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SS『私は女子がわからない』

「なんで無視するの? 私なんかした?」
 私がそういっても尋ねても澪はショートパンツとニーソの間の鳥肌を指先でなぞっているだけだった。
「ねえ、めっちゃ嫌なんだけど。なんかしたんなら納得するから教えてよ」
「いや別に……」
「ちょっと前まで仲良くしてたじゃん? え、仲良かったよね? なんで私だけ仲間外れにすんの? ずっと悪口言って……」
 問題は小学五年生ももう終わるという一月の終わりごろから起こっていた。リーダーが嫌えば全員から睨まれる。女子グループではよくあることだ。そう納得しようと思っても、その悪口の輪が広まっていくのを体感すると無視はできない。この三週間、喋ってくれる女子はいなくなっていた。
「二人きりで話し合いがしたい。先生は口を出さないで」
 担任にそういうと「別の先生に話し合いの場にはいてもらう」という妥協案が提示された。仕方ない。
 そして、現れたのは女子に嫌われていた算数の先生小島啓二だった。
 広い教室に私と澪と小島三人だけ。
 だんまりを決め込んでいる澪に必死に話しかけるのも虚しくなる。悪意にぞわぞわした。 澪の大きな目が急に潤み始めた。ポタッと一滴落ちたのをきっかけに堰を切ったようだ。
「だって……、だってぇ」
 言葉にならない言葉をこぼしている。しゃくりあげて長袖で涙を拭っていた。
「ほら、泣いたんだから許してあげようよ」
 ニヤニヤと近づいてきた小島はそういった。信じられない言葉だ。私たちはホトトギスを待っていたんだったか?
「泣いたらそれでいいんですか?」
「泣くほど苦しいなら仕方ないじゃん、高田が厳しすぎるんだよ」
 女は泣いたら許されるのか。泣かない私は加害者とされるのか。そんなこと言われないといけないのか、私は、もう、もう。
「もういい」
「もういいってことはもう終わりだな。ほら、中井泣きやめって」
 もういいは男と違って譲歩の意味じゃない。話し合いは終わってない。
「先生は黙ってて」
 そういったのは澪だった。そこで目が合った。敵は小島だ。それで一旦休戦にしよう。
 私たちは水に流した。そして「先生嫌い」と言い合うことで解決としたのだ。
 後日スクールカウンセラーに澪の行動について相談したときの解答はこうだった。
「バレンタインだからですよ、その子の好きな男子と仲良いでしょ?」
 そういえば私と同じ委員会の男子のことを凜は好きだった。わからない。

【大学の課題】
男女のすれ違い食い違いを原稿用紙3枚で。
登場人物は男女。ジェンダーを描く。

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