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小説

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2021年6月の記事一覧

SS『私は女子がわからない』

SS『私は女子がわからない』

「なんで無視するの? 私なんかした?」
 私がそういっても尋ねても澪はショートパンツとニーソの間の鳥肌を指先でなぞっているだけだった。
「ねえ、めっちゃ嫌なんだけど。なんかしたんなら納得するから教えてよ」
「いや別に……」
「ちょっと前まで仲良くしてたじゃん? え、仲良かったよね? なんで私だけ仲間外れにすんの? ずっと悪口言って……」
 問題は小学五年生ももう終わるという一月の終わりごろから起こ

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SS『きっといい夏になる』

SS『きっといい夏になる』

夏は少年少女が出会うにはロケーションがよすぎる。入道雲の下の川で出会っても、雨が降り続くバス停で出会っても、結局はエモーショナルで芸がない。だから私は誰も思いつかないような出会いがしたかった。

廃墟。それはそれで小説漫画でありふれた出会いなので却下だ。幽霊と恋に落ちるなんて面白みにかける。

高架下。やはりここもちょっと暗いから、人間以外のものと出会ってしまいそう。もしくはホームレスとか? それ

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SS『大阪駅の幽霊は馬鹿』

SS『大阪駅の幽霊は馬鹿』

繁華街のど真ん中で幽霊やってるやつは馬鹿なんじゃないのか?

俺はいつもそう思っていた。テレビで見る渋谷のスクランブル交差点も朝イチから誰も気づきもしないのに立っている。早く成仏したらいいのに、そうは思っても自分の意思で留まるつもりのやつらはどうすることも出来ない。

大阪駅で潤と待ち合わせ。ざっと見たところ、10人はいる。なんやかんや楽しそうで宜しい。ルクア前は待ち合わせの名所だ。きっと東京で言

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コピー集 『手紙にまつわるいくつもの1ページ』

コピー集 『手紙にまつわるいくつもの1ページ』

大学のコピーライトの授業での課題で書いたものになります。
テーマは『手紙を書こう』
ある文具の会社の広告としてやる時のキャッチコピーとボディコピーを書くものでした。

私はシリーズ展開としてショートストーリーのような広告にしたいと考えてました。

どうぞご覧下さい。

上6作が提出したものになります。
残りの2つは追加に書いたものになります。

先生の講評
「いいねぇ、全部を通してショートストーリ

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短編 夢文学のなりそこない

短編 夢文学のなりそこない

夢文学(夢を描く)を書くという課題で書いたものです。これは却下にして、全て書き直したものもあるのでまたあげます!

 私は家の中にいた。ふと、玄関に向かう。木の香りを感じることはなくなった、見慣れた廊下を歩き、一段だけの階段を下りて靴下のまま土間に降りた。ひんやりとした赤土の床が私の骨を冷やす。ライトが付いた。
ガラス戸は横開きで、鍵がかかっていた。それを開けるともう一枚ドアが現れる。網戸の役割

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SS『雨降り図書室』

SS『雨降り図書室』

中学一年生の時に書いた小説です。

静かな図書室に雨の音が響いた。
「雨、降り始めたね」
 彼女は本から目を上げた。けれど、すぐに目を本に戻した。
「今日は雨のにおいしなかったのにね」
 梅雨の図書室はカーテンが全部締め切られていた。そのせいで、外の雨の状況が分からない。
「確かにね」
 雨のにおい。誰もが感じたことがあるだろう。なんでか分からないが、今日は雨が降るなと思う。けれど、今日の雨はにお

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SS『制服は鎧』

SS『制服は鎧』

私は夜の繁華街に立っていた。セーラー服のスカートにシワが付いてるのが気になって、叩いたり伸ばしたりしてるけどいっこうに取れなくて諦めたところだった。もう半袖でいい時期が来たけれど、大きめの薄いカーディガンを羽織ってた。そうしてるのが落ち着く。

走って駅に向かうOLが転けるのを見た。笑いが込み上げてしまった自分が嫌だった。そもそも笑ってしまったのは、あの人に自分を重ねたから。だって、あんなところで

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SS『答案はトンネルの先』

SS『答案はトンネルの先』

テスト期間の電車の中は人が少なくて好きだった。いつまでたっても慣れないような青空の下、電車が進む。もう夏の気配がとんでもなくて、車両のクーラーが気持ちよかった。

夏服になったから少しだけ身軽だった。スカートも少し透ける素材で通気がいい。ブレザーも好きだったけど、やっぱりジャケットは暑かった。スカートをパタパタすることで下に履いてるズボンに溜まった熱を発散した。大丈夫、電車に他に人は乗ってない。

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SS『滑り台の文通』

SS『滑り台の文通』

公園で遊ぶのはこの世で最も幸せな事だ。長い滑り台を駆け上がり、また滑り降りる。思ったより速く進んで、ハハッと笑いがこぼれる。
滑り台の裏側には、相合傘が書かれている。ひろくんとさや。沢山の落書きの中、一つだけ気になるものがあった。

ゆうれいがいる

心がワクワクした。こういう話は大好きだった。ひらがななのが可愛くて、私はひらがなで「いるよ」と書いた。

次の日もブランコをした。地面に並行になるこ

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SS『ひまわり畑で追いかけて』

SS『ひまわり畑で追いかけて』

君を殺すのはひまわり畑がいいと思った。

だから、僕は君があの日道端に死んでいた鳥を埋めた場所に沢山ひまわりを植えた。毎年毎年、水やりをして、一際大きなひまわり畑を作っている。

今日もひまわりたちの様子を見に来た。君を殺すのは2年後だ。早く来て欲しいと思うけれど、このひまわり達はその後も咲き続けてくれるのか不安であった。僕の身長を超し、君がここに来たら見えなくなってしまうだろう。

街から外れた

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SS『新緑の海に飲まれたい』

SS『新緑の海に飲まれたい』

山は地球の背骨、その中にはきっと脊髄のような大事なものがある。

父の言葉は取るに足らないものである。地球の、なんて大袈裟な。日本の背骨ならまだしも、僕が見ているあの山なんて小骨だろう。

でも、何故か時たまその言葉がこだまする。山の中に何かがあれば僕は救われる気がした。

だから、僕は夏になった日いつも電車から見えていた山へ向かった。食べ物を持って、水筒に水を入れ、あいつは馬鹿だという言葉は仕舞

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SS『睡蓮と魚とわたし』

SS『睡蓮と魚とわたし』

母が金魚の絵を買った。展示会で出会ったその絵は確かに素敵で、色は使われていない金魚が睡蓮の葉のそばに居た。出目金と言うやつだろうか、金魚の尾は長く、背筋のヒレまで私の心をそそる。
テレビの奥の壁に掛けられたその絵はいつも通りそこにある。数日前まではなかったはずなのに、そこにあるべきものとなった。
うちには元々黒い出目金がいた。名前は鯨。8年ほど生きた鯨は、もう私たちの元にはいない。けれど、その後釜

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