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ひねくれ偏食家の、読書挑戦録

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「流行っているものは読まない」と意地をはってきた、ひねくれ者(偏食もち)が、本を読み、世界を広げて行く過程の記録もろもろ。 他にも、読書や本に関するエッセイ・コラムを集めています
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2019年6月の記事一覧

「過去型」と「未来型」~三宅香帆さん『バズる文章教室』を読みながら

「過去型」と「未来型」~三宅香帆さん『バズる文章教室』を読みながら

 少し大きめの書店に行くと、必ず足が向いてしまうのが、文章や小説の書き方についての本が集まるコーナーである。つい先日も、なにげなく足を向けたジュンク堂書店で、平置きされていたこの本を見つけてしまった。

 「バズる」…つまりは、ネットなどで爆発的に広まること、認知されること。私自身、文章書きの端くれとして、夢見ても見足りない現象である。

 即座に購入したのは言うまでもない。今日も出勤中の電車の中

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仏像にはまった話~運慶の金剛力士像と、澤田瞳子『満ちる月の如し』と

仏像にはまった話~運慶の金剛力士像と、澤田瞳子『満ちる月の如し』と

 好きな仏像は、と問われれば、私は運慶の作った像を挙げるだろう。

 たとえば、東大寺南大門の金剛力士像。

 奈良への旅行で、間近で見た際、私は地面を踏みしめる足に向けて何度もシャッターを切った。

 そこがちょうど目の高さにあったからだけではない。

 重量感、力強さ、存在感…像の持つ様々なエッセンスが凝縮されているパーツと感じたからだ。

 こんなに力強い像を作れる人が、日本にいたのか。

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仏像を見に行く人にオススメしたい本4冊

仏像を見に行く人にオススメしたい本4冊


 仏像、と一口に言っても、様々だ。
 悟りの境地に達した如来、しなやかに体をくねらせ、アクセサリーをふんだんにつけた菩薩、武器を手にした恐ろしげな明王。
 時代によって、また国によって顔が違うのも面白い。(父が出張先のミャンマーで撮った仏像は、アウンサン=スーチーさんにどことなく似ていた)

 そんな仏像を見て回りたい人に、僭越ながら是非読んで欲しいと思う本がいくつかある。

・真船きょうこ『仏

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澤田瞳子さん『龍華記』読了

澤田瞳子さん『龍華記』読了

 いやあ、すごいものを読んだな…

 昨日の夜から読み始めて一息に半分、そして今朝はその残りを、あっという間に駆け抜けてしまった。

 書かれているのは、平家による南都焼き討ちと、そこからの興福寺の復興、関わった人々の懺悔と苦悩、そして救いを求めて生きる姿だ。

 その中に、メインの主人公である悪僧範長と、その従弟で別当として高い身分にいる信円とが配置され、対比される。

 範長は、摂関家という貴

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一日に一つ、短編小説を読もう

一日に一つ、短編小説を読もう

 連作短編を書きたい、と思うなら、やはり「短編小説」というものについて、今一度見直したい。

 そう思い立って、本棚を見渡したが、見事なまでに分厚い文庫本ばかりが並んでいる。上下からなる二巻本はざら。四巻からなる深緑の背表紙の本は、宮城谷昌光さんの『楽毅』と『妟子』。

 そして、最近話題になった本、ベストセラーというものが見当たらない。

 単行本は高いから、あまり買いたくない。みんなが買うから

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甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

 果物を盛り付けた籠か。

 それとも、美しい石を連ねたネックレスかブレスレットか。

 米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』を、例えるならば後者の方が良いかもしれない。

 連作短編という形式を持つのが一つ。

 個々の話は独立して読むこともできるが、「バベルの会」という読書会が透明な糸(テグス)となって、緩やかに繋がっている。

 「バベルの会」とは、夢想家のお嬢様たちが集まる読書サークルだ。

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就活中に読みたかった本

就活中に読みたかった本

 就活中に、あるいは、就活をすると決めた時に、この本に出会えていたならなあ。

 そう思えるのは、それが既に過ぎ去った事だからだ。

 蛙の腹を切り開いて、内臓の位置を確かめるように、「過去」についてなら、心構えさえちゃんと整っていれば、冷静に向き合って、分析することは不可能ではない。

 社会に出て「働く」、ということの意味は何だろう。

 お金のためもあるかもしれない。

 生きていれば、楽し

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パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

 始まりは、パワハラの告発だった。

 誰もが認める会社の稼ぎ頭であるエリート課長・坂戸を、「居眠り八角」と呼ばれる万年係長・八角が訴えて出た。

 役員会が、どちらの肩を持つか、は自明とも言えた。

 しかし、役員会が下した決定は、その予想を大きく裏切るものだった。

 一体なぜそんなことになった?

 坂戸の後任となった、原島が八角に問う。

 その答えは、大掛かりな会社の「闇」とも言うべき内

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気になる本~向田邦子さんのエッセイと、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』と

気になる本~向田邦子さんのエッセイと、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』と

 向田邦子さんのエッセイ(確か、『父の詫び状』に入っていたと思う)に、こんな話があった。

 向田さんが幼い頃、何かの記念で写真を撮ることになった時、横に紙幣が落ちているのに気づいてしまった。

 拾いたいが、動いてはいけない。この時代は、すました顔で写っていなければならない。だが、どうしても気になって仕方ない。

 結果、大人になってからその写真を見直すと、一応正面は向いているけれど、眼はひたす

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