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第3回レポート:進化型組織の最前線!欧州の進化型企業を訪ねて〜欧州7社の実践知から組織の未来を探求〜

本記事は、RELATIONS株式会社が主催した進化型企業のあり方を探求し、実践している欧州7社の視察報告会・第3回についてレポートしたものです。

全3回で構成される今回の視察報告会。

第1回の視察報告会では、欧州企業の事例紹介に加えて、RELATIONSと探求の旅路を共にしてきた株式会社令三社山田裕嗣さんNatural Organizations Lab株式会社吉原史郎さん、NPO法人場とつながりラボhome’s vi嘉村賢州さんも交えた対話が進められ、日本国内における進化型企業の取り組みをいかに広げていくか?といったテーマが扱われました。

第2回は、フレデリック・ラルー著『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』においても事例として紹介された組織運営法・ホラクラシー(Holacracy)を実践している企業の具体的な社内制度にフォーカスして報告が行われました。

そして、今回はスペイン・ビルバオに拠点を置くNER Group(ネル・グループ)について、RELATIONS代表の長谷川博章さん、RELATIONSパートナーの黒田俊介さんによって報告が行われ、後半のクロストークセッションからは令三社の山田裕嗣さんが対話に加わり、国内ではいかに実践しうるかについて探求を深めていきました。

本稿をご覧いただいた皆さんにとって、何か1つでもご自身の中に響くものや、感じるものがあれば幸いです。

なお、視察先の7社の概要について知りたい!という方は第1回のレポートを、特にホラクラシー(Holacracy)という組織運営法の実践や、ホラクラシーを活かす具体的な制度設計などについて知りたい!という方は第2回のレポートをご覧ください。


今回の視察報告会の背景

RELATIONS株式会社とは?

RELATIONS株式会社は、『会社に生命力を(Exploring a Living Company)』をパーパスに掲げ、コスト改善、組織開発をはじめとするコンサルティングに携わる企業です。

2009年に大阪で創業したRELATIONSでは、10年以上の時間をかけて自らも「ええ会社」になるべくさまざまなチャレンジを行ってきました。

近年、ホワイト企業大賞特別賞の受賞Forbes JAPAN2023年5月号への掲載など注目を集めつつあるRELATIONSは、今年7月に社員4名+パートナー2名で欧州4ヵ国の企業の視察を行いました。

また、上記のような自社内での取り組みやサービスの提供のための探求の背景には、『ティール組織』『ホラクラシー』『ソース原理』といった進化型の企業・働き方を志向する哲学・手法や、国内においてそれらのムーブメントを支えてきた実践者たち存在があったといいます。

第1回の視察報告会ではRELATIONSと探求の旅路を共にしてきた株式会社令三社山田裕嗣さんNatural Organizations Lab株式会社吉原史郎さん、NPO法人場とつながりラボhome’s vi嘉村賢州さんも交えた対話が進められるなど、一連の視察報告会は日本国内における進化型企業の取り組みを広げていくための関係性づくりの場としても意図されています。

進化型組織に関する前提共有

今回の報告会の中では、『ティール組織』『ホラクラシー』『ソース原理』をはじめとする用語や、それらに対する理解を前提に進められているため、上記の3つの用語について以下、簡単に紹介します。

ティール組織(Reinventing Organizations)

『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。

書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。

国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州、吉原史郎の両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。

2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。

フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。

ホラクラシー(Holacracy)

ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。

2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)ブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)トム・トミソン(Tom Thomison)によって開発されたホラクラシーは、フレデリック・ラルー『ティール組織』にて事例に取り上げられたことで国内においても実践事例が増えつつあり、RELATIONSもまた実践企業の1つです。

さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版書籍の監訳者である吉原史郎さんの記事及び、以下の新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。

ソース原理(Source Principle)

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。

昨年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。

今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。

さらに、『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつソース原理(Source Principle)の知見は世の中に広まりつつあります。

日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。

その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著Work with Sourceが出版されました。

ソース原理にまつわる潮流は、このような背景を持ちます。

海外企業の視察に至る背景

今回の海外視察は、『すべては1人から始まる』翻訳・監修のお一人である令三社・山田裕嗣さんCorporate Rebelsの協力なしには実現できなかったと、RELATIONSの皆さんはお話しされています。

Corporate Rebelsは今回の視察先の1社であるオランダの企業であり、世界中の進化型組織を実践する企業を調査、情報発信を行っている企業です。

山田裕嗣さんは以前からCorporate Rebelsの企業ケースの翻訳、また、日本企業のケースを英語記事として寄稿する等の協働関係を築いていました。

また、RELATIONSともこれまでにZoom対談オンラインイベント実施等を通じて進化型組織の探求を行なわれていました。

今回、欧州企業の視察を始めるにあたり、RELATIONSは山田裕嗣さんCorporate Rebelsを通じて複数の企業と事前の打ち合わせをオンラインで行い、その上で海外視察に臨んだとのことです。

視察のスタイルは各社に応じてアプローチを変えて行い、ランチを社員の皆さんとご一緒させていただくといった形式のものもあったとのことです。

以下、今回の報告会のメインテーマであるNER Groupの報告について特徴的だったポイントについてまとめていきます。

NER Groupの概要

NER Group(ネル・グループ)は、スペイン・ビルバオを拠点に発展している企業ネットワーク群の総称であり、2005年にコルド・サラッチャガ氏(Koldo Saratxagaによって設立されたK2K emocionandoが中心となって拡大を続けてきました。

NERとはNuevo Estilo de Relaciones(New Style of Relationships:新しい関係性のスタイル)に由来し、K2K emocionandoNERの哲学を目的として掲げた進化型組織へのコンサルティングを行っています。

NER Groupが特徴とする仕組み・制度面の変革を起点としたアプローチは『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏も『自主経営(セルフ・マネジメント)』のモデルの1形態として注目しており、ラルー氏の動画シリーズでも紹介されています。

現在はジャビ・サルセド氏(Jabi Salcedo)が代表を務め、6〜7名の少数精鋭のコーディネーターによって構成されるK2K emocionando。

彼らによるコンサルティングを受けた企業は、法人形態の変更を伴うNER Groupへの参加するか否かを選択しており、RELATIONSの皆さんが視察したLancor(ランカー)はグループへの参加及び協同組合への組織変更、P4Qは株式会社としての形態を維持したままの組織変革が行われました。

NER Group全体としては以下のようなパーパスを掲げており、

We take care of ourselves, learn and evolve committed to people and society.

私たちは私たち自身を大切に扱い、人と社会のために学び進化する

現在では50社以上が参加する企業グループへと成長しています。

NERをグループ化した目的として、多くの組織が新しいシステムを取り入れて変容するムーブメントを生み出すため、とジャビ氏は話されたとのことです。

また、NER Groupは現在、先述のCorporate Rebelsと共にプライベート・エクイティ・ファンドKRISOS(クリソース)を共同で設立・運営しています。

スペイン語で、サナギから蝶へ変容するプロセスを示すという語から名付けられたKRISOSは、ある企業を買収した後、企業再生の中で進化型組織へ変容、従業員に売却するというスキームを構想しており、RELATIONSも今後、一部共同また参画を検討されているとのことです。

NER Groupの成立過程

コルド・サラッチャガ氏(Koldo Saratxaga)

NER Groupの創始者であるコルド・サラッチャガ氏は、1947年生まれの現在76歳。

彼の最も特筆すべき業績として挙げられるのは、自身がCEOを勤めていた大型バス等の製造企業イリザール(Irizar)を進化型組織へ変革したことであり、この事例はハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディとして紹介されている他、事例研究資料として書籍出版も行われています。

このイリザールの実績が契機となってコルド氏はNER Groupの創設に至りますが、その背景にはプラハの春と呼ばれたチェコスロバキアにおける民主化運動、自ら木材の加工製造の協同組合(Cooporative)設立に関わった経験、そして世界最大級のワーカーズ・コープ複合体であるモンドラゴン協同組合での経験が生きているようです。

以下、コルド氏の歩みも辿りつつ、モンドラゴン協同組合及びNERモデルの原型となったイリザールの変革について簡潔に見ていきます。

モンドラゴン協同組合

モンドラゴン協同組合(Mondragón Corporación Cooperativa :MCC)はスペインのバスク地方に基盤を置く世界最大級のワーカーズ・コープ(労働者協同組合)の集合体であり、その創設は1956年、カトリック司祭ホセ・アリスメンディアリエタ氏(José María Arizmendiarrieta Madariaga:アリスメンディ/Arizmendi)が中心となって行われました。

モンドラゴン協同組合はフレデリック・ラルー著『ティール組織』においても紹介されており、およそ250社が参画し、そこで働く人々の数は約10万人、売上高はおよそ150億ユーロに及ぶとされています。

ワーカーズ・コープ(労働者協同組合)の複合体として知られるモンドラゴン協同組合ですが、その実態は協同組合、子会社、 財団や支援組織、大学などを含む、労働者協同組合を軸とする地域企業複合体であり、MONDRAGON’s Principlesと呼ばれる10の原則を掲げて運営がなされています。

MONDRAGON’s Principles

1.オープンなメンバーシップ
(Open Membership)

2.民主的組織
(Democratic organisation)

3.労働主権
(Sovereignty of Labour)

4.資本の道具的従属性
(Instrumental and subordinated nature of capital)

5.経営への参加
(Participation in the management)

6.賃金連帯
(Wage solidarity)

7.協同組合間協力
(Inter-cooperation)

8.社会変革
(Social transformation)

9.普遍性
(Universality)

10.教育
(Education)

MONDRAGON’s Principles

なお、このワーカーズ・コープ(労働者協同組合)は日本国内でも労働者協同組合法令和2年法律第78号)が一部を除いて令和4年10月1日に施行されており、新たな法人形態として設立が可能となっています。

コルド氏はこのモンドラゴン協同組合から、当時協同組合に参画しており、倒産の危機に陥っていた大型バス製造会社・イリザールのCEOとして就任することを打診され、イリザールの事業再生に取り組むこととなります。

NERモデルの原型:イリザールの変革

1991年、コルド氏がCEOに就任した際に行ったことは以下のようなものです。

CEO着任後にコルド氏が断行した施策

●従業員の22%削減
(モンドラゴンのグループ内に出向扱いとし、雇用を担保)

●残りの従業員に15%の給与ダウンを提示し、会社の業績が回復するとそれを全員で分かち合う制度を提示

●時間外手当を廃止し、不採算顧客の排除をその計画の中に盛り込む

●伝統的なヒエラルキー組織をネットワーク型へ組織変更する

●時間管理を撤廃し従業員に自由をもたらす

●会社の最も高い賃金の人と低い人の差を3倍未満にする。

●会社の業績が達成すれば全員で均等に利益分配をする

●情報の徹底的な透明化を推し進める

そして、コルドがCEOに在任した14年間(1991年〜2005年)で以下のような変化がイリザールにもたらされました。

●1年後に売り上げと純利益を20%増やし、出向させていた全員を再雇用することに成功

●14年間の平均年間成長率23.9%

●売上2400万ユーロ(38億円)から3億1000万ユーロ(496億円)まで成長

●従業員数286名から、3000名程度へ組織規模を拡大

●年間生産台数は226台から1600台に増加

●製造時間(生産性)を38日から14日に短縮

●中国、モロッコ、ブラジル、メキシコ、インド、南アフリカへの進出
(海外製造拠点はスペインの自社の変革をモデル化し、横展開。スペインの自社工場で6ヶ月実際に働いてもらう)

この事例はハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディとして取り上げられ、以降コルド氏の掲げるNERの方針に沿って100社以上への支援が行われてきました。

また、近年のコルド氏はフレデリック・ラルー氏をスペイン・バスク州に招いてのカンファレンスに同席する、Teal Around the World 2021での登壇といった新しい組織づくりに関する知見の提供も行われています。

NER:変革の哲学

オーナーや経営陣のコミットメントと仕組みづくり

NERによる変革の特徴として、オーナーや経営陣へ100%のコミットメントを求める点と抜本的な組織構造の変革が挙げられます。

まず、組織の変革は事業活動、財務、組織規模といった難易度ではなく、変革を実施するという意志の問題であり、オーナーが複数人であれば全員の合意を求めるとのことです。

さらに、経営陣はコンサルティングに入るK2Kに組織構造を提案する権限を譲渡し、もし弊害が出そうな場合は海外に長期休暇に出てもらうこともあるとのことです。

加えて、伝統的なヒエラルキーを撤廃し、管理職やそれに伴う特権やコントロールを排除、従業員や労働者も含めて情報の透明性や責任、利益を共有するという根本的な変革を企業に対して求めます。

この姿勢はイリザールを劇的に変革させた実績に裏打ちされているのと同時に、NERモデルへの周囲の期待値の高さも伺えました。

人間への基本的な信頼

NERモデルは創始者のコルド氏が持っていた働く人々への基本的な信頼をもとに提供されるということも、特筆すべき点です。

Our model is partly chaos which generates order and self-organization. Above all, our model is based on interpersonal trust.

私たちのモデルは、秩序と自己組織化から生み出される部分的なカオスを活かします。とりわけ、私たちのモデルはお互いの相互信頼を土台にしているのです。

コルド氏は上記のように語っており、組織の一人ひとりを感情と知性を備えた人として扱います。

また、もしローパフォーマーがいた場合は『好きで怠惰になる人はいない』とし、『リーダーはただ従業員が能力を発揮できるような環境を整えるだけで良い』との考えのもと、接していくと言います。

この考えを受けて、報告者である長谷川さんはルドガー・ブレグマンが『Humankind』にて取り上げていた、

汚物のように扱えば、人は汚物になる。人間として扱えば、人間らしく振舞うのです

という、刑務官の受刑者に対する言葉を連想したとのことでした。

『Humankind 希望の歴史』の著者であるルトガー・ブレグマンは、以下のような考えのもとで議論を始めています。

本書では、ある過激な考えを述べよう。(中略)わたしたちに、この考えをもっと真剣に受け止める勇気さえあれば、それは革命を起こすだろう。社会はひっくり返るはずだ。なぜなら、あなたがひとたびその本当の意味を理解したら、この世界を見る目はすっかり変わるからだ。では、この過激な考えとは、どんな考えだろう。それは、「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」というものだ。

p21-22『Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章』

そして、その具体例として、ノルウェーの刑務所の事例を挙げているのです。

ノルウェーで2番目に大きい刑務所であるハルデン刑務所の受刑者は、床暖房と専用の浴室の付いた個室を持っており、さらに図書館、フリークライミングの壁、設備の整った音楽スタジオを使うこともできると言います。

さらに、そのハルデンから数マイル離れたところにあるバストイ刑務所では、映画館、日焼けマシン、教会、食料品店、図書館、スキー場も2つ完備。さらに、制服を着ない看守と受刑者たちが、同じテーブルに座って一緒に食事を取っているという驚きの光景を、著者であるルドガー・ブレグマンは紹介してくれています。

バストイでは、受刑者はそのコミュニティを維持するために耕し、植え、収穫し、調理し、木を切って製剤し、大工仕事をするといった営みを懸命に行っているとのことです。

ノルウェーの刑務所では、受刑者は仲良く暮らしている。争いが起きた時は、両者は席について徹底的に話し合わなくてはならず、握手を交わすまで、席を立つことは許されない。
「簡単なことです」とバストイの刑務所長、トム・エーベルハルトはこう語る。「汚物のように扱えば、人は汚物になる。人間として扱えば、人間らしく振舞うのです」。

p156『Humankind 希望の歴史 下 人類が善き未来をつくるための18章』

人間には自分自身の能力を発揮したい、貢献したいという思いや本質的なニーズがあり、それを尊重するような形で組織の変革に向かう……そのような姿勢を感じられたというのが印象的でした。

NER:変革のアプローチ

NERモデルへの移行は重要な要素や原則があるものの、各企業・組織によってさまざまな形でカスタマイズされながら実施されているとのことです。

以下、具体的な変革のアプローチについてまとめます。

NERモデルの変革に不可欠な10要素

K2Kがいざ、企業の再生、組織の変革に取り組む際にオーナーに100%の同意を求め、従業員全員にも伝えるという不可欠な10要素が以下のものです。

1、完全な透明性(Total transparency)
2、ヒエラルキーの撤廃(No hierarchy)
3、セルフマネジメントチーム(Self-managing teams)
4、特権なし(No privileges)
5、公正な給与バランス(A fair salary balance)
6、管理をしない(No controls)
7、すべてを測定しトラッキングする(Measure and track everything)
8、共有された意思決定(Shared decision-making)
9、レイオフをしない(No layoffs)
10、利益を全員で共有する(Sharing profits with all)

この中でも、それぞれの要素の中に工夫があり、印象的だったものについては以下にまとめます。

情報の透明性に関する工夫
従業員にも財務諸表の読み方を教え、自ら理解できるようにする

セルフマネジメントチームに関する工夫
リーダーは1〜2年で交代する

管理をしない・測定とトラッキングに関する工夫
成果と責任をチームごとに求めるものとし、個人としての管理を行わない

給与バランス・利益の共有に関する工夫
利益の30%を従業員に分配する」
「最低給与を引き上げ、役員クラスは報酬が下がる場合がある」
「ボーナスは均等割とする

変革の3ステップ

次に、NERモデルへの変革の3ステップを以下にまとめます。

変革の3ステップは診断(diagnostic)、設計(design)、変革実行(transformation)の3つのフェーズがあり、3つのフェーズは以下のようなことが行われます。

診断(diagnostic):2ヶ月程度

従業員インタビューと組織アセスメントを繰り返し、組織とチームが抜本的な変革を行う準備ができているか否か、どの重点分野を優先すべきかを明確にするフェーズ。

※インタビューには2つの問いがあり、全従業員に対して40〜45分程度で行う。
問1「この組織の良いところは?その理由は?」
問2「もしあなたがボスなら何を変えるか?何が改善されるべきか?」

設計(design):3ヶ月程度

K2Kが診断フェーズでのインタビュー結果を全従業員に報告すると同時に、変革でフォーカスしたい5〜6つの領域を提案。
従業員は変革プロセスを推進するためのチームを組成・参加し、業務時間内で新しいオペレーティングモデルのデザインおよび、そこへ向かうためのソリューションや代替案を検討していくフェーズ。

※NERモデルへの変革のために上司・管理職をなくす「No Boss」と「公正な給与バランス」は必ず扱う。チームに分かれたら、最低4回(1回あたり2時間程度)を行う。

変革実行(transformation):1〜2年

新しいオペレーティングモデルと、それに向けた具体的施策(ソリューション)を実施していくフェーズ。

※変革実行後は、協同組合としてNERに参入する場合・しない場合がある。

投票制と合意・統合プロセス

NERモデルの変革プロセスには、変革の当事者となる企業の経営者・オーナー及び全従業員による投票の機会が複数回設けられています。

K2Kへの依頼段階
オーナー及び経営者は変革に関して100%のコミットメントが必要

診断フェーズに入る前
全従業員の80%の同意により診断フェーズがスタート

設計フェーズ
従業員の投票により、変革のために扱う領域・変革チームが決定

変革実行フェーズ
1、具体案の実行のために各チームで100%の同意を得る
選択肢は、Yes、Yes with Doubt、No with Objectionの3つ
Noの理由を統合した案で、100%の同意に至ることで次の投票へ

2、全従業員で投票して80%の変革実施の同意を得る
選択肢は、Yes、Yes with Doubt、No with Objection、Noの4つ
Noの理由を統合した案で、80%の同意に至ることで具体案の実行へ

この時、投票はいわゆる直接民主制に近い形となることと、ホラクラシーにおける統合的意思決定プロセス(Integrative Decision-Making Process)になることが特徴です。

それゆえに組織規模における適正な投票や意思決定の形があるのではないか?という意見も報告後のクロストークセッションでは扱われました。

さらなる探求のための関連リンク

長谷川博章さんと語るNERグループ(前編) | 『コーポレートレベルズ』出版記念シリーズ

長谷川博章さんと語るNERグループ(後編) | 『コーポレートレベルズ』出版記念シリーズ

『Reinventing Organizations』(日本語版『ティール組織』)著者フレデリック・ラルー スピーチ

「本当にいい組織」ってなんだろう? すべてはひとつの記事から始まった(嘉村賢州+吉原史郎)

『ティール組織』著者フレデリック・ラルーさん「Purpose Story」(Teal Journey Campus)

一人ひとりの情熱から動くことで、組織はもっとダイナミックになれる。ソース原理の源流に触れて得た示唆

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