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SS『大阪駅の幽霊は馬鹿』

繁華街のど真ん中で幽霊やってるやつは馬鹿なんじゃないのか?

俺はいつもそう思っていた。テレビで見る渋谷のスクランブル交差点も朝イチから誰も気づきもしないのに立っている。早く成仏したらいいのに、そうは思っても自分の意思で留まるつもりのやつらはどうすることも出来ない。

大阪駅で潤と待ち合わせ。ざっと見たところ、10人はいる。なんやかんや楽しそうで宜しい。ルクア前は待ち合わせの名所だ。きっと東京で言うところのハチ公前だろう。人が多い場所はその分照明も多いし日当たりもいいから明るい。幽霊なら幽霊らしく暗くてジメジメした路地裏とか廃墟とか学校とかそういう場所に出たらいい。死んだままの状態ならまだしもちょっとずつ腐敗していく姿をまともな光の元で見たくない。こういうのは無視に限る。

「よう、待たせた」

潤はいつも通り半袖半パンの格好で現れた。これもこれでこの場所に合っていない。まあ、大阪駅が綺麗な場所だという認知もないけれど、それなりに高級な百貨店があるからちょっとオシャレな人が多い場所だと思う。オシャレとかよく分からないけど。

「さ、行こうぜ」

霊感の欠けらも無い潤は馬鹿みたいに幽霊が溜まっている場所に向かって歩いていく。目的地は確かにそっちだが、その道を通らなくたって行ける。俺は、あんな半分溶けたような体で踊り狂う人間だったものの横をわざわざ通りたくない。

「先にこっち行こうぜ」
「うぃー」

幽霊なんて居ない。お化けなんて嘘さ、寝ぼけた人が見間違えただけだよ。俺はまだ寝ぼけてるだけ。あれには気づいていないんです。

「そういや、お仕事どないでっかー?」
「んー、まあ、ぼちぼち」
「公務員だろー?ええよなぁ、何やってんの?」
「なんやろ、まああれやな、人口調査とかさそんな感じ」

だるそーと言った潤はまたスマホをいじり始めた。
公務員は公務員、人口調査みたいな事もする。それは、幽霊の、だ。
街の幽霊を記録する。別に払うわけじゃない。霊媒師でも霊能力者でもない。ただただ、ここにこんな幽霊がいますよ、あそこに何人居ますよ、あと何年ぐらいでいなくなりますよ、という記録をとるだけだ。大抵の幽霊は悪さを起こさない。悪霊がいて、ポルターガイストやらなにやら起こして人間を殺す、とか言うお話は所詮お話だ。あいつらはただ存在するだけなのだ。

死んだら100%幽霊になるわけじゃない。たまたま幽霊になる。そして、適当な場所でワクワク元気に生きている。その証拠に基本的にヤツらは踊っている。日本人はダンスが大好きなんだろう。パーリーなピーポーなのさ。日本人に限らないのかもしれない。海外の事情は知らないので、何も言えないですけども。

体が腐敗しきって溶けたら居なくなる。それが一般で言う成仏だと言える。それを確認したら、俺らは記録をして、少し掃除をする。

それだけの仕事。

でも、休日まで幽霊なんて見たくない。やっぱりこんな繁華街で踊ってるなんて阿呆なんだろうな。生きてた頃何してたんだろう。あれか、生きてた間は楽しめなかったからってタイプだろうか。死んでからはエンジョイできてよかったね。

休日に幽霊を見つけてしまうと報告義務があるから、気付かないふりをする。記録するのは情報が多くて面倒臭いのだ。同期も先輩もみんながみんな、休みの日の幽霊遭遇は無かったことにする。そうでなければ出現確認が土日の記録数が0なのは説明がつかない。公務員なので、土日に働いてたまるかという強い意志を感じる。

さて、今日も一生懸命無視しましょうか。

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