えた傑作だと感じた。
ただし、今回触れたいのはアルバムそのものについてではない。
アルバム
ヒップホップが目覚める時、そこにはジャズが鳴っていた -アーマッド・ジャマルとDJ Premier、Pete Rock、J Dillaを巡って-
■はじめに
偉大なピアニストが鳴らす音は、永遠に解明されない謎のように聴く者を惹きつける。2023年4月16日マサチューセッツの自宅にて、92歳でこの世を去ったジャズ・ピアニストのアーマッド・ジャマルの遺した数々の謎はひときわ美しいものばかりだった。
アーマッド・ジャマルについて話す時、そこには大きく2つのバージョンがある。1つはジャズピアノの探究者として、もうひとつはジャズ・ヒップホップのグ
AI生成画像の著作権をめぐる議論 - 「夜明けのザーリャ」を米国著作権局はどのように解釈したのか-
はじめに
2023年2月21日、米国著作権局(以下USCO)はAI生成によって作られたコミック『夜明けのザーリャ』の著作権申請について、AI生成部分の画像の著作権を認可しないという結論を出した。
クリス・カシタノヴァ氏による「夜明けのザーリャ」は18ページからなる、ザーリャと呼ばれる若い女性が主人公のコミックブックだ。
この作品の特異な点はイラストの製作過程にある。作品のイラスト部分に関しては、
2022年に発表されたミュージック・ビデオを振り返る -国内外面白かったMV10選-
はじめに
さて、前置きが長くなったが、一言で言えばMVという文化について今年考えたことを書き残しておこうと思っただけである。
そこでまずは2022年に起きたMVの大枠のトレンドをまとめ、その後に今年発表されたMVを10本ほど具体的に紹介していくことにしたい。
AI技術と変形画面サイズ
2022年の映像トレンドとしてまず外せないのがAI技術の台頭だろう。
OpenAI社が今年7月に画像生成AI
機械仕掛けの想像力 -AIを使用したイラスト制作方法、それからソラリスの海について-
はじめに
1961年、スタニスワフ・レムは著書『ソラリスの陽のもとに』において自律した知能を持つ海で満ちた惑星、ソラリスを描いた。
ソラリスの海は奇妙な性質を持ち、ひとたび人間が近づくと対象の記憶/トラウマを元に、精巧なコピー人間である「客」に変容する。惑星を探査する研究員たちは自らの大切な人の姿を模した「客」との邂逅に心を乱され、時に拒絶し、そして時に愛を向ける。
しかし、これは単なる空想世界
「The Heart Part 5」についての覚え書き -塗り重ねられた顔たち-
■はじめに
ケンドリック・ラマーの新曲、「The Heart Part 5」が5/9に発表された。
個人名義のシングルとしては数年振りのリリースであり、マーヴィン・ゲイの「I Want you」をサンプリングしたソウルフルな楽曲や、DeepFakeの技術を使用しケンドリックが故ニプシー・ハッスルやO・J・シンプソンなど様々な黒人男性に顔を変化させるPVが話題を呼んでいる。
今回の楽曲については
2021年気になった曲の振り返り
はじめに
今年聞いた音楽はジャンル越境的なものが多く、「情報過多」にすることで生まれる爆発力を感じる楽曲が多かったような気がする。
その中から10曲、特に気になった楽曲を備忘録がわりに振り替えろうと思う。
また、あくまで今年聴いたというだけで、発表年自体は全然違う年の曲も入っていたりするので、あまり今年度ベスト的なものにはなっていないこと、そして順番には特に意味は無いことだけ追記しておく。
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てつなつさんの漫画について好きな部分をしゃべる
僕の好きな漫画家に「てつなつ」さんという人がいる。今年の7月ごろに下記の漫画を読んでハマった。
イラストの雰囲気とか淡々としたリズム感など好きな箇所はたくさんあるのだけれど、最も自分に刺さったのはこの人の漫画のテーマであることに最近気づいた。
自分が特に好きだったのがこの「殺人事件まんが」という作品だ。
五年前に父親を癌で亡くした男が主人公なのだが、彼は物語の前半でとにかく人の死というものに
大丈夫音楽-Blue Back Material感想
大丈夫音楽の新EP、Blue Back Materialの配信が開始された。以前までの大丈夫音楽のメンバーであるドクマンジュさん、あらいぐまMCさんにトランペット奏者のTRIPPYさんを加えた3人体制での初のEPになる。
早速試聴してみたのだが、これは2020年の日本語ヒップホップの名盤だとストレートに感じる作品だった。
さて、日本語ヒップホップの名盤であることは間違いないと強く思うのだが、B
Nujabesについての個人的メモ
NujabesがLo-Fi Hip-Hopの始祖としてカリスマ的な評価を世界的に受けている。
もちろんNujabesの音楽はかつてより評価が高かったが、2020年という時代にこんなにもNujabesの存在感が増してくるとは思わなかった。10周忌に渋谷の交差点でNujabesの映像ジャックが行われ、舐達麻が歌詞に引用し、そして海外音楽メディアの大手で有るGeniusが彼の特集を行う。こうやって一