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【組織開発・戦略人事のプロが徹底解説!】 ビジネスにおけるコーチングの魅力とは? ~【後編】実践編~


~【前編】基礎編~ では、「コーチングとは何か?」の全体像の理解を深めていきました。


今回の ~【後編】実践編~ では、『ICF(国際コーチング連盟)認定資格』の知見と、17年半のグローバル企業における 『経営戦略に紐付く戦略人事と組織開発』の経験から、より実践的に、以下の内容でまとめました。

さらに、『コーチング』への理解と関心を一緒に高めていきましょう!



1. コーチングにおけるコーチの役割

『コーチング』において、コーチは、相手に、「気づきを得るきっかけ」や「行動するきっかけ」を与える役割を果たします。コーチは、教師やメンターといった指導役や育成担当、答えやヒント・経験談などを積極的に提供する立場ではなく、「伴走者」の役割に徹することが重要です。よって、コーチとコーチングを受ける相手は、上下関係や先輩後輩といった関係性ではなく、常に対等な立場にあるのです。あくまでも、相手が自発的に行動できるように支援するのが、本来のコーチの役割なのです。
 
コーチは、相手の思考や価値観、時には、表に見えない感情などに焦点を当て、何が相手の目指す姿やゴール達成の障害になっているかを明らかにしていく役割も持ちます
 
コーチの役割において常に心掛けておくことが好ましい視点は、”常に相手の傍らにいるということをイメージさせる” ことです。相手は、自身の考えを話すことによって、『自分の中にある答え』に気づくのです。それを導き支援するために、コーチは、積極的に相手の話に耳を傾け、答えをまとめやすくするのに役立つ効果的な質問をします。この『傾聴』と『効果的な質問』の繰り返しにより醸成される『対話』こそが、コーチに求められる役割と行動と言えるでしょう
 
さらには、相手が自分自身では気づかない視点がたくさんあることに気づかせたりしながら、相手のやる気や動機を対話によって引き出すことも大切です。そのためには、相手を認めて受け入れ、時には称賛することも、コーチの役割のひとつとして必要不可欠だと思います。


2. コーチに求められる適正とスキル

「コーチの役割」を理解したところで、今度は、コーチにはどんな適正やスキルが求められるかも見ていきましょう。
 
コーチに求められる主な共通スキルは、
『傾聴・質問・承認』の3つと言えるでしょう。

 
『傾聴』とは、相手の話に耳を傾けてよく聞くことを指しますが、話の途中で、評価や否定をせずに相手の話を聞くことが重要となります。コーチングでは、「あなたの話に集中しています」という態度を示すために、相槌を打ちながら聞くことも効果的です。
 
相手の話を一通り聞いたら、効果的な『質問』を投げかけます。『質問』を通して、相手は思考を探求させ、それを通して気づきを与えるのがコーチングの基本です。
 
『質問』の具体的事例としては、中学英語で良く出てくる『5W1H(When・Where・Who・What・Why・How)』を思い出してみましょう。これらは、『オープンクエスチョン』と言い、『Yes / Noで完結するクローズドクエスチョン』と異なり、相手の引き出しを増やしながら具体的に話を導くうえで、コーチングにおける『質問』で有効なのです。
 
ただ、『5W1Hを使ったオープンクエスチョン』において、1点気に留めておいていただきたいことがあります。それは『Why(なぜ?なんで?)』という『質問』だけは、私の経験上にはなりますが、極力避けた方が無難だということです。なぜなら、状況によっては、コーチに「問い詰められている」という感覚を覚え、正直にオープンに話すことを心理的に躊躇させるリスクが伴うからです。「相手がその行動を取る背景・理由」を知りたい場合は、『Why(なぜ?なんで?)』を、例えば、「その行動に至った背景を教えてもらえますか?誰からアドバイスをもらいましたか?」といったように、『思考を広げやすい質問』に置き換えてみると良いでしょう。
 
また、ここで皆さんに、案外知られていないかもしれない効果的な『質問』のひとつを伝授したいと思います! 

それは、『Silence(沈黙)』です。

「え?どういうこと… ?黙っていたら質問にはならないじゃないの?」と思われる方がきっといらっしゃることでしょう。いえ、違います!

コーチが何か具体的質問を続けていると、相手は、自身の頭の中で思考をぐるぐる巡らせる、いわゆる『リフレクション(振り返りや内省)』をしていることが多いのです。それは、コーチングの『質問』が効果的に生かされている証と言えるでしょう。この状態にコーチは繊細に察知をして、相手が何かを話し始めるまで『Silence(沈黙)』を心掛けることが非常に重要なのです。相手が話しやすくなるような空気感を創りながら、何かを発するまで忍耐強く待つことが大事なのです。ただ、それでもなかなか何も出てこないときは、優しく「今この瞬間に頭に浮かんでいる映像を、何でもいいので、言葉にしてもらえますか?」といったような『代替の質問』を投げかけてみると良いでしょう。

こうして、『傾聴』⇒『質問(時に『沈黙(という質問)』) ⇒『傾聴』というように、コーチングにおいては、『傾聴』と『質問』が繰り返されていくのです。

そして、その繰り返される『対話』のなかで、「相手そのもの」や「相手の思考」、時には「感情」を『承認』します達成した成果だけでなく、そのプロセスにも焦点を当て、失敗や努力を認めるなど、勇気づけるメッセージを送ることでの動機付けをするのです。

<ご参考までに…>
『傾聴・質問・承認
』を実行するために、コーチに必要な適正や素養として、私は、
『相手の話をくまなくよく聞く、"忍耐力と精神の安定性"』
・『相手の存在、相手が話すこと、相手の感情などを否定しない、多様性の尊重と受容にもつながる "適応力と柔軟性"』
・『信頼され、心理的安全性ある風土を醸成できる、包容力にもつながる "謙虚さと許容性"』
などをよく挙げます。


3. 実践に必要な準備と実施方法

コーチングの大枠を理解したところで、ここからは、実際の現場で『コーチング』を実践するためのヒントや事例に触れていきます。
 
コーチングを実施する際に必要な準備や実施方法について、基礎的な5つのプロセスを見ていきます。
 
① 事前準備
コーチングを始めるにあたっての準備として、なぜ相手はコーチングを受けたいのか?(もしくは、なぜ受ける必要があるのか?)、相手は何を達成したいのか? を明確にする必要があります。

また、コーチングに「最適な環境」を築くことも大切です。考慮や配慮すべきことの代表的なこととして、プライバシーが守られる環境か?、対面実施の場合は圧迫感のない個室を手配するのか?、ホテルのラウンジなどで実施するのか? など、相手の立場やニーズを把握しながら、対話が、最適な方法で円滑に進むよう検討してみましょう。
 
② 懸念点の整理
コーチング実施後に起こり得る可能性がある懸念点についても、想定しておくことが好ましいです。懸念点を事前に整理していると、双方向に安心してコーチングに臨める機会創出につながります。万が一、実施中に問題が起きたとしても、冷静かつ適切に対処でき、コーチへの安心感と信頼感にもつながるでしょう。
 
実際のコーチング実施中に起こり得る問題を参考にあげておきます。
・上司や部下という立場のままでコーチングを行うと、対等な立場になれない、信頼関係をうまく構築できない可能性があります
・コーチのフィードバックに相手が落ち込み、口を閉ざしてしまい、継続が困難になるケースもあります
・オンラインでの実施の場合、音声不通などの回線トラブルに備えた、バックアップ体制とその事前の共有があることが好ましいです
 
初めの2点は、実際の上司部下の関係で起こり得る実例のため、コーチングを実施する前に、対等な立場で信頼関係を築けるよう、日ごろから指示や指導といった一方的なコミュニケーションに終始しないよう気を付けてみるのもお勧めです。
 
③ プランニング
両者で、どのような進め方や方法が適切かを話し合い、そのプランに基づき、コーチングの実施頻度や好ましい時間帯・手段などの方向性を決めておくと良いでしょう。
 
④ 実施
コーチングを実施する際には、対等でオープンな関係性であることを再度思い出したうえで進めましょう。『傾聴・質問・承認』の基本3つのステップとスキルを活用しながら、その場に応じた適切な対話を心掛けましょう。
 
⑤ フィードバック
コーチングでは、傾聴と質問だけに終始せず、今のこの瞬間を大切にし、タイムリーに透明性あるフィードバックを提供することが、相手の気づきと前進の鍵にもなります。
 
前回のコーチングを受けて実際に取ったアクションを聞き、それにより何が起こったかまで具体的に聞いていきましょう。その上で、対話を通して、次に取る行動を促していくことが、有効なフィードバックにつながります。 

4. 実践におけるタイプ別の参照

ここでは、コーチングを受ける側のタイプにはどのようなものがあるかを、参考程度に見ていきます。人それぞれに価値観や考え方が異なり、すべての人に同じ手法を用いても思った効果が得られないことから、コーチングでは、【前編】で触れたように、原則のひとつとして、『個別対応(テーラーメイド)』が求められます。
 
相手のコミュニケーションのタイプを次の4つのうちのどれに当てはまるのかを見極めて、そのうえで、個に向き合って個別対応を心掛けて接すると、有効になることがあります。
 
① コントローラー
人や物事を支配する、思った通りに物事を進めたがる、野心的かつ能動的、といった傾向
⇒ 結論から話し、質問をしすぎないように接すると効果的

② プロモーター
アイデアを尊重する、物事を仕切るのが好きで変化に強い、順応性が高い、といった傾向
⇒ やり方を押し付けたり、否定的なアプローチをしたりすることは避けましょう。質問でアイデアを引き出すと、モチベーションが高まる傾向にあるので意識してみましょう

③ サポーター
協調性を重んじる、穏やかな性格だが決断力に欠ける、目標を立てることに関心がない、といった傾向
⇒ 相手が話している際には、発している言葉以外の情報に注視し、肯定的なメッセージを送ってから質問をするなどの配慮があれば良い

④ アナライザー
物事を始める前にデータ収集と分析を行う、粘り強く最後までやり遂げる、変化に弱く失敗を恐れる傾向にある傾向
 ⇒ 質問は具体的にするよう努め、なるべく多くの情報を与えたり引き出していくと効果的

 
上記4つのタイプ例は、『傾聴・質問・承認』の3つのプロセスのなかで、双方向の対話の枠を広げるために有効な対応であるといった「傾向」の参照程度で活用すると良いでしょう。頭ごなしにバイアスに囚われることもいけませんので、基本は、あくまで個に向き合い、『個の特性』を理解することが大事です。


5. 実践で活かせる『GROWモデル』

最後に、コーチングの対話の進め方で活かせる『GROWモデル』を紹介して、【前編~後編】のこのビジネスブログを締めることにいたします。
 
GROWモデル』とは、以下の4つの頭文字を取って、相手の目指すゴール達成に導くためのアプローチとして、シンプルでありながら、非常に有効で最もメジャーなもののひとつですので、覚えておいて損はないはずです。

① G:Goal(ゴール)
実現したい理想の状態を描いてもらいます。そのために、相手の理想や、達成したいゴールが明確になる具体的質問をしていきます。

②  R:Reality(リアリティ)
現状の把握をして頭の中で整理をしてもらいます。そのために、相手に現状を自覚させる具体的質問をしていきます。

③ O:Options(オプションズ)
①と②の間にあるギャップに対して、行動の選択肢を洗い出してもらいます。そのために、①と②を再度相手に整理して言語化してもらい、その上で、できるだけ多くの選択肢を自由に発想できる具体的質問をしていきます。

④ W:Will(ウィル)
③で挙げた選択肢の中から自ら選択して、実行を決断することをしてもらいます。そのために、ゴール達成までのプロセスを明確にして、相手の決意を確認するための具体的質問をしていきます。
 

では、その『GROWモデル』の具体的イメージをつけるために、それぞれにおける質問例を幾つか挙げてみます。
 
①  まずは、『G:Goal(ゴール)』
「本年中に達成したいことは何ですか?」
「今、自分にとって重要なことは何ですか?」
「3年後のキャリアを想像したときに、自分はどの様な立ち位置で、どの様な役割を担っていたいですか?」
「このコーチングセッションの1時間の中で何を達成したいですか?」

など、その時のコーチングで双方向に合意した方向性やテーマに応じて、ゴールイメージをつけるための『質問』を具体的にできるだけ多くしていきましょう。
 
②  次に、『R:Reality(リアリティ)』
「そのゴールに対して、現在はどのような状況ですか? スコア10とした場合、今の自身の立ち位置は、どのスコア地点ですか?」
「今までに具体的に何を試しましたか?」
「あなたのその行動に対して、周りからは具体的に誰からどの様な意見やフィードバックがありましたか?」
「その目指すキャリアに対して、最近取り組んでいることは何かありますか?」
「その行動を取った際の自身の判断は何に基づくのですか?」

など、特に①で双方すり合わせをした『G:Goal(ゴール)』に対して、相手の今の立ち位置や感情などについて、具体的に明らかにしていくことが重要です。
 
③ 続いて、『O:Options(オプションズ)』
「それに対して、どのようなアクションの可能性がありますか?」
「仮にそのアクションが上手く進まない際には、そのアプローチの代替案はありますか?」
「今の状態を変えるために自身で何ができますか?」
「その中で、どの選択肢を取ることが今の自身にとっては最善だと思いますか?」
「そのキャリアに近づくために、必要な支援で思いつくことは具体的に何でしょうか?」

など、①ですり合わせた『G:Goal(ゴール)』と、②『R:Reality(リアリティ)』で明らかになった現状の間にあるギャップを埋めるために、どの様な「選択肢や可能性」があるかを、効果的に『質問』していくことで、相手に模索してもらうことが鍵になってきます。
 
④ 最後に、『W:Will(ウィル)』
「ネクストステップは何ですか?」
「実際にいつそれを行いますか?」
「それを進めるにあたって障害になる可能性のあるものは何ですか?そのために、何が必要になり、自身では何をしましょうか?」
「そのキャリアを目指すために、具体的に、いつからどの様な自己啓発を始めるのですか?」
「そのアクションに対して、1 -10 でスコア付けするとすれば、どれくらいコミットし、やる気になっていますか?」

など、③『O:Options(オプションズ)』で探求し発見できた選択肢や可能性に対して、具体的なアクションにつながるために、相手の意志をしっかり確認していくことが大事なのです。そのうえで、相手の前進を後押しする『承認』や『称賛』を心掛けてみましょう!

 
この様にして、『GROWモデル』を活用したコーチングを実践することで、主には、『相手の主体性の引き出し』、『漠然とした目標から、具体的行動へと進展』、『相手のモチベーションの向上』などが期待効果として見える可能性が高まることでしょう。
 
その上で、配慮・注意すべき点は、自分の考えを押し付けたり、誘導したりするのは厳禁だということです。『GROWモデル』でポイントとなる点のひとつが、相手に『自己決定感』を自ずと醸成させることです。

コーチは、相手から課題やゴール、行動計画などを引き出す役割に徹し、全体の対話のうち、平均して6~8割くらいは相手が話している状態にしていることが好ましいと思います。そのためにも、前に触れた『傾聴・質問・承認』の3つのコーチングの基礎となるスキルと行動を常に頭に留めて、実践するよう心掛けましょう!
 

6. 最後にメッセージ

このブログ全体を通して掴んでいただいた気づきやヒントを、「コーチングを提供する側の方」は、まずは気負わず実践して、相手の反応や変化を感じ取り、コーチとしての喜びややりがい、時には難しさなどを体感していくことが、きっとコーチとしての成長にもつながる鍵になることでしょう。

また、「コーチングを受ける側の方」は、コーチングの全体像を理解したうえでコーチングに臨むことで、自身の受容性の向上、つまり、思考を探求させ、内省し、コーチに自己開示していく可能性を高めることにつながっていくことでしょう。それはつまり、自己成長と自己実現への大きなステップであり、近道だと私は思います。

『コーチング』を通して、提供する側・受ける側双方が、ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的幸福度)を高めることにつながれば、非常に素晴らしいことだと思います!


<おまけ>
私が、日々、エグゼクティブ・コーチング、リーダーシップ・コーチング、ビジネス・コーチング、ライフ・コーチング、キャリア・コーチングなど、相手の立場やニーズに合わせた『伴走型でのコーチング』で意識している「対話での向き合い方」と「対話で醸成する組織風土モデル」として、4つの観点を、以下、ご参考程度に共有させていただきます。

株式会社EpoChが大切にする「対話での向き合い方」と「組織風土モデル」


株式会社EpoChでは、"経営視点での戦略立案” と "実務推進” 双方が伴う、伴走型での組織開発・戦略人事・経営者と組織リーダーへのコーチングのご支援と提供をしています。

①【組織のパートナー】組織開発アドバイザリー
経営戦略に連動した最適な組織戦略の立案と導入におけるお悩みを、長年の事業会社での実務とリーダーシップ双方の経験を生かして、組織の中に入り伴走解決いたします。
⇒ <直近実例> エンゲージメント向上施策全体の支援 / 組織のパーパスと個人のWillの紐付けの施策推進 / サクセッションプラン導入から後継者人財特定と育成の推進 / 社内メンタリング・プログラムの構築と導入 / 評価制度改定の推進 etc.

②【人事のパートナー】戦略人事・CHROパートナー
東証プライム市場上場企業CHROと外資系企業HRの豊富な経験から、経営視点と実務推進双方が伴う戦略人事・CHRO代行、HRメンター、人的資本に関する顧問・社外取締役などを承ります。
⇒ <直近実例> CHROを目指す方への1on1メンター / 大手日系企業で人的資本経営に繋がる戦略人事立案と実行を推進 / 中小企業とスタートアップ企業でCHRO機能として週に数日間実働 etc.

③【個のパートナー】コーチング
より一層人間性豊かで優れたリーダーとして周囲に肯定的な影響を及ぼすよう、事業会社での豊富な組織リーダー経験と国際コーチング認定の知見から伴走いたします。
⇒ <直近実例> 外資系企業の幹部候補の方へのリーダーシップコーチ / 大手日系企業の本部長・部長へのエグゼクティブコーチ / スタートアップ若手経営者への伴走型ビジネスコーチ etc.

ご質問やご依頼のある方は、当社website内の「Contact」ページより、是非ともお気軽にお問い合わせください!

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外資系17年(HRトップ 7年)とプライム市場上場企業 Global CHRO(最高人事責任者)経験の私が「誰もが独自性を強みとして持ち、新しい無限の可能性を秘めている」を自身のコーチング哲学に、2023年3月 起業をしました。サポートくださる方々と一緒に日本を元気にしたいです!