文香ヒロ / AYAKA HIRO

文筆調香家。調香は文筆。 空間における香りのコンセプト設計から調香までをデザインしてい…

文香ヒロ / AYAKA HIRO

文筆調香家。調香は文筆。 空間における香りのコンセプト設計から調香までをデザインしています。日常をリリカルに。

マガジン

  • 100文字詩

    詩は言葉の寺。 100文字の詩をしたためていきます。 気軽に、きちんと。 制約の中にある自由を。

  • エッセイ

    自分が書いたエッセイをまとめています。

  • 自分が書いた詩をまとめていきます。

最近の記事

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おじいちゃん、インパール作戦について教えて欲しいんだ。

今年も大阪に夏が来た。 近鉄電車に揺られ上本町駅で降りる。 全身にまとわりつく湿気とアスファルトから照り返す日差しが、東京のそれとは一味違うことを教えてくれる。 私は一人、墓花を手にさげながら連綿と続く先祖たち、そしてインパールの地で散った祖父の兄に思いを馳せていた。 おじいちゃんの話を聞かせて欲しい東京のスタートアップでせわしく過ごす日々の中、ずっと先延ばしにしていたことがあった。私はふと思い立ち、それについて大阪に住む祖父(93歳)に電話をかける。 「おじいちゃん

    • 名前をひらがなで書いていると、忘れていた何かを思い出す

      自分の名前を全て漢字で書けるようになったのはいつからだろうか。 小学校へ入学したてのころは、わら半紙で刷られた解答用紙に全てひらがなで名前を書いていたように思う。 母親が仕立ててくれた給食袋には先月まで幼稚園児だった私や同級生でも読めるようにと、ひらがなで書かれた名前シールがアイロンで圧着されていた。 その頃はまだまだ私もひらがなのように丸く柔らかかった。 学年を重ねるに連れ、国語の授業では新たな漢字と出会いはじめる。その中に自分の漢字が混ざっていると得意げに何度もノ

      • 秋、中天に楕円球。

        秋風が吹き始めると私は大きく深呼吸をする。鼻の奥が少しだけ冷たくなり、ツンとした香りが鼻腔で踊り出す。 「ああ、今年もやって来た」 心の中でそう呟いて、また息を吸いながら目を閉じる。すると、どこからか芝生の香りと誰かの歓声が聞こえてくるのであった。  学生スポーツがクライマックスを迎えるのは(種目にもよるが)主に夏から秋にかけてだろう。最上級生たちは引退をかけて、最後になるかもしれない一戦に臨んでいく。 かくいう私も22歳の冬まで楕円球を追いかけていた。  夏。全身

        • 祖父と交わした生き方の約束

          「ヒロちゃん、ええか。最後は人に使われない人になりなさい」 2年前に他界した母方の祖父は生前、私に金言をたびたび投げかけてくれた。私は時折、その言葉たちを反芻しながら人生とキャリアの中長期計画を描いては修正し、描いては修正しながら東京の片隅で生きている。 祖父は生粋の大阪あきんどだった祖父は戦後、大阪船場にある生地の卸売屋からキャリアを始めた。その後、ヌーベルやルシアンといったアパレル企業を経たのちに独立、起業する。独立してからは東大阪のアパレル商社として手編みのニット製

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          20本
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        • 10本

        記事

          歯ぶらし

          夜行性の朝 スーパーカブのエンジン音に 鳥たちはあくびを重ねる 薄明けに孤独を半分預けて 父は生ぬるい蛇口に そろりと手をかけた 洗面台のコップ 黄色いアヒルの子 小指ほどの歯ぶらしは 今日も背を伸ばし 二度目の夏が来る

          ヘアゴム

          生まれて一年も経てば そうか 髪は目にかかり 首元でへばりつく 私は指先に ヘアゴムを忍ばせ 結いにかかった けれど あなたと絹の髪は すり抜ける 不器用な父は 自らの髪を結い 指にいろはを覚えさせ 今日もあなたに挑むのだった

          ファーストシューズ

          前かがみになりながら 膝を小さく折りながら たんぽぽが根を張るほうへ 手を差し伸べる そちらから芽出る小さな手は 迷いなく たった一本 人差し指を むんずと包みこんだ おろしたてのスニーカーは 一定のリズムを まだ知らない

          ファーストシューズ

          指さし

          ちいさな指を一本一本 まじまじと 眺めながら 舐めながら 確かめてみる 関節と関節は肩寄せ合い グー、パー パー、グー チョキはまだできない けれども 指さしするのはお得意で 今日もパパに 桜が咲いているのを 教えてあげました

          ストロー

          ひと匙の意志 米粒は宙を舞い 床で踊る パン屑は背もたれに隠れ ひき肉はポケットに眠った 陽光は今日も燦々と キッチンを目覚めさせ 私たちをそこに立たせる 噛み潰したストロー 刻み込まれた歯跡 0歳の君はもうここにいない

          さざなみ

          さざなみの寝息 引いては満ちて 3度目の朝が来る 丑三の咆哮けたたましく 土筆は大気圏まで伸び 白梅はグリニッジまで香る 鼓動と鼓動を重ね合わせて 二つが一つになる時 さざなみは遠くから打ち寄せ 4度目の夜が今日も来る

          カウントダウン

          明滅する心拍 去り際のまたね パパ お父さん オヤジ ママ お母さん オカン 3 耳をふさいで 2 目を瞑っても 1 高らかなUNO 夕暮れを頬張る口 肩に座るよだれ 胸に刻まれた鼻水  UNOを言い忘れたら また訪れるだろうか

          初めて君は

          今年、初めて夏を迎えた君は 虹色の汗をかいた 今年、初めて秋を迎えた君は 旬のヨダレをこぼした 今年、初めて冬を迎えた君は アヒルの子を湯船に住まわせた 今年、2度目の春を迎えた君は 土踏まずのない足で朝を蹴飛ばす

          宝石

          パン屑の宝石を拾って 人差し指から離陸する 上空70cmを右から左へ旋回し 真新しい前歯は 確かめるように宝石を受け入れた パン屑は喜色 灰色の屑も塵も 彼女につままれた瞬間 喜色となる 私達が忘れた色がそこにはあった

          親友

          イルミネーションを 電気飾りというあまのじゃくは 12月に浮かれることのない あなたへの慕情 人間で詰まりそうな表参道を眺めて バカみたい と呆れる あなたの右手を そっと引き寄せて バカみたい と浮かれながら 歩けたなら

          よだれ顔

          とかく 語りたがりな私たちは いつしか饒舌に ロジカルに 時に エモーショナルに 手から口からプレゼンをする けれども 言葉はあればあるほど 分かり合えず 伝わらない そうした脆さと未熟さを よだれ顔で笑う 赤子が教えてくれる

          平成ガラパゴス

          触れるとベタつき 溶けて無くなる イヤホンのスポンジ カセットテープは巻き戻ることもなく 燃えるゴミの袋 部屋の片隅に残るのは 充電器が無い二つ折り電話 電池パック裏のプリクラ 保護を外せないまま 底に溜まるメッセージ