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エッセイ・コラム

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2022年8月の記事一覧

アイドルは歌が下手だからダメ?—否、それでいいのだ

アイドルは歌が下手だからダメ?—否、それでいいのだ

よく、アイドルの歌が下手だという批判をする人がいる。

昔の少年隊が踊りながら歌っていたのを引き合いに出し、
最近のアイドルは踊りもしないのに歌が下手だとの指摘がある。

確かに、多くのアイドルの歌は下手である。
だから多くのアイドルがCD音源とうり二つの口パクでテレビ番組に出ている。

多くのファンは「口パクじゃない!」と強弁するが、もはやそれは信仰の世界である。
信じたい人だけが口パクではない

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「平和です」ってわざわざ言わないといけない現状は平和ではない

「平和です」ってわざわざ言わないといけない現状は平和ではない

岡田英弘さんが著した「歴史とは何か」という本がある。
要は、客観的で中立的な歴史などなく、歴史とは国にとっての武器にもなるような、書く人の価値観とか意志が存分に反映されたものなのだ、といったようなことが書かれている。

その本の中には、中国の歴史の本質は「正統」という観念の存在にある、という指摘がある。
これはつまり、建国以来ずっと、現在の中国らへんの地域をその時代で天命を受けた一人の皇帝が治め続

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資本主義は結構合理的だなと思った話

資本主義は結構合理的だなと思った話

資本主義はよくできていると最近感じる。

売れるものを作る人が増えていけばもうけるひとが出てきて、次第に値段は安くなる。
安くなったらみんなが買って、そのうちコモディティ化する。
売れないものは作る人が減って、産業そのものが淘汰されていく。

いま、新聞という「売れないもの」を作る身分として思うのは、いくら頑張っても給料が上がることはないという事実である。同じ給料でも仕事の量はあまりにも増えすぎて

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今、歴史的なことが起きているという自覚はあるか

今、歴史的なことが起きているという自覚はあるか

振り返ってみれば、ウクライナにロシアが侵攻したのは2月の終わりである。いよいよ半年以上が経つものの、なおも事態の終息がみえない。

遠くにいる我々にとっては、いつものテレビ報道に紛れ込むようにウクライナの情勢が伝えられたり、伝えられなかったりしている。
普通に生きていれば、テレビで見て「ふむ大変だな」というくらいのものではあるのだが、よくよく考えてみると結構すごいことが起きているという自覚はあるだ

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未来にある、悼まれる日のために

未来にある、悼まれる日のために

8月15日、77回目の終戦の日であった。
朝からたくさんの人たちが、炎天下で靖国神社に長蛇の列を作って参拝していた。
先人への感謝を伝えるためにあれだけの人が来るというのは、75年の時を経てもなお、その死が悼まれているということでもある。
ろくに実家の墓の面倒も見なくなった現代にあって、驚くべきことである。

世界では毎日、たくさんの訃報がある。
世界的なデザイナーである森英恵さんが亡くなり、安倍

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万国のメンヘラよ、立ち上がれ!

万国のメンヘラよ、立ち上がれ!

誰しも、人生を振り返ってみればいろんな人に出会ってきた。
すれ違ってきたたくさんの人たちのなかで、「会いたい」と思う人と「そうでもない人」に分かれる。

「嫌いだな」「興味がないな」「つまらないな」――と、感じる人に当然ながら「会いたい」と思うことはない。

「会いたい」と思う人は、仲良しの友人、一緒にいると安心したり楽しかったりする恋人なんかだろうか。
折角生きるなら、「あなたに会いたい」と思わ

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22歳のとき書いた青々とした文章が出てきた

22歳のとき書いた青々とした文章が出てきた

私の社会人デビューは2016年までさかのぼるのだが、当時書いていた文章がそのまま出てきた。
意図せず銀行員となり、不満たらたらだったころの拙文である。少し長いが、引用してみよう。

なんか「もがいていたんだな…」ということを痛切に感じる文章である。
しかし、「会社の中でも思考を止めて、自由から逃走している人間はいくらでもいる」という一文は、手前味噌ながら今の私にとっては重い一文だ。

一体、自分自

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鹿児島で会ったおっさん

鹿児島で会ったおっさん

学生の時分、九州にぷらっと旅行に行った時があった。
貧乏旅行である。青春18きっぷで鈍行列車に揺られて数時間かけて熊本から鹿児島まで移動していた。

到着が夜遅いこともあって、とりあえず飯を食ってホテルで寝ることにした。飯を食うには鹿児島は居酒屋がたくさんあっていいところだ。適当に入ってサッと食えばいい。
そう思って入った小さな個人経営の居酒屋に、マスターとこれまたおっさん一人。マスターは「ほい」

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根拠のない自信のために自己陶酔を

根拠のない自信のために自己陶酔を

努力が認められない経験というのは、社会に出るとよくあることである。
記者であれば(しかも上が言うとおりに)一生懸命取材をして出した原稿が、デスクを介してあら不思議、ゴミ同然の記事が出来上がるなんてことはよくある。
「最初から俺が書いたやつの方がよっぽどわかりやすいしまともだし原稿としての完成度も高い」と感じることは、一度や二度ではない。
記者人生の悲哀とは、ものわかりが悪く原稿を傷めがちなデスクに

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青春は、去りし日に気づくもの

青春は、去りし日に気づくもの

高校のとき、私には一つの疑問があった。
「いま生きている日々は、果たして世間がいうところの『青春』なのであろうか」
と。
今になって思う。
あの日々は、間違いなく青春であった。

毎日ただなんとなく、
ぼんやりと惰性で生きながら、
社会の事を知らない無垢で済んだ目で、
いろんなことを知った気になって、
それでも何かには真剣に打ち込み続け、
そこには多くの仲間がいた、
そんな日々たちは、間違いなく青

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「FACTFULNESS」を読んでの雑感

「FACTFULNESS」を読んでの雑感

いまさらではあるが、かつて話題だった本である。

筆者のハンス・ロスリング氏はTEDというオンライン講義にも何度か登場している。"The best stats you've ever seen"と題した講座を行っている。開始から間もなく始まる、競馬実況のような迫真の演説には誰もが心惹かれるだろう。"And we have a completely new world..."というところで自然に拍手

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本嫌いが本好きになるまで②

本嫌いが本好きになるまで②

しかしそうであっても、自己内部の世界(=不可視の世界)を完全に言語化することはできない。
だから読み進める。こうなると読んでいる最中も先が気になって仕方がない。「こいつが何を考えるのだろう」――そればかりが気になるのである。

この「遮光」はなかなか衝撃的なエンドを迎えるのだが、何にせよ初めての読後感だった。
作品を読んでいるときに、その読書という経験が自分を他の世界にでも連れて行ってくれるような

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本嫌いが本好きになるまで①

本嫌いが本好きになるまで①

夏休みの宿題と言えば「読書感想文」であるが、私は幼年期、本が大嫌いだった。それだけに、私にとって読書感想文を書くとき、本の薄さが決定的に重要であった。

小学校の頃、読書感想文で親から「ベルナのしっぽ」という本を読むように言われたことがあった。
これは盲目の女性にベルナという盲導犬がいて、一緒に生活をするなかで愛情が芽生えつつ、最後はベルナが死んでしまう、という話だ。これには「一度として見えること

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