見出し画像

人見知りの晩餐会②


そんなこんなで初対面のお嬢さんが我が家にやって来た。事の顛末はこちらを。

今年28歳、友人の彼女の姪っ子という、近いようで遠い初対面の彼女は、大変礼儀正しく愛らしい、息子の嫁にしたいような笑顔が太陽のように眩しい美人さんだった。息子いないけど。

初対面の人と対峙するとき、私は自動で仕事モード(セーフモード)に切り替わる。このセーフモード発動状態の私を、かれこれ25年ほど見ていない助っ人は、私の横で知らんぷりをしてくれている。この自分のセーフモードの当たり障りの無さは、「敵を作らない」ものであり、「人と打ち解ける」ものではない。それを頭ではわかっていながらも、セーフモードを解除できない私は、これまたセーフモード笑顔で対応しつつ、キッチンに引っ込み、料理に没頭しようとする残念な人間なのだ。助っ人はそこもわかった上で立ち回ってくれている。心の友よ…!

しかしお嬢さんを招いたのは他でもない私。メルボルンのジャック・ニコルソンは私と彼女が出会うことを望んでいるのだ。料理をあらかた出してしまった私はいよいよこのキッチンというコンフォートゾーンから出ていかねばならない…意を決しダイニングに戻った。お嬢さんは飲み慣れない日本酒で出来上がっていた。

どのような法律に規制されようと、世の中からお酒がなくならない理由はきっとこれだろう。心の柔軟剤、距離感の接着剤、そして記憶のイレイサー。そこから先は私もあまり記憶がない。初めての東京、しかも旅行者がおりたたないローカル駅から、都心の宿の最寄り駅への帰りの経路を調べる彼女に、見送りに来た私たちも一抹の不安を覚えたような、そうでないような。

助っ人には、その後に近所のバーでお礼の一杯を献上。私のスマホにポップアップするメッセージ。
「お腹いっぱい!心はハッピー!」
きっと彼女にとっても初めての日本で、一般的な家に招かれるのは冒険だったことだろう。これが彼女の記憶に残り、永く周りに語れる体験であったら嬉しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?