KILLING ME SOFTLY【小説】17_この子と結婚するんだ
あたかも友人の如く仲が良い親子の会話に耳を傾けながら着いたのは、散歩には最適な距離にある戸建てだった。
近所はいずれも大同小異だが、広々とした庭に美しく彩りを添える数々の手入れが行き届いており、自動車が2台停まっていた。
故に集合住宅以外では暮らすことなく月日を送る自分と〈貧富の差〉を痛感する。
千暁の母親・眞紀ちゃん(正確には眞紀子さん)は一重で切長の瞳に筋が通る鼻と薄い唇を持ち、艶やかなロングヘアを束ねた女性。
彼の主な顔の作りは母から血を引くと見て取れ、物腰が柔らかく温かな雰囲気を漂わせる、豊さんとは対照的に厳しそうで近寄り難い印象を受け、私はより一層、緊張した。
居間へと案内され、家族が揃ったところで一呼吸置き、再び自己紹介する。
「改めまして、予てより千暁さんとお付き合いさせていただいております、深澤莉里と申します。24歳です。本日はお忙しい中お時間を割いていただき、ありがとうございます。お目にかかれて光栄です。よろしくお願いいたします。」
「あらまあ、ご丁寧に。ねえあなた、そこまで身構えなくてもいいのよ?」
「ぶっちゃけ母さん怖いもん。」
千暁が余計な口を挟み、豊さんは笑う。
冷や汗が流れ、何度も首を横に振ったが、眞紀子さんはいつもこうなの、と呆れた様子だ。
「親バカだと思うでしょうけど…上の子と歳が離れててね…うちは娘がいないし、彼女が出来たなんて聞いたら、どうしたって会いたくなるじゃない?凄く綺麗なお嬢さんで嬉しい、千暁には勿体無いわね。」
「音楽で繋がって、あっくんが高校生の頃からの友達だったみたい。」
「まず遠距離、てか俺がハタチになった今年の誕生日でようやく付き合い始めたんだよ。」
あまりにも溶け込めず、コミュニケーション能力の低さを恨む。