高橋 文

日々の出来事からの連想エッセイを書いています。

高橋 文

日々の出来事からの連想エッセイを書いています。

記事一覧

ノートを携えどこまでも

Evernoteの日本法人が解散するというニュースを読んだ。もうかれこれ10年以上、主には料理のレシピの保存のためにこのアプリを利用していた私は、とりあえずサービスが継続…

高橋 文
7日前
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人見知りの晩餐会②

そんなこんなで初対面のお嬢さんが我が家にやって来た。事の顛末はこちらを。 今年28歳、友人の彼女の姪っ子という、近いようで遠い初対面の彼女は、大変礼儀正しく愛らし…

高橋 文
2週間前
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人見知りの晩餐会①

ひと月ほど前に、私のスマホにメルボルンの友人からメッセージが届いた。内容を読んで、そして一旦そっと閉じた。 「やあ元気?来月、僕のパートナーの姪っ子が東京に行く…

高橋 文
2週間前
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素敵な病

昨晩、歌舞伎好きの友人と片岡仁左衛門、坂東玉三郎を目当てに四月大歌舞伎を訪れた。舞台は本当に素晴らしく、帰り道に昂る気持ちを共有したくて居酒屋で日本酒でもどうか…

高橋 文
3週間前
1

人が桜に熱狂するのは

今年は昨年に比べて桜の開花が遅かった。暖冬だと言われた割には冬の終わりは長く、冷え込んでいたため、春が待ち遠しい人も多かったに違いない。 私の家の近隣は桜並木…

高橋 文
1か月前
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碑は忘れ去られ、歴史は繰り返す

子どものころから痛みには強かった。膝を擦りむいては「あ、痛い」、指を切っては「あ、切った」と、割と冷静だったように思う。痛くないわけではなかったが、それがシグナ…

高橋 文
1か月前
3

自炊輪廻から抜け出せない

自炊が好きである。 冷蔵庫を開き、しんなりしてきた野菜やなかなか減らない調味料などをひっぱり出してきて「ふむ」と少しだけ考える。考えると言ってもどんなご馳走を作…

高橋 文
1か月前
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ぼくのわたしのドリームハウス

数年で齢80歳を迎えるアラハチの母が、所謂「終活」に本腰をいれた。父が他界し、兄も私も独立してから猫と暮らす毎日は「(お父さんには悪いけど)今が1番幸せ」というこ…

高橋 文
1か月前
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無形骨董品へ愛を込めて

先日のエッセイで祖母の話を書いた。鰻を食すアントワネットである。 そんな祖母は名前をギンと言った。名古屋のキンさんギンさんが人気を博して30年ほど経つが、我が祖母…

高橋 文
2か月前
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鰻を食べなきゃ死んじゃうの

今日は土用の丑の日でも、ましてや鰻を食べたわけでも何でもない。桃の節句だ。昨日、老いた母に会いに実家に帰り、取りとめのない話から今度鰻を食べに行こうという話にな…

高橋 文
2か月前
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ノートを携えどこまでも

ノートを携えどこまでも

Evernoteの日本法人が解散するというニュースを読んだ。もうかれこれ10年以上、主には料理のレシピの保存のためにこのアプリを利用していた私は、とりあえずサービスが継続的に使えると聞いてほっと胸を撫で下ろした。最近は利用も減っていたが、追々コンテンツの引越しも考えなければいけないだろうと、レシピ以外にも書き留めていたものを読み返してみた。

それはタイムカプセルだった。いつどのように出会ったのか

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人見知りの晩餐会②

人見知りの晩餐会②

そんなこんなで初対面のお嬢さんが我が家にやって来た。事の顛末はこちらを。

今年28歳、友人の彼女の姪っ子という、近いようで遠い初対面の彼女は、大変礼儀正しく愛らしい、息子の嫁にしたいような笑顔が太陽のように眩しい美人さんだった。息子いないけど。

初対面の人と対峙するとき、私は自動で仕事モード(セーフモード)に切り替わる。このセーフモード発動状態の私を、かれこれ25年ほど見ていない助っ人は、私の

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人見知りの晩餐会①

人見知りの晩餐会①

ひと月ほど前に、私のスマホにメルボルンの友人からメッセージが届いた。内容を読んで、そして一旦そっと閉じた。

「やあ元気?来月、僕のパートナーの姪っ子が東京に行くんだけど会ってやってくれないかな」

なお、私は仕事では上手くやれていると思うが実際には結構人見知りである。

友人は続ける。
「君も忙しいだろうし、無理はしないで。でも彼女はとてもいい子で、東京で君みたいなプロフェッショナルな女性と会う

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素敵な病

素敵な病

昨晩、歌舞伎好きの友人と片岡仁左衛門、坂東玉三郎を目当てに四月大歌舞伎を訪れた。舞台は本当に素晴らしく、帰り道に昂る気持ちを共有したくて居酒屋で日本酒でもどうかという話になった。この友人は何かを好きになると、そこにお金も時間も情熱も惜しまずかけていく。数年前に私を歌舞伎に連れ出してくれたのはそんな彼女の草の根活動でもあったのかも知れないが、何かと趣味の合う彼女がいいと言うならば、と私も全幅の信頼を

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人が桜に熱狂するのは

人が桜に熱狂するのは

今年は昨年に比べて桜の開花が遅かった。暖冬だと言われた割には冬の終わりは長く、冷え込んでいたため、春が待ち遠しい人も多かったに違いない。

私の家の近隣は桜並木があり、近年は老朽化で伐採が進んでいるものの、この季節は桜のトンネルが道ゆく人の目を楽しませている。いつもは道を急ぐ通勤中のサラリーマンも心なしか歩みが遅い。

先々週、桜シーズンの到来を見越して宴会の予定を入れていた知人は、きっと予定の

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碑は忘れ去られ、歴史は繰り返す

碑は忘れ去られ、歴史は繰り返す

子どものころから痛みには強かった。膝を擦りむいては「あ、痛い」、指を切っては「あ、切った」と、割と冷静だったように思う。痛くないわけではなかったが、それがシグナルとして私の脳に十分な危機感を伝えなかったのだと思う。

大人になって頭痛持ちになっても、どうやら痛みの耐性レベルが高いらしい。頭が痛いからといって寝込むわけでもなく(二日酔い除く)市販の錠剤を飲んでおくと、大抵は30分かそこらでケロッとし

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自炊輪廻から抜け出せない

自炊輪廻から抜け出せない

自炊が好きである。

冷蔵庫を開き、しんなりしてきた野菜やなかなか減らない調味料などをひっぱり出してきて「ふむ」と少しだけ考える。考えると言ってもどんなご馳走を作ろうか、どんなお酒を合わせようかという高尚なことは考えず、「今日は焼きたいのか、煮たいのか、蒸したいのか」「今日は塩なのか醤油なのか」程度の、今日の気分を自分にお伺いを立てる。

自炊が好きだからと言って料理が得意なわけではない。そして得

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ぼくのわたしのドリームハウス

ぼくのわたしのドリームハウス

数年で齢80歳を迎えるアラハチの母が、所謂「終活」に本腰をいれた。父が他界し、兄も私も独立してから猫と暮らす毎日は「(お父さんには悪いけど)今が1番幸せ」ということなので、母にはまだまだ人生を楽しんでもらいたいものだが、1人と1匹では広すぎる実家を処分する具体的な算段を始めている。

そんな中で我が家には頭の痛い問題がある。蔵書問題だ。

そこそこ本を読むほうであると自負している私さえ、全くもって

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無形骨董品へ愛を込めて

無形骨董品へ愛を込めて

先日のエッセイで祖母の話を書いた。鰻を食すアントワネットである。

そんな祖母は名前をギンと言った。名古屋のキンさんギンさんが人気を博して30年ほど経つが、我が祖母もかつてはたくさんの兄弟姉妹がおり、私が知るだけでも姉はキンさん、妹はスズさんだった。元祖キラキラネーム姉妹である(文字通り)。

キンさんギンさんとそう変わらぬ世代だから、このような名前もそれほど珍しくもなかったのだろうが、名付けた父

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鰻を食べなきゃ死んじゃうの

鰻を食べなきゃ死んじゃうの

今日は土用の丑の日でも、ましてや鰻を食べたわけでも何でもない。桃の節句だ。昨日、老いた母に会いに実家に帰り、取りとめのない話から今度鰻を食べに行こうという話になった。

大人になり多少の経済的なやりくりができるようになった私は、40歳を過ぎたあたりから主に夏のちょっとした贅沢として、毎年友人を誘ってはおいしいと評判の鰻屋へ足を運ぶ。そんな話を周りにすると、周りもそれなりのいい大人なので、わかるよと

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