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SS『雨降り図書室』

中学一年生の時に書いた小説です。


静かな図書室に雨の音が響いた。
「雨、降り始めたね」
 彼女は本から目を上げた。けれど、すぐに目を本に戻した。
「今日は雨のにおいしなかったのにね」
 梅雨の図書室はカーテンが全部締め切られていた。そのせいで、外の雨の状況が分からない。
「確かにね」
 雨のにおい。誰もが感じたことがあるだろう。なんでか分からないが、今日は雨が降るなと思う。けれど、今日の雨はにおいがしなかった。
 僕は立ち上がった。カーテンの方へ行く。さっきまで本を読んでいたから気付かなかったが、周りにはほとんど人が居ない。
「いちいち見に行かなくていいよ」
 彼女はなぜか僕を止めた。気にせずにカーテンを開ける。そこには梅雨に珍しい快晴の空があった。地面も濡れていなければ、雨の後のムッとした暑さが無かった。
 後ろで小さく、ああ、とつぶやきが聞こえた。
「おーい。なにしてんだ?」
 誰かが、僕のことを呼ぶ。カーテンを閉めて振り向くとクラスメイトの姿だけがある。彼女の姿がなくなっている。彼女が座っているはずの席には本だけが残っていた。
「……えっ?」

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