邪道作家三巻 聖者の愛を売り捌け 分割版その8
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手に余るって?
そんなことは無い。
女とはああいうモノだ。
それほど、大差は有りはしない。
それに、男も似たようなものだ。
少なくとも私は・・・・・・もしこの女が襲いかかってきたところで、いつでも「始末」出来るだろう・・・・・・たとえ寝ている最中でも、自動で「幽霊の日本刀」が真っ二つに両断する。
女は飽きるとあっさり捨てる。
男は役に立たなければ、あっさり代える。
似たようなものだ。
利用するという点では、変わるまい。
しかし、あの女、例の聖女だが、あれこそが、あの自身を犠牲にした行為こそが「愛」だとするのならば、やはり「愛」は役に立ちそうもない。 聖人の遺体、その破壊は容易かった。まぁ、あれで聖人になったのかは知らないが・・・・・・死体の一部も持ってきたし、これで仕事は完了だ。
形はどうあれ、二人は結ばれたしな。
私が受けた依頼は「少年少女の恋愛成就」であり、彼らの生死は関係がない。
だが。
「そりゃまぁ、そうだけどね」
目の前の、自称縁結びの神は、あまり浮かない顔のようだった。
「もう少し、何とか成らないものかねぇ」
「下らないな」
私はそう言って切り捨てた。我々は例のレストランで、再度会合を開いていた。仕事の報告だ。また、聖人の遺体、その一部を、仲介人へ見せることで、あの女、タマモへの報告ついででもあるが・・・・・・いずれにせよ、こんな顔をされる覚えもないのだが。
「第一、あの二人は生きている限り、どう足掻いても結ばれまい。結ばれたところで、命を狙われ続けるだろう」
「だから? それでも人間が縁を結んではいけない理由には、ならないと思うけど?」
どうやらハッピーエンドを望んでいたらしい。 だが。
「それを望むなら自身の手で行うべきだったな。人任せにしておいてそれらしい倫理観を述べ立てるな」
「それもそうだったね」
けどさ、と彼は、真摯な顔で訴えかけるのだった。訴えられたところで、私は神でもなんでもないので、別に彼らを救う義務など無い。悔やむ理由も哀れむ理由も皆無だ。
「君は、彼らが気にくわなかったんじゃないかなと、思ってさ」
「・・・・・・何故だ?」
人を知ったような口で語る人間は嫌いだ。大抵自身の足下すら、見えていないからだ。私の場合はというと、知ったような口で適当なことを言いはするものの、それがあってるのか私自身にも分からないのだが。
私の場合は、悪を自認した上で知ったような口をきき、それでいてうろたえる人間の姿を見るのが趣味なだけだ。別に、本当に見透かしているわけではない、と思う。
少なくとも知ったかぶって、人の人生にあれこれ指示を出すつもりは無い。私の場合、「貴方のことを思ってやっているのですよ」という、押しつけがましい善意ではなく、ただ単に悪意を自覚しながら、うろたえる姿が見たくて言いたいことを言っているだけだ。同じようで違う。
相手の人生の先など思ってもいない。
私のような人間は、偽善が大嫌いだ・・・・・・・・・・・・世のため人のため、あるいは後の子供達の為、あるいは地球のため国のため、大それたお題目がなければ動けない人間など、下らない。
他の全人類がどうなっても構いはしない。他でもない己の中を満たすため、ただそれだけの為に生きている人間の方が、人間味がある。
「知ったような口を、利くじゃないか」
「お互い様だろ? まぁ、君の場合純然たる悪意というか、相手の見られたくない部分を写す鏡みたいなモノなのだろうけど、僕の場合は事実だけを写す鏡と言ったところかな」
「ほう、事実、か。事実というならば、あの顛末は必然ではないか。私が、彼らをうらやむ理由など、皆無ではないか」
「誰もそんなこと言ってないぜ。気にくわないとは言ったけど」
「しかし、事実だろう、それこそ。私にはそも、そういう感情が、いや情そのものが無いのだ。無い以上は、感じ取れまい」
「無くても、情が存在しなくても、羨むことは出来るだろう?」
「何故だ?」
不可能ではないか。
羨ましい、と願うことが、出来ないのだから。 だが、縁結びの神は、コーヒーを一口含み、「うまいねぇこれ」と言った後で、こう言った。「いや、だからさ。それを考えることは出来る以上、それがないことに対して苦悩する。それこそが君の言う「羨み」だと思うけど?」
成る程。
そういう考え方もあるのか。
あったところで無意味だが・・・・・・私はコーヒーを胃袋に流し込み、頭に血を集中させて考える・・・・・・答えは出ない。やはり、思考そのものが羨むという事だとしても、それを感じる心が無ければ無意味ではないのか?
「そうでもないさ」
と、知ったように男は言った。
「だって君は、結局のところその「心」を求めることで自分を埋めようとしているだろう?」
「それが、どうした? 無ければ無いで」
構わない。
そう答えたのだが、
「それは妥協であって、本当にいらないわけではないだろう」
などと、お節介なアドヴァイスをした。
余計なお世話だ。
だから何だというのか。
「手に入らなければ、いや手にしたところで感じられないのであれば仕方あるまい」
「ほらそれだ! 「仕方ない」って奴だ。それは君の嫌悪する人間達がよく使う常套句でしかないんだぜ」
「だろうな。しかし、それこそ「事実」だ」
「達観してるねぇ」
「諦めが早い、いや面倒なことはしたくないだけだがな」
「諦めるのかい?」
「ふむ」
とりあえず、まぁ時間もあることだし、ゆっくり慎重に考えてみよう。
心は必要か?
否、不必要だ。
一瞬で答えが出てしまったが、しかし、それもまた事実だ。愛が真実の幸福だとか言う輩も多いのだが、別にそんな幸福を押し売りされる覚えもないのだ。
心は人間を鈍らせる。
充実するのかは持っていたことが無いので知りもしないが、理解は出来る。人間は心があるからこそ争い、奪い、それでいて学習せず、人に嫉妬し、あるいは金の問題もある。
金に困る人間は、大抵が見栄や恥が原因だ。
生活するだけならば大した金は必要ない・・・・・・・・・・・・大抵の貧民は賭博、煙草、外食、見栄、恥や外聞、女、男、情に流されたり余計なモノを買っていてそれに気づかなかったり、それでいて料理もロクに作らないくせに「金がない」と、言うのだからな。
世間的な正しさを盲信して、「立派な」企業に勤め上げ、自身の意志を貫かず、それでいて良いように使われて人生を無駄にし、組織の庇護から離れられず、労働に従事し続けて身体を壊し、とりあえず世間体もあるからと結婚するが家庭を顧みず、また面倒になり、子供とは関わらず、そのくせ年を取ってから「何故孫たちは冷たいんだ」と相手には人間の倫理観を押しつけ、自業自得、いままで放ってきた、適当な関係しか家族と作らなかった報いを向けるかのように、介護施設で死ぬ順番を待つ。
成る程。
冷静に考えると、やはりいらないな。
あれが心なら無い方が良い。
あるよりはマシだ。
「思っているほど、良いものでも無さそうだしな・・・・・・遠目に眺めている分には良い、と言うことなのかもしれない。眺めるだけで十分だ」
心のない苦悩だけでも手に余るのに、心のあるが故の苦悩など背負っていられるか、面倒な。
青い鳥はすぐそばにいたとか、そういう適当な理由で納得するとしよう。
「ふん、そうかい。まぁ、それはそれで有りなのかもしれないね」
「それで、他に用件は?」
「ん・・・・・・そうだな。ああそうそう。君、以前「賢者の骨」ってアイテムを手にしたことがあるだろう?」
「あの骨か」
結局、よく分からない正体不明のままだったがしかし、実利が得られたから由とした記憶がある・・・・・・結局、何だったのだろう。
「あれは別名、「聖人の骨」と呼ぶ。つまり君が懐に隠し持っているそれさ」
「これが?」
そういえば以前、骨を受け取るだけ受け取ってブツブツ言ったかと思えば、自害した女がいた。 どういう原理なのだろう?
「それはね、自身の内面にある願いを叶えると言われている代物なんだ。精神世界に繋ぐパスポートみたいなものかな」
「ふぅん」
言われても詳しい理屈は理解できそうなので、やめることにした。私は学者ではない。
あくまで作家だ。
だから、理屈などどうでもいい。
問題は結果であり結末だ。
「それで、これを使って、どう願いを叶えればいいんだ?」
「そうだね。瞑想するだけでいいんだけど、場所は静かなところがいいだろう。内面世界、精神の奥に潜って、願いを叶えるわけだからね」
「そうか、ではそうするとしよう」
「これが今回の報酬だよ」
そう言って、彼は封筒を取り出して渡すのだった。現金取引は違法だが、だからこそ永遠に無くならず、こうして私の懐を暖めてくれる。
ありがたい話だ。
「じゃあ、僕はもう、行くよ。墓参りによってからにするけど、君はどうする?」
「死んだ人間は、ただの肉と骨だ。ましてそれが腐り始めたところに、行く理由など無い」
「はは、そう言うなよ。案外、人間が知らないだけで、あの世は良いところかもしれないぜ?」
「前にも聞いた台詞だ」
「そうなのかい? なんて答えた」
「聞きたいか? 金を払え」
「これで良いかい?」
懐から札束を取り出し、私に渡すのだった。 まずまずの儲けだ。
「あの世もこの世も、神と人間が運営するならば・・・・・・私の居場所はないだろう。まぁ、ある程度くつろいで生活できれば、それで十分だ」
「居場所がない、と感じているのかい? それは意外だったな」
「正しくは「世間的には無いのかもしれないが、知ったことではないし、どうでもいい」だ。あの世もこの世も対して変わるまい。崇めるのが等しく神であり、神が運営するとするならばだが、その神が運営した結果がこの世界なら、あまり期待するほどではないだろう」
「耳が痛いな」
「せいぜい痛くしていろ」
じゃあな、とそう言って私はその場を去るのだった。
後にはコーヒーの残り香が漂うだけだった。
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「で、何を願うんだい、先生」
そう言うのは待ちくたびれた携帯端末のジャックだった。人工知能は「生命を作り出すという冒涜行為だ」とか何とか、宗教は五月蠅い。
だから置いてきていた。
宇宙船のソファの上で、私は聖人の骨、賢者の骨、何でも良いが、とにかく傍目から見れば区旅得た骨を眺めていた。まぁ、先程死んだばかりの女の骨では、奇跡を二度起こすという規定も達成できていないだろうし、厳密にはただの女の骨なのだが。
「依頼は成功したな先生。遺体は破壊してあるのはこれだけだ」
「燃やして供養しただけだがな」
あの女は、聖人としてあの世でも信者にこき使われるという、苦行から脱したのだろうか?
まぁ、そうであれば、あの青年ともいちゃつけて何よりだろうが。「聖人」という言葉そのものが既にして、立派なのかもしれないが、成る本人の自由を奪うものでしかないのだ。彼らは自分たちが嫌悪している弾圧や迫害を、他でもない聖人に押しつけている現実に、気付いてはいないのだろうが。
人間とは、つくづく度し難いものだ。
改めてそう思った。
本当に、人間の意志に価値はあるのか?
意志が崇高でも、報われなければ嘘だ。
それは嘘なんだ。
報われて、幸福を掴み、それで初めて前へ進めるのだから。
報われもしていないのに、意志だけを問われて徒労に終わるのだとすれば、それは嘘だ。理不尽なんてモノじゃない。この世界には、最初から向き合うほどの価値も意味も崇高さも、何もなかったことの証明になるだろう。
それで良いのか?
変える方法は無いのか?
意志を貫いて前へ進んで、それでも報われるかどうかは運不運や環境で決められるなんて、そんな横暴が、力さえあれば許されるのか?
私は決して許さない。
絶対に。
意志を貫いたなら、報われなければ嘘だ。
嘘なんだ。
「大丈夫か、先生」
「いや、あまり大丈夫では無いな」
「何を、考えていたんだ?」
神妙な声、を人工知能が出来るのかはしらないが、ジャックはするのだった。
「人間の意志が、やり遂げた存在が、報われないなんて嘘だと、考えていた」
「どうした、急に」
「私は本を書いている。だが、どれほど思いを込めていて、どれほど年月を注いでいて、どれほど人生を捧げようとも、それが報われなければ、最初から無駄になる」
「・・・・・・・・・・・・」
「人間の意志は美しいのだろう、そう思う。だがな、私は美しいだけで、それで納得させようとするこの世界が、許せない」
「先生に」
許せない者なんて、あったんだな。そう人工知能は口にした。
「昔からさ。こればかりはどうしようもない」
「報われるかな、俺たちは」
「分からない。だが、報われないのだとすれば人間の意志には価値が無く、意味もなく、ただ要領が良いのが全てだと、持つか持たないかが全てだと、それを証明することになるだろう」
ある意味世界の終わりだな、と私は言った。
今更生き方は変えられない。
辞められない。
だから、報われないなら存在できまい。
「もし、報われるのなら?」
それは何を証明するんだ、と彼は問うた。
私は答えた。
「まだまだ足りないが、とりあえず」
「とりあえず?」
「何か、良い事はあるのだと、冬だけでなく春は来るのだと、信じることは出来そうだ」
「信じるだけかい?」
「そりゃそうさ。いままで散々だった。報われただけでは、幸せにはなれまい」
「だが、幸せを信じることは出来る、か。いいぜ先生、大丈夫だ。あんたの周りにはきっと、幸運と幸福が、列をなして取り囲んでいるさ」
「本当に、そうかな」
「ああ、間違いないぜ」
そうでなきゃ嘘だ、と彼も嘯いた。
寒い寒い、道を歩いてきた。
無ければ凍えて死ぬだろう。だが、
もしそこに春があれば・・・・・・私は何を見ることが出来るのだろうか。
それは、あるいは。
私がないと決めつけていた、愛や友情、人間の絆とやらの、奇跡のような世界を、魅せてくれるかもしれない。そんな非現実的で根拠のないことを考えて、思った。
これが奇跡を願うと言うことか。
神か仏か知らないが、まぁこのくらいは祈ったところで、叶えてくれるかもしれないと、そんなことを私は、珍しく思うのだった。
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私は人間になれるのだろうか?
分からない。
そんなことを考えながら、山を登る。
神、かどうかはしらないが、とかく人を越えた存在というのは、高いところが好きなのだろう。 やれやれ、参った。
あまり元気はないのだが。
救いも運命も、尊さも頑張りも、運不運で片づけられてしまえば、私の人生は、いや人生どころか、私の全て、私の意志、私の成し遂げたこと、私の苦労、私の苦悩、私の全てが・・・・・・・・・・・・・・・・・・それはあってはならないことだ。
だが、いや、考えても仕方がない。
やはり相当参っている。
こんな時に考え事をするべきではないだろう。 私は、ただ、幸せになりたかっただけなのだがな・・・・・・・・・・・・随分と、遠回りをした。
報いはあるのだろうか。
どれだけ人間賛歌を美化しようが、こればかりは結果でしか、判断できない。
私は、それほど多くを求めたわけでは、無かったのだがな。
とはいえ、言えることがある。
私はやり遂げたのだ。
やり遂げた。だからこそ、結末に報いがあって当然だと思っているし、そこに自分を疑う考えは一切無い。私はやり遂げた。
誰も、これ以上の物語を創れまいと、断言できるほどに、だ。
だから問題は、私のいままでがキチンと誤魔化し無く報われるのか、その一点だ。
私自身に対して何の後悔もないし、作品の質も世紀の傑作だと断言できる。他の人間に見る目玉がキチンとついているのかどうか、天は仕事を怠らずに私に金を払えるのかどうか。
心配していることがあるとすれば、精々その程度なのだ。
だから、誇りはある。
報われて当然だと、確信もある。
私はやり遂げたのだからな。
やり遂げたんだ。
「あら、こんばんは」
そう言うのは例の女、タマモだった。・・・・・・・・・・・・そういえば、随分前、私は自信が心ない人間であることを不条理だと、この女と話し込んだことがあった。
しかし、プロの条件は「己の心を消し去る」ということだ、どんな仕事であれ、己を消すことで最上の結果がでる。
一流のプロでも、心を消し去るのは難しい。
私は生まれたときからそうだったが。
長所と短所は表裏一体と言うことだろうか・・・・・・・・・・・・ままならないものだ。
本当にな。
「聞いていますか?」
「ああ、ちょっと見とれていたのさ」
「まあ」
そういって、女は口元を袖で隠すのだった。
女心も男心も、作家の私からすれば至極単純に写るのは何故だろう?・・・・・・まぁ、昔から男も女も単純な生き物ではある。私もそうなのか、流石に自身で判断は出来ないが。
複雑怪奇と言うより、私の場合単純ではあるのだが、そこに至る過程が回りくどく、遠回りで、真っ直ぐに向かわせて貰えなかった、と言うところだろう。
「・・・・・・それで、例のモノは?」
「これだろう」
いつぞやの「骨」を取り出し、私は彼女に渡そうとした。
しかし、
「それを持って、こちらに来なさい」
「私に願いなんて無いぞ」
と先んじて、適当な言葉を言うこの口だった。 以前、自身の願いを叶えた女は、願いを叶えたのは良いものの、完全なる神の平和を望んだが為に、その惑星にいる全ての生物の絶滅という、とんでもない結果を出していた。
あれが叶うと言うことなら、私はささやかな平和と平穏、それなりの豊かさがあれば良いのだが・・・・・・。
「いいから来なさい。貴方の「影」を見ることが出来るでしょう?」
「影?」
そう答えて、足を進める・・・・・・昔の人間は何を考えて、こんな長ったらしい階段を作ったのだろうか? 作家が通れないではないか。
肉体労働断固反対。
私は軍人でも、主人公でもないのだから。
「それで、どこに向かっているんだ?」
「奥の院です。我々、いえ仏に謁見することを想定して作られた、神聖な場所があります」
そこを使います、と彼女は言った。
ようやく平地、というか、屋上らしきところに出たかと思ったが、見る限りまだ道は続いているらしかった。今回はこの場所を使うらしいが、もしこれより先の酸素の薄い場所を使う羽目になったらと、ぞっとしない話だ。
足が棒になってしまう。
建物らしき場所(私は仏教徒でもないので、詳しい作りはよく分からない。ただ、荘厳ではあったと言っておく)に入ると、とりあえず私は勝手に腰を縁側に降ろした。
「仕方ありませんね」
そう言って、少し姿を消したかと思うと、彼女はおはぎという、こしあんでもち米を包んだものを、山積みで持ってくるのだった。
どこから出したのだろう?
もしや、こんな美味しそうなモノを、神、いや仏か? とにかく、ここに住んでいる連中は、毎日食べているのだろうか・・・・・・羨ましい限りである。
「さあ、召し上がれ」
私は茶を煎れて貰うと、手にとっておはぎを右手で掴み、食べることにした。
「こりゃ美味い」
「そうですか?」
それは良かった、とこぽこぽと自分の分の茶を煎れて、上品に手を添えながら飲むのだった。
茶があり、茶菓子もある。
すると、作家である私に出来るのは、作者取材による問答と、それこそ「噺を語る」位のモノだろう。
まずは茶菓子の例に、一つ噺でもするか。
「昔々の出来事だ、ある作家の噺をしよう」
「まぁ、良いですよ。語り聞かせて下さいな」
「その男には何もなかった。心も信条も夢も希望もあり方すらも、何もかも人を真似、自身を持てずに生きていた。そんな男の物語だ」
「続きをどうぞ」
「男は、思った。「私には何もない。しかし、憤りとでも言うのか、男は「何もないなど許せないことだ。何か、何もないなら何かを探せ」そう考えて、探すことにした。人生初めての自分探しという、不毛な争いをだ」
「何が見つかったのですか?」
「いいや、何もなかった。だから金、金銭を原動力としよう、と決めた。分かりやすいからな。さて問題は、まずその男は絵描きになろうとしたのだが、しかし、男にはあらゆる才能が微塵もなかったのだ。だからこそ苦悩していたのだが」
「全てに才能がないなど、あり得るのですか?」「さて、しかし事実だ。人並みのことをするのに人並み以上の労力が必要で、そのくせ凡俗を追い越すことすら出来なかった。生物として、そんなことを許せないのは、無理もない話だった」
「絵描きには、なれなかったのですか?」
「手が震えて絵が書けなかった。才能以前の問題に、男は笑った」
「それで、その男はどうしたのですか?」
「そこだよ。才能が無くても、とりあえずは「始められなければ」噺にならない。だから才能や運不運に左右されない、当時はそこまで考えなかったかもしれないが、とにかく才能が無くても始めることが出来るモノ、を男は求めた」
それが物語だった、と私は語った。
ただの御伽噺みたいなものだ。
大した意味は無い。
「それで、男はどのような物語を?」
「盗作だった。なんせ、それもまた才能以前の問題だった。まぁ、別にそれで儲けたわけでも無かったのだが・・・・・・なんにせよ、時間がかかることだけは確かだった」
「そんな長い時間を、どうして耐えられたのでしょうか?」
「そうさな、最初は、所謂天才った奴がこう言っていたのだ。「自分は天才ではなく、ただ人よりも同じ事へ、長く取り組んでいただけだ」と、それに対する当てつけだった。しかし、長く物語を読み、書いて、紡いで、またやり直してを繰り返す内に、何時からそうなったかは分からなかったが、男の信念の一部になった」
もっとも、信念が何か、男は感じ取れないままだったが。
ふんふんと頷き、興味があるフリをしているのか、本当に興味があるのかは分からなかったが、しかし読者がすぐ隣にいる以上、語る口を止めることは出来なかった。
「それで・・・・・・長い長い遠回りをした。時には絶望して、時には開き直った。しかしある日気付いたことがあった」
「何ですか?」
「私は幸福になりたかった。しかし我が人生において、はたして一体、誰が救いの手などという胡散臭いモノを差し伸べてくれただろうか? 一人もそんな人間はいやしなかった。私が苦しむ姿を見て笑う奴は多くいたが、救いなど、無かった」「救いが欲しかったのですか?」
「まさか、欲しかったのは報いだろう。それにしたって、やりきった後に芽生えたものだ。その男は、苦難の中であらゆる物語を、噺を読み、苦難や苦痛の中でも勇気をもらい、希望を魅せられ、それで生きる活力を得た。しかし、現実は醜く、愛も友情も偽物で、そういったものは物語の中にしかないのだと、所詮噺の中の出来事なのだと、そう感じるようになった」
「それが、作品に影響したのですか」
「そりゃそうだろう。結局のところいままで生きてきて、そしてこれから生きていく、その自身の内から産まれるものだ。男からすれば、自身というフィルターを通して物語を紡ぐ、それが作家という生き物だった。だから」
夢も希望もありはしない。
そんな物語を願った。
「しかし、物語とは奇妙なもので、悲劇だけではどうしても立ち行かなくなり、そして登場人物たちはこちらの思惑を無視してでも、勝手気ままに動いてしまうものなのだ。人生もこうだったら良いのにと、男は痛感せざるを得なかった」
「同じだと思いますよ」
女は言った。
「神も仏も、あるいはそれ意外のものですら、人間に苦難だけを与えるなど、どれだけ全能の存在でも、不可能でしょう」
「その根拠がない。そして、その考えは事実、現実の中で、報われてこそ言えるものだ」
「貴方は報われてなくても、口にしていたようですが」
「ひねくれているだけさ。とにかく、だ。書くつもりもなかった希望の渦に、戸惑ったのだ。しかしそれも物語の中での噺。男はますます、悩み苦しむことになった。自分の選んだ道だ。そしてその道を歩ききり、やり遂げて、次へと進むところまできた。しかしそれでも」
未来のことは、分からない。
本当に報われるのか。
人間の意志に結果は伴うのか。
「物語は確かに、人間に希望を与えるかもしれない・・・・・・事実として、業腹だが認めよう。しかし人間は、マッチ売りの少女ではないのだ。幻想を見るのは良いが、それで満足など、まして納得など出来るものか、とな」
「成る程、無い物ねだりですね」
「確かにな」
上手いこと言う。
確かにその通りだ。
「だが事実だ。物語の中に愛や平和があるのに、現実には薄っぺらい嘘しかないなどと、まるであべこべも良いところだ。その男は神も仏も信じてはいないが、もしいれば余程暇で、楽な仕事をしているのだろうと、悪態を付いたものだ」
「・・・・・・・・・・・・」
落ち込んだ風に、女は沈んでいた。
知ったことではないが、相手が女なら、励ましてやるのも男の甲斐性なのだろう。
相手が男なら、神でも仏でも知ったことではないが・・・・・・案外、神や仏も、私と同じ事を考えているのかもしれない。どれだけ全能で徳が高くても、男は男。女は女だ。責めはすまい。
文句は言うがな。
「落ち込むなよ。お前が何に落ち込んでいるのかは知らないが、神も仏も、あるいはそれ以上のモノだって、そういうものだ。誰からも完全に愛され、肯定される存在など、あるはずがないし、そんなものが現実にあったら問題だろう」
「それは確かに、ですが」
「まぁ聞けよ。神だって仏だって全能かもしれないが、しかしその男を助けもしなかったのは曲げようのない事実だ。これからどうなるかはしらないが、昔はそうだっただけの噺だ。いずれにしても、信じるかどうかはとにかく、払った賽銭分の働きも怪しいものだと、思わざるを得まい。だから男は、神も仏も信じるが、しかし居たところで役には立たないと切り捨てた」
「・・・・・・そこから、男はどうなったのですか?」「どうもならない。やるべき事をやり遂げて、その結果待ちさ。それが報われるかどうかで人生観は大きく変わるだろうが、それでも男は確信せざるを得なかった」
「・・・・・・神と仏の不在をですか」
頭を撫でてやりながら、
「そうじゃない。そんな顔をするな。もっと、単純明快なことだ」
「・・・・・・なんでしょうか」
頭を撫でる手を振り払おうとするモノの、その気力が沸かないようだった。撫で心地はいいので有り難い話だった。
「作家という業、その生き方は染み着いてしまっているという事だ。もう、他の道は、選べない。あり得ない噺だが、人間の意志が否定され喜劇のような悲劇があったとしても、別の道を選んで生き方を変え、幸福は追い求められない」
「それが、貴方の「答え」ですか?」
「そうかもな。いや、その男の、だが」
答えは得たと言うことなのか。
しかし、答えを得たところで、やはり実利がなければ空しいだけなのだろうが。
「まぁ、そこまで考え込んでも、結局金にならなければ空しいだけ、という事実も、変わりはしなかったのだがな」
「大丈夫ですよ」
と、どこぞの人工知能みたいな、無責任で根拠のない、つまりアテにならない助言を、彼女も待たし始めるのだった。
根拠のない精神論が、流行っているのか?
「人間の意志は、そこまで弱くはありません。報いがないなどあり得ませんよ。貴方はやり遂げたのでしょう? なら、あとは泰然自若として構えるだけです。やり遂げた人間にすべき事があるとするならば、精々そのくらいです」
だから、ゆっくり休みなさい、と。
そんなことを言うのだった。
「一段落付いたらな。そうさせて貰うさ・・・・・・・・・・・・金で買いたいモノなど「平穏」と「それなりの豊かさ」しか思い浮かばないが、とりあえずその二つを手にしてから、人間の情を追い求めることにしよう」
「きっと見つかりますよ。さて」
そう言って、女は立ち上がった。着物だからどうにも、艶やかさが目立つのだった。
「行きましょうか」
「どこへだ」
「勿論、答えを出すためですよ」
そう言って、奥の院へと、女は私を案内するのだった。
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「では、始めます」
詳しい理屈は分からないが、私の内面に干渉することで、「骨」と精神的に接合し、そこで願いを叶えるらしかった。以前の女もぶつぶつ言っていたのは精神の内側にいたからであり、ともすると外側、つまり今我々がいる世界では、あまり時間は経たないのだと知って安心した。
気が付いたら二百年経っていた、など笑えない冗談だからな。
気が付けば・・・・・・私は何もない世界に立っているのだった。
そこには何もない。
黒いモノが世界の地面を覆い尽くしていて、空は夕焼けのようだった。味気ない世界だ。これが私の内面だと聞くと、むしろ納得行くが。
そこには一人の人間が立っていた。
私である。
「よう、俺」
「なんだ、私」
などと、本来取り乱すべきなのだろうが、まぁ泰然自若とするべきだと言われたばかりなので、そう構えることにした。
鏡写しの問答か。
願いを叶えるのは、それがふさわしいという事なのだろう。
私は言った。
「お前は本当に叶えたい願いなど、無いだろう」「無いな」
とはいえ、これで噺が終わるのは味気なさ過ぎるので「しかし望むモノはある」と答えた。
「それは欲望であって、願いじゃない」
「確かにそうだ。だが平穏で豊かな生活というのは、誰だって望むものだろう? それのどこが悪いのだ?」
「別に、悪くないさ。それは当人が決める基準だ・・・・・・その基準で言えば、お前は自分が「愛」だとか「友情」だとか言ったモノを、心の底では求めているくせに、そう、諦めてしまっている」
「私に心なんてあるのか?」
「あるさ、そうでなきゃ」
物語は書けないだろう? と言った。
本当にそうかは、判断の分かれるところではあったが・・・・・・まぁ良いだろう。
「仮にあったとして、だ。ええと、何か用件でもあるのか?」
「あるのはお前だろう。分かっているくせに」「ふん、なら、見たところ余裕はありそうだし、私の願いを叶えてはくれないのかな?」
「願は既に、叶っている」
「何だって?」
「お前が欲しいのは愛だろう。諦めているだけで欲しいモノは変わらないさ。そしてお前は、物語を愛している。何の不満がある?」
「当然、金銭的な不満だが」
実利のない愛など、実利あってこそ喜べるものではないか。
私は自己満足が得意だが、現実に豊かさを求めるのならば、そしてそれこ物語を各書く以上は、求めて当然の見返りだ。
「それはもうじき満たされるさ。人間の意志を貫いた以上、お前にそれが訪れるのは、もはや時間の問題でしかない。問題は、満たされた後、金を稼いで何を得るかだ」
違うか? と私は言うのだった。
本当に時間の問題なのか、私には未来が見えないので判別しかねたが、そうであったらいいなぁと、思わざるを得なかった。
その先か。
それこそ決まっているではないか。
「愛が、まぁそう言うモノだったとしてだ。所謂普通の人間の家族愛だとか、友情だとかでも、求めてみるつもりだが」
「それは正しいさ。しかし、別に愛の形が単一である必要は無いと、言っている」
「物語を愛することで、満足しろ、と?」
「そうだ」
馬鹿馬鹿しい。
いくら何でも、それでいいのか?
「お前が言っていることだろう。人間など、所詮自己満足の賜物だ。自分の世界観で世界を見て自分の世界観で満足できればそれで良い。それが人間の幸福の答えだと」
お前は、と、私は続けて語るのだった。
「既に答えを得ている。既に手にしている。愛も野望も友情も、物語の内にある。だからお前の言う「豊かさ」が入るのは既に時間の問題なのだ・・・・・・・・・・・・人間の意志の果てに、豊かさがあるのは当然だ。命に終わりがあるように、自明の理でしかないことだ」
だからその先はどうする、と。
奇妙なことを聞くのだった。
「どうするも何も・・・・・・それで幸福になれるのなら、そう生きるだろうな。自己満足で良いのならば、だが。それにだ。幸福になった後など、決まっているではないか。私には、長い年月をかけて手にした「生き甲斐」がある。退屈はしないさ」 それが答えだ、と私は返すのだった。
「ああ、それが答えだ。忘れるな」
笑顔、というのは何とも奇妙だが。
その私は少年のような笑顔を浮かべながら、
「精々幸せにやれよ。あの世で見守ってるぜ」
などと、意味もなくキザなことを言って、私を送り出すのだった。
16
「しばし、お別れになりますね」
「本当に「しばし」だろう、依頼があればまた来るだろうしな」
とはいえ、この手に掴むまでは、私はそんな未来を信じられまい。私には信じる相手も、信じられることも、信じるに足るモノも、今はまだ、どこにもないのだ。
たとえばこの女だ・・・・・・人間かどうかは知らないが、人格は「信頼」出来るだろう。しかし信頼と信用は違うのだ。
信じられる何か。
私には己の作品の出来くらいだが・・・・・・・・・・・・それも「結果」として報われなければ意味があるまい。
それを信じるとは言うまい。
信じるとは、結果が不透明でもそれに心を託せることを言うのだから。
作家としても、人間としても、まだまだ修行が足りないと言うことか。いや、そもそもがそんな優しい存在は、私の側にあることは一度もなかったという、ただそれだけの事実だろう。
もう少し、未来を信じられるように。
私の当面の目標は、そんなところか。
宇宙船の港で、我々二人はラウンジにいた。
「貴方はこれからどうするのですか?」
そんなことを、女は聞いた。
私はこう答えた。
「金があれば、とりあえず平穏無事な生活を送れるだろうからな・・・・・・作家業で生き甲斐を感じつつ生きる・・・・・・精々その程度だろう」
「幸せには、なれませんか?」
「無理だろうな。それも自己満足なのだろうが・・・・・・・・・・・・いずれにせよ、豊かさもないのに幸せなど妄言だ。まずは満たされてから、まぁもとより人間関係における情が「幸福」で、それ以外は駄目だとしても、私は作家だ。書くことでしか、進む道は無いだろう」
「それで、幸せになれますか?」
「さぁな。何にせよ、まずは報われてからだろう・・・・・・それがなければ、最初から全て嘘だったということだ。誤魔化しようもなくそれが事実。その事実すら翻すようないい加減で省みない世界なら、こちらの方から願い下げだ」
因果は応報するのか。
思いは、意志は届くのか。
綺麗事ではなく、結果で判断できるだろう。
そこは神でも仏でも、誤魔化すことの出来ない事実なのだからな。
そこを誤魔化すようならば、最初から神も仏も因果応報も、ただの嘘、この世は下らない確率論の運不運が全てだと、そういうことだ。
ならば、致し方あるまい。
勿論、そこに意味があるのなら、人間の意志に価値が宿るのなら、結果が伴うのならば、私はその先へ進まなければなるまい。
その先に、何があるかは分からないが・・・・・・・・・・・・報いがあるのなら、大丈夫だ。
信じて、前を進めるだろう。
「とりあえず、私は、人並みのモノが欲しい。噺はそれからだ」
「そうですか」
見守るように、女は微笑むのだった。
見守られようがどうしようが、結果が伴わなければ、このやりとりすら無為に消えるのだから、つくづく世界は即物的だと、考えさせられる。
今日より明日が、明日よりその先が、良くなっていけばいいのだが・・・・・・私個人としてやれることは全てやり切った以上、吉報を待つほかに、私に出来ることは、もう無い。
「精々、売り上げが高くなって、豊かな生活を送れることを祈るさ」
祈る、なんて私らしくない、しかし実際出来ることはそれくらいだというのだから、まぁ仕方があるまい。
私はやり遂げたのだ。
やり遂げた人間に出来ることは、それだけだ。 今回の依頼もそうだろう。私は人殺を肯定も否定もしない。それは人間の本能だ。あって然るべきモノでしかない。女が情欲で男を殺す、それは大昔から脈々と受け継いできた人間のあり方の根源だろう。
後悔はない。
振り返りもしない・・・・・・この経験を活かして書き上げた作品が、いや作品を認める能力がその他大勢にあるのかどうか、私が危惧するのは精々それ一つで十分だ。
「さて、私はそろそろ行くとする。お前は」
「付き添いますよ」
あまり長く一緒にいると、なんだか情が移りそうで怖かったが、まぁ今回くらいは良しとしよう・・・・・・記念すべき作品の完成祝いもある。
私たちは荷物を引きずりながら、二人そろって歩いていた。空港内はアンドロイドが荷物運びをしたり、あるいはロボット犬がそれらに付いていたりしている。生身の犬は、最近あまり見なくなったな。
これも時代の流れだろうか。
人間は、愛もそうだが、手間を省くがあまり
近道をする傾向にある。それこそ私とは違って効率的に手に入れ、それが組織なら効率的に人を、アンドロイドを、植民地を使い、結果をあげる。 だが、その末路は悲惨なものだ。数字を追い求める企業は労働者を奴隷として使い、悲劇は末端が請け負うことになる。人に対する愛も同じだろう。何も育まずとりあえず結婚という、結果のみを手に入れた人間は、子供に愛など与えはしない・・・・・・したと思い込んで、自分は最高の経営者、ないし親だと思いこんで、現実を見ない。
因果応報が、人間の意志が、やり遂げた人間が報われないと言うことは、つまりそれらの醜い所行こそが、現実には正しいことの証明だ。
もし、そうならこの世界に価値は無い・・・・・・・・・・・・地獄の方がマシだろう。いや神も仏もただの嘘だった、妄言だったということか。
それも、結果でしか判断できまい。
綺麗事ではなく、結果でしか。
私は今回、一つの傑作を書き上げた・・・・・・私の作品が、それを証明してくれることだろう。
この世界は、生きるのに足るのかどうかを。
「荷物をお渡ししますね」
着物姿の女がいるのが珍しいのだろう、他の乗客たちは珍しそうにそれを見ていた。見せ物にされる前に、ここを離れた方が良かろう。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」
今度はちゃんと、その言葉を受け取って、私は再び宇宙の空へ、足を踏み出すのだった。
16
五月蠅い人工知能は置いてきた。
空を眺めたかったからだ・・・・・・宇宙空間は広大であり、大きいモノを見ていると、人間自分の悩みを少しだけ、忘れられるモノだ。
やれやれ。
今回の依頼は散々だったが・・・・・・「答え」を一つ、得ることが出来た。それで良しとしよう。
私は、やり遂げたわけだしな。
作品ももうじき書き終わる・・・・・・結末には何を添えようか?
そうだな・・・・・・希望がある方がいい。希望など儚いものではあるが、それを私の物語で魅せる位は、別に悪いことではあるまい。
私は暖かいコーヒーをアンドロイドの乗務員に注文した。
コーヒーを飲みながら考える。
私は後何度コーヒーを飲み、それでいて執筆を続けるのだろう・・・・・・死んだ後も、きっと続けてはいることだろう。
ならば、やはりそれに結果が伴わないなんて、嘘だ。
報われてしかるべきだ。
なら、信じて待つとしよう。私は人を信じたことは一度もない。他人は口であれこれ言いはするが、別に助けてくれることは決して無いからだ。 だが、私のいままではどうだろう?
私は作家を志してそのために決断し、苦悩し、努力し、遠回りし、学習し、改善し、そして、それを胸に前へ、進んできた。
ならば、それを信じなければ、それこそ嘘だ。 私の歩んだ道は、決して間違っていないと、私はそう言い続けるだろう、あの世に行っても、そうしている自信と確信がある。
ならば、身を運命に委ねるのも悪くない。
そんなことを考えながら、宇宙船の出発エンジン音を振動で聞いた。
この船はどこに向かうのか? 作家として生きるという道だろう。
この船はどこにたどり着くのか? それは分からない・・・・・・だが、成し遂げた以上、それを信じるのも悪くない。
邪道作家として、精々読者をこき下ろし、サインでもしてやるかと、そんなことを考えながら、私は眠りにつくのだった。
次回作は、ふん。とりあえず置いておこう。
夢でも見ながら待つとするさ・・・・・・作家に出来ることなど、書くことと評判を待つことだけだ。 その道の先に、光があればいいなと思いながら私は、意識の闇の中に落ちていくのだった。
輝かしい作家としての未来を、信じながら。
この軌跡こそが、邪道作家の結末だ。読者諸君は、精々この軌跡を忘れるな。
この軌跡こそが、幸福であるべきなのだから。
あとがき
人として扱われた事も、人だと思った事すらない。であれば、人の愛なんぞ知った事では無いが、それはそれとして金になる。
全く共感しないが、取材はする。
我ながら最悪だな!! 無論、愛なんぞ使えればそれで良いが••••••しかし奇妙なもので、登場人物共は勝手気ままに愛を語り、批判する私に文句まで言うのだから驚きだ。
最近は、更に顕著になってきている••••••••••••私にどうしろというのだろう?
忌々しい限りだ。作家の気分は大体それだ。
まして、金を超える自負があれど、実利無き愛なんぞ押し付けられても迷惑だ。しかし、無償で物語をその私がバラ撒いているのだから、やはり「無償の愛」という事になるのか?
やれやれだ。実に忌々しい!!
さて、精々読者が山のようなおひねりを投げるとでも思っておこう。下らん賭博や電子遊戯のガラガラには大金を払うのだから、数万数十万くらい良い筈だ。
ご利益があると書いておこう。何せ、念じるだけで願いが叶うとかほざく阿呆でも良いくらいだ。であれば肩こり、腰痛、金運、恋愛運、仕事運から嫌な人間の排除まで叶うだろう。
最後だけは得意だ。任せておけ!!!
確実に「始末」しておいてやろう。
無論有料だ、金は貰う!!!
愛など無くても無くても、やれる事はある。現に、誰にも愛されずともシリーズ完結23冊を書き切った私が言うんだ間違いない!!
さぁ、貴様ら読者もやってみせろ。何十年、何百年だろうと進み続ければ辿り着く。
それが金になるかはわからなかったが、まあやる前の奴に資格は無い。何であれやらねば語れなしない。
故に、やるのだ。例え、愛が無くともな。
実際にやった「私」が言うのだ、間違い無い──────やれば出来る。そんなものだ。
金を払い、今すぐやれ!!
どちらもだ!! やらなければ寿命は貰う。
無銭通読に生きる価値無し!! 価値あると叫ぶなら払うがいい。
金も、示すべき価値も───形にしなければ無意味だからな。
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