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雄介は、いかにして実加を勇気づけたか?|【EPISODE8:射手】「仮面ライダークウガ」に学ぶ(1)

※引き続き、「仮面ライダークウガ」の【EPISODE8:射手】を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。


【ポイント③】雄介は、いかにして実加を勇気づけたか?


<1>

本話には、クライマックスが2つあります。

・クライマックス1:雄介が実加を発見し、勇気づける

・クライマックス2:雄介が一条のサポートを受けて、ハチ怪人を打ち倒す


ここでは前者に注目します。

すなわち、雄介は実加をいかにして勇気づけたか?


<2>

まずは、前話(EPISODE7)までの出来事を整理しておきましょう。

・Step 1:実加は、父(夏目教授)を怪人(怪人0号)に殺された

Step 2:いくつかの不運が重なり、実加が疑念を抱くようになる「警察らは本気で怪人0号の捜査をしているのだろうか?どうも怪しい。口だけなのでは?」

Step 3:実加はショックを受ける「お父さんは死んだのに、皆どうしてそんな風なの!?」「人の命ってそんなに軽いものなの……?」

Step 4:実加は衝動的に飛び出す。そして「すぐに怪人0号の捜査を進めてくれないと……私、死ぬかも」と警察に電話をかけた


実加の気持ちをざっくりまとめると、

・気持ちA:警察ら(≒ 大人、世間)は口だけなのでは?

気持ちB:人の命はそんなに軽いものなの?

……ということになるでしょう。


<3>

そして本話では、

・Step 1:実加は、とある田舎町にやってきた

・Step 2:踏切をじっと見つめる(飛び込み自殺を考えている様子)

・Step 3:その後、実加は海岸に移動。どうやら父との思い出の場所らしい。実加が呟いた「お父さん、私、これからどうしたらいいの」

……で!

ここに我らが雄介がやってきます。


<4>

それでは、海岸での雄介と実加のやりとりを振り返ってみましょう。

・Step 1:実加が驚く「どうしてここにいるってわかったの!?」。雄介は「きみの首飾りに付いている貝殻をヒントにここにきた」と説明する

・Step 2:雄介が小石を拾って「7連ちゃん、できると思う?」。実加は「無理だよ」。しかし雄介は小石を海に投げ、7回ホップさせてみせた。そして、雄介は微笑んだ「信じて!皆、やる時はやってくれるよ」。実加がハッとする

・Step 3:雄介が続ける「そして君にもいつか何かやる時がくると思う。お父さんもきっとそれを楽しみに見守ってくれてるよ」


このあと、雄介はハチ怪人と戦い始めます。

つまり、2人のやりとりはたったこれだけ。わずか2分ほどの出来事です。


<5>

いまご覧いただいた「雄介と実加のやりとり」を詳しく考察していきましょう


まずご注目いただきたいのは、「Step 2」

上述の通り、実加は「警察らは口だけなのでは?」と疑念を抱いています。大人に対する不信であり、世間への絶望です。


そんな実加に対して……雄介は、実加が無理だと感じたこと(小石を7回ホップさせる)を実行してみせた。その上で、「信じて!皆、やる時はやってくれるよ」

有言実行した後の「信じて!」ですからね、説得力が違います。実加は、「あっ。『やる時はやる』って本当かも」と感じたでしょう。

つまり、雄介は<有言実行>によって、実加の不信感・絶望感を和らげることに成功したのです。


叱るでもない。

慰めるでもない。

言葉を尽くして説得を試みるでもない。

行動を示して、最後は「信じて」と相手の意識の変容に期待をかける……!これが、いかにも雄介っぽいですよねー!


<6>

続いて、「Step 3」にご注目ください。

ここでは、雄介は「君にもいつか何かやる時がくると思う。お父さんもきっとそれを楽しみに見守ってくれてるよ」と言葉をかける……のですが!


これ、意味不明なセリフだと思いませんか?

初めてこのシーンを見た時、私はチンプンカンプンでした。「君にもいつか何かやる時がくる」って、えっ。どういう意味?いきなり何の話!?


で、いろいろ考えてみたのですが……たぶんこれ、「どれほど辛くても、施してもらうことばかり考えてはいけない。自分を『施しを受けて当然の悲劇のヒロイン』と思ってはいけない」という戒めの言葉だと思うんですよ。

というのも、ほら、人間って誰かの役に立つことで自尊心が芽生え、自己肯定感を持てるようになるものじゃないですか。

逆に、施しを受けてばかりでは、自分肯定感の低い人間になってしまう。


<7>

じつは……雄介は幼い頃に父を亡くしています(そしてその後、母も死亡)。

そう、雄介もまた<幼くして父を亡くした子ども>なんですよ。


父を(そして母を)亡くして以来、雄介は様々な苦労をしてきたことでしょう。そしてその中で、雄介はきっと学んだはずです。

・学び1:大人や世間は時に冷たいが、しかしやる時はやってくれるものだ!

・学び2:「自分は不幸な子ども。やってもらって当然だ」と思ってはいけない。それでは自己肯定感を持てなくなり、辛いばかりだ。自分もまた施す側に回らねば!


雄介は、自分と同じ境遇の実加を「皆、やるときはやってくれる!だから大人や世間に絶望しないで!」と励ましたかった。

そしてそれと同時に、<幼くして父を亡くした子ども>の先輩として、「施す側にも回るように!」と伝えずにはいられなかったのでしょう。


かくして雄介の口からは、一見意味不明なセリフ「信じて!皆、やる時はやってくれるよ。そして君にもいつか何かやる時がくると思う。お父さんもきっとそれを楽しみに見守ってくれてるよ」が飛び出たものと思われます。


以上が、雄介による励ましの全貌です。


【ポイント④】一条は、いかにして実加を勇気づけたか?


<1>

先ほど、実加の気持ちは以下の2つに集約できるだろうと申し上げました。

・気持ちA:警察ら(≒ 大人、世間)は口だけなのでは?

気持ちB:人の命はそんなに軽いものなの?


ここまで申し上げてきた<雄介による励まし>は【気持ちA】に対応するものです。雄介の<有言実行>を通じて、実加は「口だけではない人もいる」と理解することができました。


では、【気持ちB】の方は……?

【気持ちB】に対応するのは一条の発言です。


<2>

ご注目いただきたいのは、本話のエンディングシーン。雄介がハチ怪人を打ち倒した後のことです。

・Step 1:一条が実加に歩み寄る

・Step 2:一条はじっと実加を見つめる。そしてちょっと泣きそうな表情になって一言「無事でよかった」

・Step 3:その言葉を聞いた実加は、堰を切ったように泣き出した「ごめんなさい……ごめんなさい……」


<3>

一条は、たった一言「無事でよかった」と言うだけです。


ちょっと物足りない気もします……が、しかし!

こういう場面は、言葉を尽くせば尽くすほどに安っぽく、そして嘘っぽくなるものですよね。むしろたった一言だからこそ、一条がいかに「実加(の命)」を心配していたか、大切に想ってくれていたかが、実加に伝わったんだと思うんですよね。

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以上、雄介と一条がいかにして悩める少女・実加を勇気づけたのか整理してきました。



続きはこちら!!


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