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第1回レポート:進化型組織の最前線!欧州の進化型企業を訪ねて〜欧州7社の実践知から組織の未来を探求〜

本記事は、RELATIONS株式会社が主催した進化型企業のあり方を探求し、実践している欧州7社の視察報告会についてレポートしたものです。

RELATIONSは今回の企画に際して、視察報告会を単なる報告会で済ませるのではなく、進化型組織を探求していく国内の仲間たちが集い、次につながる関係性(relations)を紡ぐ場として位置付けています。

そのために、この第1回には国内における次世代型組織のムーブメントを牽引してきた嘉村賢州さん吉原史郎さんをどうしてもお招きしたかったと、この企画に関わる皆さんから私自身も事前に伺っていました。

今回のレポートをまとめることは、私にとってもこれまでの旅路の振り返りと、新たな旅路と関係性の始まりを感じる体験でした。

新しい働き方、組織、経営のあり方についての新たな潮流が、国内においてどのように生まれ、展開し、そして今、新たな旅路の仲間の登場や海外の実践者とのつながりを得て、どこへ向かおうとしているのか?

本稿をご覧いただいた皆さんにとって、何か1つでもご自身の中に響くものや、感じるものがあれば幸いです。

また、今回の企画を主催されたRELATIONS代表の長谷川博章さん曰く『どんどんお伝えしたいことが増えてきてしまった』ため、今回の企画が第1回であり、今後、第2回第3回も開催予定とのことです。もし興味のある方はそちらもあわせてご覧ください。


今回の視察報告会の背景

RELATIONS株式会社とは?

RELATIONS株式会社は、『会社に生命力を(Exploring a Living Company)』をパーパスに掲げ、コスト改善、組織開発をはじめとするコンサルティングに携わる企業です。

2009年に大阪で創業したRELATIONSでは、10年以上の時間をかけて自らも「ええ会社」になるべくさまざまなチャレンジを行ってきました。

近年、ホワイト企業大賞特別賞の受賞Forbes JAPAN2023年5月号への掲載など注目を集めつつあるRELATIONSは、今年7月に社員4名+パートナー2名で欧州4ヵ国の企業の視察を行いました。

また、上記のような自社内での取り組みやサービスの提供のための探求の背景には、『ティール組織』『ホラクラシー』『ソース原理』といった進化型の企業・働き方を志向する哲学・手法や、国内においてそれらのムーブメントを支えてきた実践者たち存在があったといいます。

今回の視察報告会は欧州企業の事例紹介に加えて、RELATIONSと探求の旅路を共にしてきた株式会社令三社山田裕嗣さんNatural Organizations Lab株式会社吉原史郎さん、NPO法人場とつながりラボhome’s vi嘉村賢州さんも交えた対話が進められ、日本国内における進化型企業の取り組みをいかに広げていくか?といったテーマが扱われました。

進化型組織に関する前提共有

今回の報告会の中では、『ティール組織』『ホラクラシー』『ソース原理』をはじめとする用語や、それらに対する理解を前提に進められているため、上記の3つの用語について以下、簡単に紹介します。

ティール組織(Reinventing Organizations)

『ティール組織』は原題を『Reinventing Organizatins(組織の再発明)』と言い、2014年にフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって紹介された組織運営、経営に関する新たなコンセプトです。

書籍内においては、人類がこれまで辿ってきた進化の道筋とその過程で生まれてきた組織形態の説明と、現在、世界で現れつつある新しい組織形態『ティール組織』のエッセンスが3つのブレイクスルーとして紹介されています。

フレデリック・ラルー氏は世界中のユニークな企業の取り組みに関する調査を行うことよって、それらの組織に共通する先進的な企業のあり方・特徴を発見しました。それが、以下の3つです。

全体性(Wholeness)
自主経営(Self-management
存在目的(Evolutionary Purpose)

この3つをラルー氏は、現在、世界に現れつつある新たな組織運営のあり方に至るブレイクスルーであり、『ティール組織』と見ることができる組織の特徴として紹介しました。

国内におけるティール組織に関する調査・探求は、2016年に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』に遡ります。

ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスに日本人としていち早く参加していた嘉村賢州、吉原史郎の両名は、東京、京都で報告会を開催し、組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。

その後、2018年に出版されたフレデリック・ラルー『ティール組織』は10万部を超えるベストセラーとなり、日本の人事部「HRアワード2018」では経営者賞を受賞しました。

2019年には著者来日イベントも開催された他、『ティール組織』の国内への浸透はその後、ビジネス・経営における『パーパス』『パーパス経営』などのムーブメントの隆盛にも繋がりました。

フレデリック・ラルー氏は、書籍以外ではYouTubeの動画シリーズを公開しており、書籍で伝わりづらかった記述や現場での実践について紹介しています。

ホラクラシー(Holacracy)

ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。

2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)ブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)トム・トミソン(Tom Thomison)によって開発されたホラクラシーは、フレデリック・ラルー『ティール組織』にて事例に取り上げられたことで国内においても実践事例が増えつつあり、RELATIONSもまた実践企業の1つです。

さらに詳しくは、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版書籍の監訳者である吉原史郎さんの記事及び、以下の新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。

ソース原理(Source Principle)

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

2019年の来日時、『ティール組織』著者フレデリック・ラルー氏によって組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって初めて知られることとなったソース原理(Source Principle)。

昨年10月、ピーター・カーニック氏に学んだトム・ニクソン氏による『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』が出版されて以降も、ソース原理(Source Principle)に関連したさまざまな取り組みが国内で展開されています。

今年4月にはソース原理提唱者であるピーター・カーニック氏の来日企画が実現し、システム思考・学習する組織の第一人者である小田理一郎さんや、インテグラル理論・成人発達理論の研究者である鈴木規夫さんとの対談、企画の参加者との交流が活発に行われました。

さらに、『すべては1人から始まる』は日本の人事部「HRアワード2023」に入賞するなど、少しずつソース原理(Source Principle)の知見は世の中に広まりつつあります。

日本での流れに先立ち、ソース原理(Source Principle)が世界で初めて書籍化されたのは、2019年にステファン・メルケルバッハ(Stefan Merckelbach)A little red book about source』のフランス語版が出版された時でした。

その後、この『A little red book about source』は2020年に英訳出版され、2021年3月に『すべては1人から始まる』の原著であるトム・ニクソン著Work with Sourceが出版されました。

現在、国内の一部の実践者の中で海外のソース原理実践者との交流・協働が始まっており、今年7月以降、複数回にわたって同時多発的に報告会も開催されています。

海外企業の視察に至る背景

今回の海外視察は、『すべては1人から始まる』翻訳・監修のお一人である令三社・山田裕嗣さんCorporate Rebelsの協力なしには実現できなかったと、RELATIONSの皆さんはお話しされています。

Corporate Rebelsは今回の視察先の1社であるオランダの企業であり、世界中の進化型組織を実践する企業を調査、情報発信を行っている企業です。

山田裕嗣さんは以前からCorporate Rebelsの企業ケースの翻訳、また、日本企業のケースを英語記事として寄稿する等の協働関係を築いていました。

また、RELATIONSともこれまでにZoom対談オンラインイベント実施等を通じて進化型組織の探求を行なわれていました。

今回、欧州企業の視察を始めるにあたり、RELATIONSは山田裕嗣さんCorporate Rebelsを通じて複数の企業と事前の打ち合わせをオンラインで行い、その上で海外視察に臨んだとのことです。

視察のスタイルは各社に応じてアプローチを変えて行い、ランチを社員の皆さんとご一緒させていただくといった形式のものもあったとのことです。

報告会の構成と企業事例

今回の視察報告会は大きく二部構成で行われ、前半は視察先の企業事例の報告、後半は山田裕嗣さん、吉原史郎さん、嘉村賢州さんらゲストを交えたクロストークセッションが設けられました。

今回、RELATIONSのメンバーが視察に赴き、報告を行ってくれた企業は5社(K2K emocionando、Lancor、P4Qは個別で紹介されなかったため、3社が属しているNER Groupに統一)。

以下、5社について簡単に紹介します。

Viisi

Viisi(フィーズィ)はオランダ・アムステルダムに拠点を置き、住宅ローンのサービス提供及びコンサルティングを行っている企業です。

オランダでは、7年連続で働きがいのある会社1位を獲得した実績を持ちます。

リーマンショックが起こった当時、創業メンバー5人はドイツの大きな銀行にいましたが、『金融機関の崩壊は、組織にいる人たち組織構造が旧態依然としているのが原因ではないか?』という問題意識をもとに設立されました。

「Employee first, Customers second, Shareholders last」というパーパス、「Treat others like you want to be treated.」という黄金ルールも、上記のような背景を反映したものであるとのことです。

組織運営としては、ホラクラシーをベースに置きつつも、ホラクラシーの基となっているソシオクラシー(Sociocracyというプロセスを取り入れ、実践しています。

Xpreneurs

Xpreneurs(エクストレプレナーズ)は、HolacracyOneが開発した組織運営手法・ホラクラシーを提供している企業であり、世界に4社しかないプレミアプロバイダーです。

長谷川さん曰く、欧州においてホラクラシーの提供・普及を行なっていた実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)から紹介を受ける形で、訪問が実現したとのことでした。

Xpreneursはこれまでに50社、2000名以上にホラクラシー導入実績を誇っており、興味深い点としてはソース原理とホラクラシーの相性の良さを感じて探求を進めている最中であるそうです。

Buurtzorg

Buurtzorg(ビュートゾルフ)は、ティール組織の事例としても取り上げられた、オランダ発祥の訪問看護組織です。

実は日本国内にもビュートゾルフ柏一般社団法人Neighborhood Care)が存在し、近年では日本語で閲覧できる記事も増えてきつつあります。

オランダで急成長を遂げるTeal型組織、Buurtzorgの驚きの組織運営

場に関わる皆が「わたしたち」を主語に語る組織【1】~ビュートゾルフ柏へ行ってきました。

ビュートゾルフ:最も急進的な自律型組織

ビュートゾルフ:セルフマネジメントチームにおける7つのロール

ビュートゾルフ:従業員14,000人、管理職0人での圧倒的なエンゲージメント

看護師が本来の仕事である患者へのケアを十分に実現できるようにと、ヨス・デ・ブロック氏(Jos de Blok)によって立ち上げられたビュートゾルフ。

国内で閲覧できる関連書籍としては、ビュートゾルフ・ネーデルラント立ち上げ時にヨス氏と共同したベン・ウェンティング氏とアストリッド・フェルメール氏による『自主経営組織のはじめ方』等があります。

今回の報告会の中では、大切にしたい価値を守るためのKPI(全仕事の62%以上は患者に費やす等)、組織の自己修正(self-correciton)を促す仕組み、ヨスのソースとしての存在感・影響力の大きさ等が紹介されていました。

NER Group

NER Group(ネル・グループ:K2K emocionando/Lancor/P4Q他)は、スペイン・ビルバオに拠点を置く進化型組織へのコンサルティングを行うグループです。

コルド・サラッチャガ氏(Koldo Saratxaga)が2005年にNER(Nuevo Estilo de Relaciones/New Style of Relationships)を目的として掲げ、K2K emocionandoという企業を立ち上げて以降、現在では50社以上が参加する企業グループへと成長しています。

コルド氏を一躍、スペインにおける組織変革の旗手として押し上げたのは、彼がCEOを勤めていた大型バス等の製造企業イリザール(Irizar)を進化型組織へ変革したことでした。

この事例はハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディとして取り上げられ、以降コルド氏の掲げるNERの方針に沿って110社への支援が行われてきました。

Corporate Rebels

Corporate Rebels(コーポレート・レーベルズは、『Make Work More Fun』をタグラインとし、ピム・デ・モーア氏(Pim de Morree)ヨースト・ミナー氏(Joost Minnaar)によって設立されたオランダ・アイントホーフェンの企業です。

あらゆる先進的な取り組みを行なっている企業へ訪問・取材し、動画コンテンツや記事を作成、発信を行なっている他、ハーバード・ビジネス・スクールとの連携・協働、NERやBuutzorg、ホラクラシーをはじめとする経営モデルをコンテンツ化したアカデミー(学習コンテンツプラットフォーム)の運営を行なっています。

先述のようにCorporate Rebelsの創設者の2人と令三社・山田さんは以前から協働関係を築いており、2人の来日時には国内企業への取材のアレンジをされた際のエピソードや、2人のインタビューの方法、特徴などについても報告会の場では紹介されました。

サイボウズコーポレイトディレクションネットプロテクションズ、とかのアポをアレンジしましたけど、そのときはCEOへのインタビューでしたね。ただ中国のハイアールとかだと、現場インタビューとかめっちゃしてましたし、入り方も色々なのかも。

たくさん(企業事例を)見ているので、質問の感度とか切り口がすごくシャープだなという印象はありましたね。CDIの話を聞くときに、「スウェーデンのCentigoだとこうなんだけど、このへんどう?」みたいな質問してたり。

視察報告会中の山田さんのチャットより

また、RELATIONSの長谷川さんとしては特に、プライベート・エクイティ・ファンドKRISOS(クリソース)をNER Groupと共同で設立・運営しているという事例に関して特に熱を持ってお話されていました。

スペイン語で、サナギから蝶へ変容するプロセスを示すという語から名付けられたKRISOSは、ある企業を買収した後、企業再生の中で進化型組織へ変容、従業員に売却するというスキームを構想しており、アカデミックな研究だけではなく企業再生の実践という両輪の実現を行っている点がとても印象的な事例でした。

クロストーク・セッションでの対話

上記の企業視察に関する報告が一段落したところで、ゲストも交えて対話を行うクロストーク・セッションへと移りました。以下、特に印象的だった部分についてまとめています。

進化型組織への変革の痛み・辛さ

クロストーク・セッションの中では、いわゆる海外の先進的な企業においても、その変革・変容の最中には痛みや辛さが伴うことについていくつものエピソードが紹介されていました。

NER Groupに変革を依頼した当時の代表の話
ランチタイムに向かう途中の車で、当時の代表と話した際、「実際にやってみてよかったの?」という問いに対してとんでもない沈黙の後、渋い顔をしながら「よかった」と話されていたこと。しかし、そこに笑顔はなかったそうです。組織の変化の半ばで役員報酬は下がり、自らのエゴに向き合うこととなり、それでも自分は従業員たちや繋がりを大事にできているのか?という葛藤があったとのこと。

『ソウル・オブ・マネー』著者リン・トゥイストのエピソード
リン・トゥイストがあるNGOをティール的にしたという話を聞いた時、その当時は『本当に辛くて辛くて辛くて…仕方がなかった。』と話していたと言います。それに続けて、『それでも、間違いなく言えるのはやってよかったということ。もう一度、組織がかつてと同じような段階に戻ったしても、絶対やるという確信がある』という話が思い出されたと、報告会の途中で嘉村賢州さんが紹介してくれました。

ビュートゾルフの事業承継問題
現在、ビュートゾルフには、ヨス氏の退任及び事業承継問題が発生しているという話がありました。
現在、ビュートゾルフにはタイス氏(Thijs de Blok)、ヨースト氏(Joost de Blok)という2人の息子がいるものの、あるスタッフは「ヨスの退任が現実になったら、それはナイトメア(悪夢)だ」と漏らしました。そして、その言葉が出た時、不穏な空気が流れたと言います。
ヨス氏はビュートゾルフのソースとして絶大な影響力があり、政府との交渉に臨む、看護師が患者に向き合える時間を増やせるようにエッジを守るなど内外に対して尽力してきました。それだけに、彼の退任はどのような変化を生むのか、組織にとって影響が大きい出来事のようです。

このように、先進的な取り組みを行なっているとされる企業・団体もまた、それぞれ立ち止まることなく試行錯誤を続ける旅路の最中であり、『なぜ、そうしたいのか?』となったときに、それぞれの人生の旅路やエピソードに触れることになる、という話題へと移りました。

私たちはなぜ、この領域へやってきたのか?

人生の旅路というテーマに話題が移り、長谷川さんからゲスト、報告者の皆さんへ『私たちはなぜ、新しい組織づくりや働き方といった領域へやってきたのか?』という問いが投げかけられました。

冒頭、そもそもなぜRELATIONSという会社として、海外の進化型組織への視察に赴いたのか、という背景についても長谷川さんは語ってくださっています。

以下、報告会冒頭とクロストークセッション中に語られた内容について、今回集った登壇者の皆さんの探求の背景を抜粋しつつ、まとめています。

RELATIONS・長谷川博章さんの背景

RELATIONSは「会社に生命力を」というパーパスを掲げ、世の中にいる、会社で働いている一人一人が、エネルギーを解放しながら可能性を探求できるような、社会、会社づくりをめざしておられます。

2009年、8人で共同創業したRELATIONS株式会社。本来なら1人で起業し、方針を明確化していくものかもしれないが、創業メンバーの中でも自分がこうしたいというと、関係性が壊れてしまうのでは?という向き合いきれなさ、本当はもっとやりたいエネルギーがあるのに、それを発揮することの恐れもあったと言います。

そういった中でティール組織、ホラクラシー、ソース原理といった探求テーマに出会い、ようやく自分の中でも統合できるような段階を迎えつつあったことに加え、今回のヨーロッパへの視察も実現。

今回の視察報告会は、それら探求テーマを先行して実践されていた方々もお招きしながら、海外からの知見も一緒に探求することも願いつつ、企画されたとのことです。

Natural Organizations Lab・吉原史郎さんの背景

吉原史郎さんの背景には、神戸大学経営学部での学びと、事業再生のためにファンドとして赤字リゾートホテルの経営に取り組んでいたことが大きく影響されていました。

神戸大学経営学部は哲学と繋がりながら経営を見ていく独自の文化があったことと、120名の仲間がいるホテルの再生の際に現場の声や痛みに耳を澄ますことや、一人ひとりの仕事のやりがいに寄り添うことといった経験が、フレデリク・ラルー氏の書籍を読んだときに繋がったと言います。

それ以来、この領域での探求が始まり、なぜフレデリックはこの言葉を使ったのか?なぜ、この手法や哲学は生まれたのか?といった問いがどんどん湧いてきては、独自の探求を進めて来られました。

現在に至るまで、あるコンセプトや手法・哲学を生み出した本人や源泉に触れること、海外の歴史・文化の違いを意識しながら、書籍の出版英語記事の寄稿および共著での出版、ホラクラシーのライセンスの取得及び新訳版書籍の監訳ソース原理の探求等に取り組まれてきました。

場とつながりラボhome's vi・嘉村賢州さんの背景

賢州さんの探求の背景は、彼の持つ発達凸凹と呼ばれるような生きづらい、社会に適応しづらい特性にあったと言います。そして、どうやったら一人ひとりが本当にその人らしい人生を生きられるのか?唯一無二の個性を活かしあいながら化学反応ができるとはどういうことか?という問いから賢州さんの探求が始まりました。

上記の問いをもとにチーム、プロジェクト、コミュニティといったテーマからファシリテーション、場づくりに出会い、2008年に場とつながりラボ home’s viを創設

組織変革の場づくりやまちづくりの場で、一部の会社の社長・経営者が集まって考える、まちづくりだと市長や企画部門、有識者が話すのではなく、関係する人々が一堂に会する対話の方法論の探求と実践に取り組んで来られました。

しかしある時から賢州さんは、折角いい対話が生まれても次に繋がらない、働いている人の本当に多様な個性を生かせていない、と感じるように。それはヒエラルキーという組織構造が阻んでいるのではないか?人類は組織の作り方を間違えたんじゃないか?という問いに突き当たり、そういった中で出会ったコンセプトが「組織の問い直し」、そしてフレデリック・ラルー氏の「Reinventing Organizations(組織の再発明)」でした。

これは次の未来に来る、と確信したこと。そして、「本当に人を信じる美しいアプローチであり、方向性」だということに魅せられて以降、それをもっと探求したい、実践する人々を応援したいと思って活動を続け、今に至るとのことです。

日本における進化型組織の今後の展望・方向性は?

クロストークセッションの終盤、海外の視察報告や事例検討からこの問いに行き着いた際、『日本から海外への発信』について、山田裕嗣さんからお話を伺う流れとなりました。

以下、山田さんの探求に至る背景と『日本から海外への発信』について、イベント中に語られた内容から再構成してまとめています。

令三社・山田裕嗣さんの背景

山田さんは自身もITベンチャー経営を5年間経験された後、ITベンチャーの急成長を目指す、いわゆるピラミッド型、ファンクションに分けた組織構造じゃない、もっとより良いやり方はなかったか?と自身を振り返ることがあったと言います。

その後、実践者としての自分とより良いやり方・アイデアを探す探求者としての自分を意識しつつ、現在は本当に実践したい方が増えていくためにはどうすれば良いか?世界中で進化型組織も今後増えていく中で、日本ではどのような役割を取ろうか?ということも意識しながら活動に取り組まれているとのことです。

特に、『日本から海外への発信』については先述のホラクラシー実践者・クリスティアーネの存在や2018年のNext Stage Worldでの出来事が原体験だと、今回初めて伺うこととなりました。

2016年には嘉村賢州さん、吉原史郎さんらが参加していたNext Stage Worldですが、2018年では山田さんが唯一の日本人(東洋人)参加者であったといいます。

ヨーロッパの人々と対話する中で、彼らは日本のトヨタやカイゼンについて知ってくれており、リスペクトもしてくれるものの、その後の40〜50年の日本の実践や挑戦が一切伝わっていないことに山田さんは気づきました。

世界が前に進もうとしているのに、日本の実践は世界に伝わっていない。日本人として世界に貢献できていないのは、怠慢じゃないか。もっと世界に日本の事例を知ってほしい

このような原体験を経て、その後Corporate Rebelsの取り組みに触発された山田さんは日本企業を40社ほど訪問し、それらのケース記事の発信と英語翻訳、Corporate Rebelsへの寄稿も始めたとのことでした。


なお、このストーリーには続きがあり、実際に英語圏への発信によって生まれたアクションも山田さんは紹介してくれました。

それは、株式会社ゆめみの記事を英語でCorporate Rebelsに寄稿したことで、スペインのbasetis創業者マーク氏(Marc Castells)と、ゆめみCEOの片岡俊行さんを引き合わせることができた、ということでした。

先月末にスペインのbasetisという400名規模の会社のCEOが日本に来て、ほぼ同じ規模で近い事業をやっているゆめみさんの代表にお引き合わせしたんですが、「こんなに近い感覚で話ができる相手が居て嬉しかった」って喜んで帰っていったんですよね。

視察報告会中の山田さんのチャットより

さらに、違う言語・文化圏の人々と対話することについて、山田さんは以下のように続けてくれました。

まず、(日本企業の事例の英語での)発信、少ないですよね。この領域のことをまず、「英語で発信しよう」とは発想しない。知ってもらうと、やり取りできるじゃん。発信してみるとリアクションが来て、面白い。そこから学べることが増えるといいな、と思ってやっています。

(海外の)彼らに発見があると、また面白がってくれる。日本人だと当たり前すぎる前提に、彼らは問いを立ててくれるんですよ。それは、僕らじゃ問いが立たないんですよね。

CDIに伺った時、当時の代表の石井光太郎さんが始まって3分くらいで「会社とカンパニーは違うんだよ」って言い始めて。「カンパニーは人の仲間のつながりであって、会社は真ん中に「社」があるんだよ」って言い始めて。これ、どうやって訳すんだ?って思いながら(笑)そこで思想が違うと、20分くらいかかったんですけど、言ってることはなんとなくわかってきたって言ってくれたりとか。

一方で、「具体の実践の仕方はスウェーデンのcentigoにすごく似てるね」って言ってるんです。そこには、レイヤーの違う面白さがありますよね。違う文化の違う言語の人と対話をすると見えてくるものがある。そこに意味があると思っています。こんなふうに、発信したら返ってくるというのは個人的にもすごく楽しんでやっています。

最後に、イベント途中ではあったのですが、今後の日本国内における進化型組織の探求・実践につながる長谷川さんの言葉を紹介して、このまとめを終えていければと思います。

それは、参加者の方からの『視察を通じて、皆さんは総じてどのような感情になりましたか?』という問いに長谷川さんがお話されていたものです。

結構、勇気づけられた感じはあるんですよね。 ヨーロッパでは進化型組織の数が多く、実践も進んでいて、メインストリームじゃないにしても、日本よりも一般化されているというイメージを持っていたんですね。

でも、実際に行くと「俺らもまだまだ知られていないからね」とすごくフランクに入っていく感じがあって。でも、「会ったらもう同志だから、一緒にこの取り組みを広げていこうよ。」というノリが皆さんにあるんです。

そして、そこには自分たちが日々触れられないノウハウ、彼らの実践、思いがある。そういうのに触れた時に、すごく、一緒にもっと広げたいなという思いが出てきたというか。

彼らも彼らで日本の取り組みをもっと知りたがってますし、興味津々に聞きたがってくれる。もしかしたら、ヨーロッパの方には文化風土的に理解しづらい部分もあるかもしれませんが。

現地で触れたものを今後また日本に持ち込めたり、一緒に繋がっていける可能性が、視察を経た今はいくつもあるのですごくワクワクしますし……それらをまた日本に繋げたいという思いは、すごくありますね。

※読みやすさのため、筆者による再構成をした部分があります

次回以降の視察報告会

9/12(火)進化型組織の最前線 欧州の進化型企業を訪ねて 〜欧州7社の実践知から組織の未来を探求〜

第2回は、ホラクラシーおよびソシオクラシーに焦点を絞り、RELATIONSの共同創業者・高橋直也さんとパートナーである石井宏明さんに話題提供いただく予定です。

9/19(火)進化型組織の最前線 欧州の進化型企業を訪ねて 〜欧州7社の実践知から組織の未来を探求〜

第3回は、令三社の山田裕嗣さんとティール組織解説者の嘉村賢州さん、実際に視察に同行したRELATIONSパートナーの黒田俊介さんと共に、進化型組織の抜本的な変容を伴走支援するNER Groupに焦点を絞った報告および話題提供が行われる予定です。

さらなる探求のための関連リンク

ゆるやかに広がるソース原理「すべては1人からはじまる」出版から現在地までを振り返る

レポート:嘉村賢州がギリシャとスイスで学び・探求してきたことを分かち合う報告会【第2回 ティール組織ラボ ゆるトーーーク】

ソース原理基礎講座 番外編 ソース原理の源を訪ねて ~日本人旅行記~

吉原史郎さんにステファンワークショップについて聴いてみよう!の巻

「日本における新しい組織」の理想のあり方とは。【対談】令三社 山田裕嗣さん

自律型組織(ホラクラシー)の社内ミーティング、まるごと見せます。オンライン見学ツアーを随時開催中!


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