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エッセイ

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今までの日々や、ささやかな僕の奮闘を書いていければと思います。
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2024年7月の記事一覧

「空爆の報も吸い込んでゆく掃除機」

「空爆の報も吸い込んでゆく掃除機」

「未来のためにできること」は何であろうかと考えてみるが、一向にキーボードを打つ手が進まない。
 未来のためにできることなど、今の自分には何一つとして無いように思える。きっと胸を張ってこれだと言える人は、人生に責任を果たしながら自信を持って生きてきた人であろう。
 己のことすらままならぬ者が、未来のためになどと考えるだけで顔が赤らんでしまう。そんな大仰なことはいいから、まずはあなたのやるべきことをや

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「器に愛された店主」

「器に愛された店主」

 いよいよ夏本番を迎えテンションが上がる反面、若い頃のように海へ泳ぎに行ったり、大きな花火大会に行ったりする体力がなくなってきた。海に関しては単純に上半身を露わにさせることも恥ずかしい。
 そんな今の僕が夏を迎えて楽しむことと言えば、以前かっぱ橋道具街で購入したお気に入りの器でざる蕎麦を食べることである。
 数年前にざる蕎麦にハマり家でずっと食べていたのだが、せっかく高い蕎麦を買うのなら、器とかも

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「ホームルーム」

「ホームルーム」

 中学生の頃、クラスメイトに増田さんという生徒がいた。
 ショートカットで大きな眼鏡をかけた増田さんは、授業中にいつも左手で眼鏡を抑え 、眉間に皺を寄せながら黒板の文字をノートに書き写していた。

「眼鏡の度数がぜんぜん合ってないんやな」

 それが増田さんに対して僕が初めて抱いた印象である。
 同じクラスになったのは一年生の時だけで、大して仲良くもなく喋ることもあまりなかったが、そんな増田さんを

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「星に願いを」

「星に願いを」

 大阪府枚方市は七夕伝説ゆかりの街として知られている。
 枚方市駅のすぐ近くを流れる一級河川の天野川は、天上の天の川になぞらえ平安歌人によって七夕にちなんだ数多くの和歌が詠まれた。
 現代でも七夕イベントとして枚方七夕まつりが毎年開催され、七月七日には街中が色とりどり短冊と地元民で埋め尽くされる。

 当時、僕は枚方市に隣接する寝屋川市に住んでいたので枚方の七夕まつりを目にすることがあり、その日も

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「金色の髪」

「金色の髪」

 中学三年のクラス替えで、最初に席が隣になった女の子は金髪だった。
 校則が厳しく男子の髪染めや整髪料は禁止されていて、女子に至ってはそれにプラスして肩にかかる髪は黒のヘアゴムで縛らなければいけなかった。
 そんな厳しい校則の中で、彼女だけが何故か完全な金髪だった。校則をものともしない彼女の気合いとその風貌に恐れおののいて、他の生徒達はその姿を遠巻きに眺めるだけだったが、僕は三年になり最初に指定さ

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