短編小説集(創作)

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記事

次に雨が降ったら

「濡れるのきらい?」

 そう聞かれたのは、軒のないラーメン屋の前で、席が空くのを待っているときだ。彼は傘を差しているようで、私に言わせたらちっとも差していない。傘の中棒を無造作に右肩にかけているだけで、もう片方の肩には傘をよけた雨粒が容赦なく落ちている。

 私は、できるだけ濡れないように傘をまっすぐに持ち、バッグを体の前で抱えるようにして、心なしか背中を丸めて小さくなっていた。

「うんまあ、

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あなたにもよいことが訪れますように~
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「B型の人が好きなんですよ」

2年後輩の三島君は、さわやかで面白くてモテそうな青年なんだけど、入社してきたときはすでに結婚して子供も2人いた。学生結婚らしい。だから他の人たちよりずっと落ち着いて見えたし、新入社員なのに家族を養っているから、他の人みたいに自由に使えるお金がなくて、遊んでいる風もなかった。

 ほとんど一緒に働くことはなくて、というかほぼ皆無だったけど、「よくできる」といいううわさは聞いていた。ときどき、部署全体

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あなたは神ですか?
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輝きを閉じ込める

個展も3回目を迎える。文章やイラスト、音で伝える私の作品群は、なかなかひとつの場所で同時に味わうのが難しかったのだけれど、今はテクノロジーがそれを可能にしてくれる。

 プロデューサーのKは、私が何の力もなかったころ、私を見つけてくれた。作品が稚拙で、人に見せられるものでないと思っていた私に対して「他の誰も持ちえない感性がある」と言ってくれた。

「どうして隠しているの?」

「自信を持って大丈夫

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あなたにもよいことが訪れますように~
11

わたしへ

わたしは知っているよ。あなたがとても頑張っているってこと。

だけど動けない時もあって、苦しそうだなって思う。

不謹慎かもしれないけれど、そういう姿をとても愛おしく思う。

人の前では笑顔でいて、「つらいよー」って明るく言う。

そういう照れ屋なところが好きだけど、素直に泣いているあなたも好きだよ。

心はもうわかっているはず。自分がどうしたいのか。

これからやってくる未来に対して、嫌なことは

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まじで! いいの! ありがとう!
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赤いくつ、赤いばら、白いばら

いつも白と黒のものしか身につけないことにしている(理由はまた、今度)。

でも今日は少し贅沢なお店で食事をするから、いつもより少しおしゃれに見えるよう、家を出る直前に赤いパンプスに決めた。

最近は駅までの道を自転車でなく歩くようにしており(理由はまた、今度)、見た目よりずっと歩きやすいその靴で、てくてくと歩いた。

いつもの道で、ふと左を見ると、知らない人の家の柵にたくさんの小さな赤いばら。その

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まじで! いいの! ありがとう!
9

視線の交叉

お互い別のことをしているのに、
お互いが気になって、
お互いの作品がとても好きで、そこに埋もれていたいと思う。

ふたりの視線は、いつもお互いの作品を向いている。

でも、今度会うときに視線を合わせたら、
わたしたちはどんな風になるのだろう?

#今日のラブレター

また見に来てね♡
4

あなたが読んでくれるなら

その人の書く文章が好き。

たぶん、初めて読んだ時から好きだった。私も文章を書くから嫉妬しそうなものだけど、そんな気持ちは生まれなかった。

すべてを説明せず、写真のように一方向から切り取る。少しひねくれていて、ユーモアがあって、改行がなくて、リズミカル。

「いつも時間をかけずに書くようにしてるんだけど、もう少しちゃんと考えて書いてみようかな。でも、そんなの誰が読みたいんだろうか」

その人は言

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あなたの♡も押したい
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額の合図

「いま家?」
 それは、同じプロジェクトで働いている女の先輩から届いたメッセージ。俺は何の予定もない土曜日に、自宅で缶ビールを開けてソファに座り、録画したバラエティ番組を見ていた。先日合コンで知り合った女の子に連絡してみようかななんて思って、スマホを手に取ったところだった。
 メッセージの送り主は、子どもを育てながらもいつもパリッとしていて、だいたい優しくて、ときに怖い桜川さん。アラフォーだと聞い

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すごく〇しい!! ※〇には何が入るでしょう?
7

私の本棚にあるあなたの本

あなたにとっては軽い気まぐれのキスだったのかもしれないけれど、私にとってはそうじゃなかった。あの日からずっと私の心は止まったまま。
 いつか気持ちが冷めるだろうと思っていたのに、「今日も好きだった」って、毎日、負けたかのように思う。
 あの日、電車での帰り道、あなたがバッグから取り出した一冊の本が、今も私の本棚にある。私たちは同じ作家のファンで、あなたは発売したばかりの文庫本をちょうど読み終えたと

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あなたは神ですか?
8

引き裂かれる惑星に

一般文芸の恋愛プロット。出口は、小説として世に出すこと。

テーマは葛藤。不倫と、相手が女性であるという二重の葛藤。心の揺れ動きを描きたい。

人物
夏子。38歳。出版社の編集者。既婚で娘あり。論理的で理知的。アーティストに強い憧れ。

スグル。女性ジュエリーデザイナー。33歳。自分の気持ちに正直。好き嫌いがはっきりしていてタブーが少ない。

プロローグ
小6の夏休みに女の子としたキスの体験。夏子

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いいヤツ!!!
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