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マダラエクスタシー

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
まだ夜が明けぬ太平洋で
たゆたう星々を眺める時間
端末の電波はいつしか途切れ
今人は大海の客人と化す
次第に薄れゆく星々に釣果を祈り
日々の愚行を懺悔する

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
錆れたスクリュー音
甲板に打ちつける波音
電脳を排した時間
夜明け前には竿を揺らし
小便の音を波に混ぜる
陽が昇れば鴎たちと
アンサンブルがはじまる

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
かじかむ手のひらに
溟海の鼓動が香る
鉤に突き刺す秋刀魚の切り身が
ゆらゆらゆらめき銀導線と化す
マダラの香は大気圏に弾け
スモッグで麻痺した鼻腔を浄化する

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
竿を握り
リールを巻く手に
潮流と躍動と疑心
引き締まった速筋との格闘は
海上から船上へと移り
手中に清爽な疲労をもたらす

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある
丁か半か
白子か鱈子か
年の瀬にたんと蓄えた博打
静静と割腹した先には
舌上にため息が転がる
生殖は生食となり
泉下の魚となる

真冬のマダラ釣りには醍醐味がある

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