個別具体的なエピソードが、主人公と鑑賞者の間に感情的なつながりを作るのだ!!|【EPISODE2:変身】「仮面ライダークウガ」に学ぶ(2)
※引き続き、「仮面ライダークウガ」の【EPISODE2:変身】を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
【ポイント⑧】雄介の<拳>の意味
<1>
本話には、雄介が<拳>をギュッと握ったり、あるいは自身の<拳>をジッと見つめたりするシーンが何度か登場します。
・シーン1(第1幕):クモ怪人との戦い(EPISODE1)を振り返り、雄介が呟く「好きになれないから、あの感触は……」。そしてギュッと拳を握る。雄介は心優しい青年です。相手が怪物といえども、本当は殴ったり蹴ったりはしたくないのです。
・シーン2(ミッドポイント):コウモリ怪人との戦い。雄介がパンチを連発する。コウモリ怪人がよろめく。すると雄介は、(マスクをかぶっているので表情はわかりませんが)戸惑った様子で自身の拳を見つめた。「あっ、殴ってしまった……」と心が乱れているのでしょう。
・シーン3(第2幕後半):雄介はコウモリ怪人に敗北します。さらに一条からは「中途半端に出しゃばるな!」と叱咤される。かくして雄介は「このままではダメだ。戦う覚悟を決めねば!」と悟る。しかし……雄介は自身の拳に触れる。やはり暴力を振るうことには抵抗がある!
・シーン4(第2幕後半):そんな中、雄介は遺族(怪人に父を殺された少女)の涙を目撃します。雄介は拳をギュッと握り、壁に叩きつけた。怪人に対する怒り、何もできぬ自分の不甲斐なさ……様々な想いのこもった拳です。そして、ここで雄介はついに戦う覚悟を決めます。
その後、雄介はコウモリ怪人及びクモ怪人と戦いますが、<拳>をギュッと握ったり、あるいは自身の<拳>をジッと見つめたりすることはありません。握ったり、あるいは自身の<拳>をジッと見つめたりすることはありません。
<2>
つまり、<拳>を通じて、雄介の気持ちの揺らぎ(葛藤、戸惑い、怒り etc.)が表現されているわけですね。
【ポイント⑨】ヒーローが善行を為すきっかけとなる「具体的なエピソード」に注目せよ!
<1>
第1幕から第2幕前半にかけて、雄介は「皆に笑顔でいてほしい!だが、暴力は嫌だ!」と葛藤していました。
しかし第2幕後半、彼は覚悟を決めます。「皆の笑顔のためなら、俺は悪を為す!」と。
雄介が覚悟を決めるきっかけとなったのは、「遺族(怪人に父を殺された少女)の涙」です。
<2>
これ、巧いですよねぇ!
というのも、往々にしてヒーローって奴は「正義を執行したい!」「皆に笑顔でいてほしい!」などと口するものですが、それはあまりにも抽象的・観念的な目標であり、私たち一般人はどうにも彼の気持ちを理解できない。
ゆえに、「へぇ……勝手にやれば?」という気になる。
ところが本話には、「父を殺された少女の涙」という具体的なきっかけが描かれています。
だから私たちは、雄介の気持ちを理解できる。「無垢なる少女の涙を見たら、そりゃ覚悟しちゃうよね」と感じる。そして「よし、頑張れよ!」と応援する気になる。
つまり、「主人公が覚悟を決めるきっかけとなる<具体的なエピソード>を挿入することで、主人公と鑑賞者との間に感情的なつながりを作る」というテクニックですね。
<3>
このテクニックは、様々なヒーローもので使われています。
例えば、映画「スパイダーマン」。
・Step 1:主人公のピーターは、ある日スパイダーマンに変身できるようになった
・Step 2:ピーターの叔父は「いくら強いからといって、相手を殴っていいことにはならない。大いなる力には大いなる責任が伴うんだ」と諭す
・Step 3:しかし、ピーターは聞く耳を持たぬ。彼は己の力を私利私欲のために使ってしまう
・Step 4:ピーターが<大いなる責任>を果たさなかったせいで、叔父が死亡
・Step 5:かくして、ピーターは覚悟を決める。彼は叔父の言葉を胸に、スパイダーマンとして善行を為すようになったのだ
もしも、ですよ。
もしもピーターが物語冒頭から善行を為すようでは、鑑賞者は置いてきぼりになってしまうと思うんですよね。「えー!こんな無欲な奴はいないよ!」と感じるでしょう。
しかし実際にはピーターは大失敗を犯す。彼は、愛する叔父を間接的に殺してしまったのです。そしてピーターはこれを受けて覚悟を決め、スパイダーマンとして善行を為すようになります。
重要なのは、この「ピーターが覚悟を決めるきっかけとなる<具体的なエピソード>」です。
これがあるから、私たち鑑賞者は「なるほど。ピーターが善行を為すのももっともだ」と納得できる。そして、「ピーター、頑張れよ!」と応援する気になるのです。
※補足:映画「スパイダーマン」については、以下の記事で詳しく分析しました。ぜひご参照ください。
【ポイント⑩】雄介はどこで怪人と戦うのか?
<1>
ここでは、「雄介が怪人と戦う場所」に注目してみましょう。
雄介がどこで戦ってきたか振り返ってみると……
・前話(EPISODE1):ビルの屋上、飛行中のヘリコプター etc.
・本話:燃え盛る教会、廃工場(ダクトの上など) etc.
うーむ。とんでもない場所で戦っていますねぇ。
<2>
はてさて、どうしてこうもとんでもない場所が戦場になるのか?「もうちょっと普通の場所で戦えば?」という気がしますよね。
しかしですね、たぶん普通の場所ではダメなんですよ。
というのも、制作者の皆さんは「どこで戦えば、より鑑賞者がハラハラドキドキしてくれるだろう?」「より画面に迫力が出るだろう?」と考えているはずです。
したがって……なぜビルの屋上で戦うのか?答えは簡単。「落下するのでは!?」というハラハラドキドキ感が加わることで、より一層迫力のある戦いになり得るからです。
続きはこちら!!
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