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2023年2月の記事一覧
チームを壊すマネジメント・人を犠牲にするマネジメントーミニ読書感想『八甲田山死の彷徨』(新田次郎さん)
新田次郎さんの『八甲田山 死の彷徨』(新潮文庫、1978年1月30日初版発行)が勉強になりました。明治35年に発生した実際の山岳事故をモチーフにしたノンフィクションに近い小説。一月、真冬の八甲田山に対ロ戦を想定した行軍訓練に臨んだ二つの隊のうち、一方はほぼ全滅し、一方は無事生還した。成否を分けたのは何か?を探求する組織論として読めますが、新田さんは生き残った方を「成功者」として描かない。それが面白
もっとみるシンパシーではなくエンパシーのための物語ーミニ読書感想『ジャクソンひとり』(安堂ホセさん)
文藝賞受賞作で、芥川賞候補作にもなった安堂ホセさん『ジャクソンひとり』(河出書房新社、2022年11月30日初版発行)が面白かったです。ブラックミックス、つまり日本においては「黒人とのハーフやクォーター」として括られる男性の物語。正直、読了しても主人公の気持ちはわからない部分が多い。これはシンパシー(共感)の物語ではなく、エンパシー(感情移入)の物語 です。
たとえば、主人公と、ブラックミックス
小説は「在るのに見えていない現実」を可視化するーミニ読書感想「文学は予言する」(鴻巣友季子さん)
翻訳家、鴻巣友季子さんの「文学は予言する」(新潮選書、2022年12月20日初版発行)が面白く、刺激的でした。タイトル通り、数々の小説が今の社会(未来)を「予言」してきたこと、なぜそのようなことが可能なのか?について、無数の作品を紐解きながら解説してくれます。特に、「ディストピア」「ウーマンフッド(シスターフッド)」「他者」という三つのキーワードを提起し、物語と現実を呼応して楽しむ方法を教えてくれ
もっとみるインサイダーよりアウトサイダーであれーミニ読書感想「新・学問のすすめ」(外山滋比古さん)
英学者、外山滋比古さんの「新・学問のすすめ」(講談社学術文庫、1984年4月10日初版発行)が知的刺激に溢れた一冊でした。もともとは1964年から雑誌で連載したエッセイをまとめたもので、もはや60年近く前に書かれたものなわけですが、まったく古びない。英米が「敵国」だった時代に英学を志した外山さんが語る「アウトサイダー論」。即物的利益に預かろうとするインサイダーではなく、アウトサイダーであれ、と呼び
もっとみる「21世紀のアルジャーノン」が突きつけるものーミニ読書感想「惑う星」(リチャード・パワーズさん)
リチャード・パワーズさんの最新長編「惑う星」(木原善彦さん訳、新潮社、2022年11月30日初版発行)は、読んだ後も心の中に残響をこだまさせる名作でした。帯の惹句にある通り、これは21世紀版の「アルジャーノンに花束を」。人間の善や生き方について問うた「アルジャーノン」に対して、本書は地球環境に対する人類の怠慢や欺瞞を突き付ける重たい物語でした。
ダニエル・キイスさんの名作「アルジャーノンに花束を