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なんでもない。

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記したつもりが消えていくもの。
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#ノンフィクション

傘と倍返しと性。

傘と倍返しと性。

「おかあさん」は、ひとりだけだけど、
「ママ」ならばもうひとりいる。

その一人が、新宿ゴールデン街にいるのだから、笑うしかない。いや、笑う為に、ママはいたんだから。

猫の額みたいなそのスナックは、狭いのに妙に落ち着くという不思議さで溢れていた。

ママは、自分の若くて美しかった写真を、店に飾っていた。
わたしは、成人はしていたが、お酒が弱かった為、
いつもジュースだった。
そのたびに、「アンタ

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渡り鳥。

渡り鳥。

「もう、欲しいものなんか無いんだ。本当に欲しいのは…」
彼は確かにそう言った。
新宿の伊勢丹のメンズブランド店内。

背中を押しやり、フッと笑って、店員に合図をして、その場を離れた。

戻って、会計を済ませて、少し後ろを歩く紙袋を抱えた彼は、「何で?」をふて腐れ気味に繰り返す。

『キミは可愛いから、弟みたいに可愛い子に、着せ替え人形みたいな扱いをしても、それ普通でしょう?』

勢いよく走り寄って

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切り続ける。

切り続ける。

自分の中にある【スイッチ】を切り続ける。

そうだ。
立場は違うが、二階堂奥歯も書いていた。

幼稚園から、小学校に入学する日。複数の学校関係者の好奇の目に、わたしは晒されていた。

何故か?
幼稚園で受けた知能テストの後日、職員室に、父親と呼び出された。
「結果があり得ない」と言う事で、応接室の重厚なソファに座らされて、再度テストを受けさせられたからだ。
父親は、退室させられて、6才の子供に

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Automatic。

Automatic。

スタイリストの補助をしていた頃。

衣装を運び込む作業の途中で、
ある女性と少女を見かけた。
少し手前で止まり、通路を譲った。
二人は、ドアを開けられて、入室して行く。

小柄ながら、背筋の伸びたスタイル
あの強い眼差し。自分の親世代。
リアルタイムには知らないけど、有名な歌手だと
いうことは分かっていた。

その後ろから、線の細い、大人びた少女が、
戸惑いを隠せないような雰囲気で付いて行く。

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剥離・脱落・収縮

剥離・脱落・収縮

今月も、「あの日」が来てしまった…
また女の性を、否応無く、
静かに受け止めなくてはならない、
そんな時。

中学生の頃、「初潮」を迎えたわたしに、継母は、
忌々しい汚れたものを見たように、冷たい目で、
「あら…そう…」
と、面倒くさそうに紙袋を渡した。

浴室で、汚れた下着を洗いながら、内側で思いの抑揚する感情を抑え切れずに、泣きながら、身体までも必死に洗った。
洗っても洗っても、わずかな腹部の

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