てつなつさんの漫画について好きな部分をしゃべる

僕の好きな漫画家に「てつなつ」さんという人がいる。今年の7月ごろに下記の漫画を読んでハマった。

イラストの雰囲気とか淡々としたリズム感など好きな箇所はたくさんあるのだけれど、最も自分に刺さったのはこの人の漫画のテーマであることに最近気づいた。

自分が特に好きだったのがこの「殺人事件まんが」という作品だ。

五年前に父親を癌で亡くした男が主人公なのだが、彼は物語の前半でとにかく人の死というものについてあっけらかんとした態度をとり続ける。それはちょっと言ってみればサイコパス気味ですらあるのだが、父親の闘病生活を間近で見続けてきた彼にとっては、死は「そういうもの」でしかないように描かれている。

しかし物語の終盤で自身の父親の死について軽いノリで主人公が彼の友達に話すシーンが登場する。そこで主人公のノリに軽く驚いた友達が「まぁ人それぞれか」と流すも、続け様に「でもその話私以外にはそのテンションですんのやめた方がいいよ」と呟くのだ。

そこで彼は初めて父親の死を悲しみ始める。と言うよりもそこでようやく「自分は父親が死んだ時、悲しんで良かったのだ」ということを知ったように見える。

ここで凄いな、と思うのは感情というものは最もプリミティブなものであるように見えて、実は後天的に学習する技術のように描かれていることだった。そしてこの「感情を学ぶ」という行為がてつなつさんの他の漫画にも通ずるテーマのように(誠に勝手ながら)感じた。

多分こういう経験って自分も含め割とどんな人にもあるように思っていて、結局それは人間誰しも人生1回目である以上その時々で正しい感情をいちいち割り当てることなんて不可能だからだ。しかしその感情を見過ごしていたとしても、人生のある時答え合わせのような瞬間が訪れたり(訪れなかったり)する。

そう思うとてつなつさんの漫画の独特の淡白さやクールさも、どちらかというと登場人物が「大人っぽい」のではなく「子供っぽい」ことが原因なのかもな、と感じる。登場人物全員が全員、感情をうまく答えることが出来ている訳ではなく、なんとなく空欄のまま提出したりあと一歩な答えを出したりしたままお話がすすんでいく。

この「才能と自由まんが」というお話は、そうした感情の落としどころを迷う人のコメディとしてとても好きだ。

読んでもらえばわかるのだが、このお話は天才作家朝倉ハジメを軸にした、「才能」というものへの非常に興味深い思考実験のようになっている。しかし同時に朝倉ハジメというキャラクターの心情だけを引き出して考えると、どこか落とし所を探したまま漂っているようなむず痒さがある。担当編集の浅井ナミは凡人のように描かれるが、その実ここぞというところでちゃんと自身の気持ちに正直になる術を知っている。だからなのか、このお話は本筋としての続き以外に、浅井ナミと出会った朝倉ハジメの感情面での「続き」があるように感じる。

そう考えるとてつなつさんの漫画には、小説やらイラストの天才など、いわゆる外的に機能する才能と、自身の感情を正しく形容出来る内的に機能する才能の二種類が両軸となって登場することが多い。お話の筋書きとしては外的な才能についての物語であることが多いのだが、しかしそれ以上に内的な「正直な感情を形容できる」才能のある人間が物語の根源的なエネルギーとして機能する。

「3人でゲーム作るまんが」は、そういう正しい感情の見つけ方についての一つの形だろう。この漫画は最初に貼った「2人でゲーム作るまんが」の続編的立ち位置をとっている。


ここで天才イラストレーターの神崎チヒロが新キャラクターとして登場するのだが、彼女を引っ張ってきた本間カナメは彼女の才能自体には本質的には反応していないことが面白い。

話が前後してしまうのだが、「2人でゲーム作るまんが」で一番アツいシーンは密かに作曲をしていた脇坂ミノリが本間カナメに自分の曲を聴かせるシーンにあると思う。

今まで自分たちのゲームの音楽担当をしていた本間カナメはそこから脇坂ミノリに担当を変え、そして会社を辞めて自主制作ゲームを本格的に力をいれる決意をするのだが、ここで彼女にとって何より重要なことは脇坂ミノリの音楽の才能そのものよりも「曲を聴かせたい」という気持ちに素直になった事実なのだと僕は感じた。

何故なら「正直な気持ち」というのは周囲の形の無い期待や評価、もっといえば「人生こんなもんだ」というクールぶった思い込みをぶち壊す唯一の魔法だからだ。それは前述の父親の死に対して、「こういうものだ」と覚悟していたから泣けなかった男が、正直な感情を知ったことで泣く瞬間にも通ずる。

「3人でゲームつくるまんが」も、最高のデザインを神崎チヒロが作り上げることは非常に重要なのだが、それ以上に「こんなもんだ」をぶち壊す正直な自分の感情にこそ信じるものはあるのだろう。だが、その正直さというのは先天的に表明することができる才能がある人はいるものの、多くの人にとっては後天的に、技術が必要なものなのだろう。その自身に正直になれるまでのもがきについてのお話が「3人でゲームつくるまんが」なのだろうと感じた。

他にも「本読みシリーズ」や「芸人のおじさんとわたしまんが」など面白いお話はたくさんあるのだがいったん文章を終了しようと思う。余談だけれどてつなつさんに絵が似ていると言われているG=ヒコロウ先生の『みんなはどぅ?』を読み返したら本能のままに生きているキャラクターしか出てこなくて笑った。終わりです。





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