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人見知りの晩餐会①

ひと月ほど前に、私のスマホにメルボルンの友人からメッセージが届いた。内容を読んで、そして一旦そっと閉じた。

「やあ元気?来月、僕のパートナーの姪っ子が東京に行くんだけど会ってやってくれないかな」

なお、私は仕事では上手くやれていると思うが実際には結構人見知りである。

友人は続ける。
「君も忙しいだろうし、無理はしないで。でも彼女はとてもいい子で、東京で君みたいなプロフェッショナルな女性と会うことは彼女にとって素晴らしい経験になると思うんだ、本当に義務に感じる必要はないから…」
もう4、5年は会っていないジャック・ニコルソン似のコワモテのオーストリア人が、私の想像の中で圧強めにニッコリと笑っている。

このメッセージを送ってきた友人との出会いは、彼がオンラインで私の友人である画家の作品を見つけて購入したことから始まる。その数年後、彼がパートナーを伴って日本へ休暇でやってきた際に、画家に是非直接会いたい、会えないかと連絡してきたが、この画家は英語のエの字も話せない。食事をご馳走するからと、通訳を頼まれ承諾した。それ以来、画家本人を差し置いて私と彼らの交流は続き、私がメルボルンを訪れた際には、車を出して丸一日、メルボルン近郊を案内してくれたという恩があった。そんな彼の依頼を無碍にするわけにはいかない。数日悩んで承諾した。

紹介された彼女は28歳で、やり取りをしてみると礼儀正しく好感が持てた。しかし、初対面の、外国人、しかも二十代という女の子が何を楽しいと思うのか、皆目見当もつかず(若い人ってだけで、もはやお手上げ)、色々と東京のイベントを調べてみたがどれもピンと来ないまま日程が近づいてきた。そのころ、仕事が超絶繁忙期で思考停止していた私は、後先考えずに「じゃ、うち来てみる?」と誘うことになったのだ。

来客は好きな方だ。特別なものは作れなくても料理を作ってお酒を飲むのが好きだ、が、料理を作っている間に初対面の彼女と話し続けることは、どう考えても不可能に思われたため、友人をもう1人招いて、料理中にお相手をしてもらうよう頼んだ。この絶大な助っ人はしかし、私の話を聞くなり「あなた初対面の子を家に招くなんて何考えてんの」と。おっしゃる通り。

そんなこんなで最寄りのローカル駅まで迎えに行ったら、かわいらしい外国人女性が満面の笑顔で花束を持って改札から出てきた。彼女に近づく数歩のうちに人見知りモードから社交的モードへ切り替え挨拶した。

「ウェルカム トゥ トーキョー!」

(続く)

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