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SS『きっといい夏になる』

夏は少年少女が出会うにはロケーションがよすぎる。入道雲の下の川で出会っても、雨が降り続くバス停で出会っても、結局はエモーショナルで芸がない。だから私は誰も思いつかないような出会いがしたかった。

廃墟。それはそれで小説漫画でありふれた出会いなので却下だ。幽霊と恋に落ちるなんて面白みにかける。

高架下。やはりここもちょっと暗いから、人間以外のものと出会ってしまいそう。もしくはホームレスとか? それもどうかと思う。

満員電車。誰もいない電車。どちらも人との関わりは当たり前だから、排除したい。

もっと、もっとこう、いいトリッキーな出会いというのは無いのだろうか。

神社なんてエモすぎる。花火大会も学校のプールも、どこもかしこもあの真夏の太陽の下なら全ての出会いが昇華されてしまう。それではダメだ、今まで誰も考えたことの無いような鮮烈なものを。

そんなことを考えながらホームセンターコーナンで品物を見ていた。ロープを買って一安心。そういえば今日は四天王寺で骨董市がやっているはずだ。6月21日、夏至の日に行われる日本最も古いお寺で骨董市。とても素敵じゃないか。

まだ梅雨は明けていないのに私の頭は太陽に焼かれていた。夏が来てしまったのだ。

古いカメラが並んでいる店があった。カメラについては詳しくはないけれど、やっぱりワクワクするものだ。

浴衣を売っている店。靴を取りそろえている店、なんと1足200円。首振り龍に、ガラスの食器が並んだ美しい空間、あとまな板専門店?
実にヘンテコなものばかり売られている。実家の奥底から出てきた宝箱みたいな場所だ。ブラブラしながら、目に付いたお店で包丁を買った。400円は安すぎるなぁ。人に溢れた空間では領収書もレシートも出ない。こと適当感、それが骨董市の醍醐味だ。

真夏が近づいてくる日々の中、私はいっぱい考えていた。さて、どんな女の子が現れたら意外性があって美しいのか。

高速道路の入口付近で真ん丸な女の子がうろうろしていた。手も足もパンパンに肉が付いていて、ちぎりパンのようだった。歳は7歳ぐらいだろう。

「どうしたの?」

声をかけると満面の笑みが返ってきた。そうだ、この子にしよう。そっと手を引いていっぱいお喋りをした。帰りたくないのなら、暑いし17時ぐらいまではここにいたらいいよ、あとは元気になってから考えよ、と伝えるとよりワクワクした顔をした。コンビニエンスストアのバックヤードに引き連れた。そして、ここにおいでとメモを渡し、一度お別れをした。

「おじさんあとでね!」

誰もいない、監視カメラもない、ただの路地。残念ながらここは人がいない。女の子を引連れて、そのまま空き家に行く。怯えることもやめた少年に君を会わせよう。きっといい夏になる。

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