哲学と芸術について

■社会人 ■本(人文学/小説/実学書etc...)、芸術、音楽 ■思ったことを書いてい…

哲学と芸術について

■社会人 ■本(人文学/小説/実学書etc...)、芸術、音楽 ■思ったことを書いていきます。 ■社会彫刻一覧 https://linktr.ee/yuki_wakabayashi

記事一覧

決定的な存在の不在ーデ・キリコのメタフィジカルな旅

◼︎イタリア広場シリーズ まずは、一番印象的だったイタリア広場シリーズに注目したいと思います。記載している絵は、すべてデ・キリコ展公式HPからの引用になります。 …

朱喜哲×渡邉康太郎『人類の会話のための哲学』刊行イベント at 青山ブックセンター

2024年3月31日(日)に、哲学者の朱喜哲氏とコンテクストデザイナーの渡邉康太郎氏による対談イベントに行ってきました。だいぶ遅くなってしまいましたが、ふたりの思想の重…

”サイバーパンク:エッジランナーズ”から考えるー容赦のない存在と余剰

▫️”サイバーパンク:エッジランナーズ”とは 久しぶりにアニメを見たので、”Sonny boy”に続き”サイバーパンク:エッジランナーズ”の感想を書いて見ようと思います。…

"すべてがFになる"ー文章の背後にある存在論の正体

『すべてがFになる』は森博嗣によるミステリー小説で、1996年に、第1回メフィスト賞を受賞。ミステリー小説の金字塔となっている。 内容は、「孤島のハイテク研究所で、少…

2023年に読んだ本

年の瀬になったので今年読んだ本をまとめてみようと思います。 ▶︎2023年に完読した本(時系列順)・ユヴァル=ノア=ハラリ『ホモ・デウス(上)』河出文庫(2022) 話題す…

真なるものは全体ではないー”ヒューマンカインド”から考える新たな全体

▫️真なるものは全体である? 今まで「真なるものは全体である」という言葉が好きだった。それはヘーゲルが意図した理解とはおそらく異なっている。 ヘーゲルは「個々人の…

羊文学”more than words”とアニメ”Sonny boy”から考えるー近代有限性以降の世界

◼︎羊文学”more than words”における有限性 この曲のポジティヴな部分はきっとみんなが前向きに色々考えてくれると思うので、今回は主に悩んでいる部分について取り上…

『君たちはどう生きるか』ーシュールレアリスムから考えるジブリ

◾️シュールレアリスムとの出会い 去年の7月にポーラ美術館にいった際や、今年の1月に国立西洋美術でピカソを見てから、シュールレアリスムが気になっていたため、巌谷國…

よくある歴史と未来の相似形

坂本龍一"async"から考える「音楽」と「音」の境界線

◼︎"async"というアルバム "async"というアルバムは、2017年に発表された坂本龍一さん(以下敬称略)によるアルバムで、直訳すると「非同期」という意味になります。 2023年…

個別な物語をいかにして認めるかーハンナ・アーレントから考える多様性のあり方

▫️ハンナ・アーレントからみるアイヒマン 前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいました。今回は、フランス現代思想の流れから興味を持った、ハンナ・アーレントを引用…

羊文学”OOPARTS”とドゥルーズ+ガタリ

■羊文学の「パラノイア」 ■ドゥルーズ+ガタリの「パラノイア」 タイトルにある、ドゥルーズ+ガタリとは、フランスの哲学者のジル=ドゥルーズと精神分析学者のフェリ…

両手の思考ー自分と他者の分かちがたいつながり

■フランス現代思想 「構造主義」を唱えたことで有名なレヴィ=ストロース、その後「脱構築(デコンストルクシオン)」という考え方を打ち出したジャック・デリダ、「脱領土…

現実と再現に新たな関係性を結ぶーピカソの時代とあるべき秩序

国立西洋美術館で「ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」を見てきたので、初投稿も兼ねて感想を書いてみます。 ◼︎ピカソのキュビズムと社会へのアン…

決定的な存在の不在ーデ・キリコのメタフィジカルな旅

決定的な存在の不在ーデ・キリコのメタフィジカルな旅


◼︎イタリア広場シリーズ

まずは、一番印象的だったイタリア広場シリーズに注目したいと思います。記載している絵は、すべてデ・キリコ展公式HPからの引用になります。

フィレンツェにある、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂や街並みを見てみると絵本の中にいるような、建物がはりぼてのような印象を受けます。
線形で幾何学的な建物の重なり、その建物の影が織りなす陰影。キリコにもおそらく、背景の空と一体

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朱喜哲×渡邉康太郎『人類の会話のための哲学』刊行イベント at 青山ブックセンター

朱喜哲×渡邉康太郎『人類の会話のための哲学』刊行イベント at 青山ブックセンター

2024年3月31日(日)に、哲学者の朱喜哲氏とコンテクストデザイナーの渡邉康太郎氏による対談イベントに行ってきました。だいぶ遅くなってしまいましたが、ふたりの思想の重なりが非常に面白かったので、イベントの感想を書いていきたいと思います。

◼︎私が触れた朱喜哲氏の著書私は、100de名著『偶然性・アイロニー・連帯』で初めて朱喜哲氏の著書に触れました。(『偶然性・アイロニー・連帯』はリチャード・ロ

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”サイバーパンク:エッジランナーズ”から考えるー容赦のない存在と余剰

”サイバーパンク:エッジランナーズ”から考えるー容赦のない存在と余剰

▫️”サイバーパンク:エッジランナーズ”とは

久しぶりにアニメを見たので、”Sonny boy”に続き”サイバーパンク:エッジランナーズ”の感想を書いて見ようと思います。アニメを見終わったら大体、”I Really Want to Stay at Your House”を一週間は無限リピートすることになると思いますが、まだ見たことないよという人もぜひNetflix公式の1時間耐久AMVをご覧くだ

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"すべてがFになる"ー文章の背後にある存在論の正体

"すべてがFになる"ー文章の背後にある存在論の正体

『すべてがFになる』は森博嗣によるミステリー小説で、1996年に、第1回メフィスト賞を受賞。ミステリー小説の金字塔となっている。

内容は、「孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士・真賀田四季(まがたしき)。彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川創平と学生・西之園萌絵が、この不可思議な密室

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2023年に読んだ本

2023年に読んだ本

年の瀬になったので今年読んだ本をまとめてみようと思います。

▶︎2023年に完読した本(時系列順)・ユヴァル=ノア=ハラリ『ホモ・デウス(上)』河出文庫(2022)

話題すぎて読んでおかなきゃなと思って読み始めた本。整形技術は、元々負傷兵の
傷を元に戻そうとする技術であったが、今はより良くなるような技術として使われいているように、何かを克服するための技術は、一度発展するとより良い状態になるため

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真なるものは全体ではないー”ヒューマンカインド”から考える新たな全体

真なるものは全体ではないー”ヒューマンカインド”から考える新たな全体

▫️真なるものは全体である?
今まで「真なるものは全体である」という言葉が好きだった。それはヘーゲルが意図した理解とはおそらく異なっている。
ヘーゲルは「個々人の最高の義務は国家の成員であることである」というように、国家という全体=真なるものという。ここには個々人よりも国家(全体)を優先する思想がある。

個人的に「真なるものは全体である」というヘーゲルの言葉を、人にはさまざまな側面や見え方があり

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羊文学”more than words”とアニメ”Sonny boy”から考えるー近代有限性以降の世界

羊文学”more than words”とアニメ”Sonny boy”から考えるー近代有限性以降の世界

◼︎羊文学”more than words”における有限性

この曲のポジティヴな部分はきっとみんなが前向きに色々考えてくれると思うので、今回は主に悩んでいる部分について取り上げていきたいと思います。
2番のAメロにも「決めきれない自分にグルグルグルする」という歌詞があることからもわかるように、”more than words”の中には、過去への後悔と未来の可能性に対して今自分がどう行動するべきな

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『君たちはどう生きるか』ーシュールレアリスムから考えるジブリ

『君たちはどう生きるか』ーシュールレアリスムから考えるジブリ

◾️シュールレアリスムとの出会い
去年の7月にポーラ美術館にいった際や、今年の1月に国立西洋美術でピカソを見てから、シュールレアリスムが気になっていたため、巌谷國士さんの『シュールレアリスムとは何か』を手に取りました。『シュールレアリスムとは何か』は、「シュールレアリスム」「メルヘン」「ユートピア」の3部構成になっており、特に「シュールレアリスム」の中では、アンドレ・ブルトンの自動記述を中心に、現

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坂本龍一"async"から考える「音楽」と「音」の境界線

坂本龍一"async"から考える「音楽」と「音」の境界線

◼︎"async"というアルバム
"async"というアルバムは、2017年に発表された坂本龍一さん(以下敬称略)によるアルバムで、直訳すると「非同期」という意味になります。
2023年に発売された坂本龍一と分子生物学者の福岡伸一さん(以下敬称略)の対談をまとめた『音楽と生命』の中で、このアルバムのタイトルについてこう述べられています。

さらに坂本龍一は音楽を作ることに対して以下のような見解を述

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個別な物語をいかにして認めるかーハンナ・アーレントから考える多様性のあり方

個別な物語をいかにして認めるかーハンナ・アーレントから考える多様性のあり方

▫️ハンナ・アーレントからみるアイヒマン

前回の投稿からだいぶ時間が経ってしまいました。今回は、フランス現代思想の流れから興味を持った、ハンナ・アーレントを引用しながら「多様性」について考えていきます。読んだ本はこちら。

ドイツ出身のユダヤ系政治思想家であるハンナ・アーレントは、アドルフ・アイヒマン(元親衛隊(SS)中佐、ユダヤ人移送の責任者)のイェルサレムにおける裁判を傍聴し、”陳腐な悪”も

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羊文学”OOPARTS”とドゥルーズ+ガタリ

羊文学”OOPARTS”とドゥルーズ+ガタリ

■羊文学の「パラノイア」

■ドゥルーズ+ガタリの「パラノイア」
タイトルにある、ドゥルーズ+ガタリとは、フランスの哲学者のジル=ドゥルーズと精神分析学者のフェリックス=ガタリのことです。フーコーやデリダと並ぶフランス現代思想の巨匠です。
ドゥルーズ+ガタリは共著で有名な書物を残しており、それらは、『千のプラトー』や『アンチ・オイディプス』です。

見ていただければ分かる通り、どちらの本にも『資本

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両手の思考ー自分と他者の分かちがたいつながり

両手の思考ー自分と他者の分かちがたいつながり

■フランス現代思想
「構造主義」を唱えたことで有名なレヴィ=ストロース、その後「脱構築(デコンストルクシオン)」という考え方を打ち出したジャック・デリダ、「脱領土化」や「リゾーム」など様々な新しい概念を考えだしたドゥルーズとガタリ、「パノプティコン」という新たな支配関係を明らかにしたミシェル・フーコーなどがフランス現代思想のスターたちです。レヴィナスやアーレントもこの系譜に近いのかもしれません。

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現実と再現に新たな関係性を結ぶーピカソの時代とあるべき秩序

現実と再現に新たな関係性を結ぶーピカソの時代とあるべき秩序

国立西洋美術館で「ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」を見てきたので、初投稿も兼ねて感想を書いてみます。

◼︎ピカソのキュビズムと社会へのアンチテーゼ
ピカソといえばキュビズムで、キュビズムとは下記の通り。

のような現代美術の動向であると。この「いろいろな角度から見たものの形ひ一つの画面に収める」というキュビズムは、複数の視点から物事を見ることの象徴のように感じた。そうだとす

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