マガジンのカバー画像

10
自分が書いた詩をまとめていきます。
運営しているクリエイター

#詩

三ツ矢サイダー
〜ビルマにて散りゆく大伯父に捧ぐ〜

三ツ矢サイダー 〜ビルマにて散りゆく大伯父に捧ぐ〜

白きインパール
息子は散りゆく
紫色の太陽が甲板を照らす
隊列を仕切るその眼差しには
淀みなく気概が溢れ
惜別の情をひねり潰す
「できれば三ツ矢サイダーを一本、買ってきてはくれないか」 
突然の無邪気な願いは
私の一生の悔恨と化す

***

白きインパール
貴方は散りゆく
ただ一度よこした土色の手紙には
道頓堀で握った手の温もりが宿る
片道切符を握らせた何者かに
私の慟哭は届きはしないが
せめて

もっとみる
お世話になります。お便器ですか?

お世話になります。お便器ですか?

「死霊を添付しましたので、子宮、ご変身のほどよろしくお願いします。」

ここまで酷い誤変換メールはないかもしれないが。
誰しも一度はとんでもない誤変換をして、メールやメッセを送ってしまったことはあるのではないだろうか。

私は数多ある。

予測変換の精度が高まっているのにも関わらず、Spaceキー押しすぎたり、手元が狂ったまま狂った内容を送ってしまう。送り先によっては血の気が引くかもしれない。でも

もっとみる

変と換

いつも推せは担っております 
死霊を添付しましたので、ご詐取うください 
子宮、ご変身のほどよろしくお願いします

お元気ですか、私は現金です
こちらは毎日、織田や仮名日々を送っています
あなたが孵ってくるまで、楽しみに舞っています

Space
Enter
Back Space
Back Space

六時のニュースです
政治家の父称事が
話題になっています

昨夜、男に合歓された少女が
ビルの

もっとみる
マダラエクスタシー

マダラエクスタシー

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
まだ夜が明けぬ太平洋で
たゆたう星々を眺める時間
端末の電波はいつしか途切れ
今人は大海の客人と化す
次第に薄れゆく星々に釣果を祈り
日々の愚行を懺悔する

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
錆れたスクリュー音
甲板に打ちつける波音
電脳を排した時間
夜明け前には竿を揺らし
小便の音を波に混ぜる
陽が昇れば鴎たちと
アンサンブルがはじまる

真冬のマダラ釣りには醍

もっとみる
シブヤアナーキー

シブヤアナーキー

「搾取されるな」

チョーク六文字分
担任が摩耗する
最後の教室
青漆の黒板

三年の思い出に浸りながら
ロマンチックがしたい十八の私たちには
その六文字はあまりに無骨であったし
周波数のズレたラジオのように
交錯しないひとときが流れた

もっと
明日の
いや
今晩の
ロマンチックを夢見ていたい

そんな私たちは
いまや三十路を跨いで
酸いも甘いも知ったかのような
顔つきで生きている

終電を逃す

もっとみる

タニシ

どうしたって明日は来る
金魚鉢のタニシ
メトロノームの口
ガラスに付着した藻を貪るばかりで
慰めの言葉一つもかけてやくれない

(ブ サ イ ク)
(カ ワ イ イ)
(ブ サ イ ク)
(カ ワ イ イ)

抱えたひざは脳天を突き刺し
臀骨はフローリングと同化する

今日、わたしは真朱のルージュで家を出る

プノンペンの夏

三輪車が巻き上げる
骨と肉片の砂埃
幾重にも重なる頭蓋骨は
自らの用途と存在意義を
観る者に委ねる

キリングフィールド
木々
花々
薫風
散開

赤子の頭を打ちつけた大樹
髄液
涙滴
爾今
散開

どうだい日本人
次は射撃場で一発
派手にやらないか

三輪車は止まれない
プノンペンの夏

海岸線の先に

海岸線の先に

言葉の切れ端を集めながら、海岸線を歩く
貝殻の裏に
テトラポッドの先端に
波打ち際の湿った土の上に
見つけては つまみ取る

手のひらに一つ一つ重ねながら
そして
次第に両手で抱えるほどのそれは
可笑しいくらいに不揃いだった

アスファルトの上に広げてみると
なんだ、阿保らしい
それらは全て私の口癖だった

けれど西陽のせいだろうか
色がやわらかに、形がかろやかに見えるのは

なんだ、阿呆らしい

もっとみる
アーケードから

アーケードから

目を細め、天を仰ぎながらアーケードを歩く
そこに広がるは破れたビニール屋根と
いつから切れたかもわからないガラスの照明の連なり
千切れた屋根にぶら下がるは
哀愁と懐古と祖母に手を引かれて連れられた日の温もりであった

肩を窄め、俯きながらアーケードを歩く
そこに広がるは幾何学にも見えうる割れたタイルの連なり
連綿と続くその溝の果てには
遥か彼方
記憶の端にコツリと落ちた駄菓子のクズが顔を覗く

もっとみる
山椒散開

山椒散開

山椒ピリリ、麻痺させて

痺れて不感にさせてみて
酸いも甘いも忘れた先に
真の快をもたらすの

山椒ピリリ、汗吹かせ
毛穴を広げ、したたらせ
頬を伝う一筋は
畜生のタトゥーと化すの

山椒ピリリ、香らせて
腐卵の街をかき消して
鼻腔の奥に突き刺す香は
都会の迷彩脱がせるの

山椒ピリリ、呼び醒ませ
虚な目の奥、火を灯せ
片目を瞑って構えたキューで
眠った何糞、散らかすの